ミッドライフ・クライシス -占星術と歩く中年期の危機-(back)
ミッドライフ・クライシス
-占星術と歩く中年期の危機-
第1回(2025.07.10)
中年とは第二の思春期
人の一生にはいくつかのステージがあります。人生の中で若さやエネルギーにあふれ、さまざまな経験を通して成長する時期といえば思春期でしょうか。
思春期とは十代後半の自我の目覚めとともに、一人の人間として自分を確立しようとする時期を指します。
この時代は言い換えれば「青春」真っ只中です。心と体にも変化が訪れ、目前に広がる未来に心が躍る。と同時に自分に自信が持てず、傷つきやすく精神的に不安定になったりします。
また友情や恋愛を通じて多くの感情を味わい、自分自身を見つける大切な時期でもあります。親から独立したいという自立心も芽生えます。その過程では、逆に親に対する依存心も強くなり、心が揺れることもあるでしょう。やがて私たちは「自分とは何者か」ということを模索していく。そして思春期の子供たちは、社会や親、友だちの影響を受けながら、アイデンティティを確立していきます。
ではこの思春期を抜けたら、私たちは立派な大人になれるのでしょうか。
実は私の四十代は、激動そのものでした。二十代前半に占星術と出会い、若さゆえの情熱でロンドンにある英国占星術協会の門を叩きました。帰国後、ロンドンで学んだ心理学をベースにした占星術を日本に紹介しようとしても、何のつてもなく不安な日々を過ごしました。それからいくつかの出会いがあり、最初の書籍を出版できたのは29歳でした。二十代後半はアルバイトに明け暮れる日々で、人生最高に暗かったと記憶しています。
三十代は雑誌創刊ブームの波に乗り、数々の女性誌の連載を任されることになり、気がつくと原稿料だけで生活できるようになっていました。そして三十代も終わりに近づく頃、「いつも真夜中まで仕事をしている。星座や惑星についての文章を書きながら、実際の星を見ていない」と思い至ります。遠い遠い宇宙の彼方から、「このままでいいのか」と声が聞こえたような気がしました。
「サハラ砂漠で満天の星を見てみたい」と思い立ったのが、運命の新しい扉を開くきっかけになりました。モロッコにある砂漠に魅了され、イスラム圏という異文化にもみくちゃにされるうちに、アラビア語の必要性を感じて学校に入り直し、アラビア語漬けの日々を数年過ごすという……。その間は今までの価値観がひっくり返るような経験をいくつもしたものです。今となってはこの激動の時代を懐かしむ余裕もありますが、中年期に直面したさまざまな出来事が、血となり肉となって自分を支えてくれているような気がします。私の話はこのくらいにして、本題に戻りましょう。
学校を卒業し初めての仕事に就き、恋をして結婚する人もいます。現代では思春期のままモラトリアム状態となり、定職に就かないまま人生を模索し続ける人もいます。また時代の影響を受け、仕事を得るのに困難を極めた就職氷河期世代の人もいるでしょう。
やがて「不惑」と呼ばれる四十代が近づく頃、どの人にも等しく人生にはさまざまな変化が訪れます。「不惑」とは数え年で40歳を指す言葉です。孔子の論語に由来し、この年齢になると迷いや悩みがなくなるとされてきました。孔子の生きた時代とは違い、現代では寿命も延び、選択肢の多さがかえって私たちを苦しめます。逆に不惑の年を迎える頃、私たちは「この人生で本当によかったのか」「もっと別の人生があったのではないか」などと悩むことになります。
このように四十代から五十代前半にかけて経験される心理的・感情的な不安や葛藤を「中年期の危機(Middle Age Crisis もしくはMidlife Crisis)」と呼びます。この時期、人は自分の人生の意味、限界、社会的な達成、老い、そして死などについても深く考えるようになり、強い焦りや不安を覚えるような出来事が起こります。
人生の折り返し地点が来たような気がして、自分のこれまでを見直し始める人もいるでしょう。ふと鏡を見ると、そこには外見の変化も見てとれる※。二十代、三十代に比べて体力が低下し、夜更かしした翌日には肌の張りもなく、白髪や皺を見つけて落ち込んだりすることも……。
人間関係にも変化があります。あんなに仲の良かった友だちとも、いつしか疎遠になってしまい、パートナーとの関係も見直さざるを得ないような出来事が起こります。子どもの独立や反抗期と自身の中年期が重なる人も多いでしょう。
仕事では部下や後輩についての悩みも増えます。今までの仕事のやり方が通用しなくなり、やりがいを失う人もいれば、転職を本気で考える人もいそうです。
もちろん悪いことばかりではありません。今までのキャリアを生かして独立を果たしたり、重要なポストを任されて身の引き締まる思いがする人もいるはず。また四十代になってから、全く新しい分野の仕事に挑戦したくなったりするかもしれません。
いずれにせよ、中年期は変化の時代であることは間違いありません。この時期に突発的な行動に走るというのも、よくあることです。いきなり高級車を買ってみたり、洋服の趣味が変わったり、一人旅に出たくなったりします。
不倫に走る人もいれば、長年の夫婦生活に終止符を打ち、離婚を決意する人もいるでしょう。また独身を貫いてきた人が、突然、結婚するというパターンもあります。新しい趣味を始めたり、習い事に没頭したり、「推し活」に目覚めるひともいます。
「四十にして惑わず」とは、孔子の論語からの言葉と前に書きましたが、現代の40歳は、ある意味、惑いっぱなしなのかもしれません。人生で光り輝いているのは、何も青春時代ばかりではありません。まるで微熱を帯びたように人生を彷徨(さまよ)うこの特別な期間は、第二の思春期なのではないでしょうか。
「中年期の危機」をネガティブに捉える必要はありません。むしろそれは人生を再評価し成長する機会であると捉え、楽しんでみてはどうでしょう。適切に向き合えば、この特別な期間を、より充実した後半生の始まりにすることができるはずです。
天王星のサイクルと中年期の危機
星座占いでおなじみの占星術、とりわけ私が学んだ心理占星術では、天王星という惑星のサイクルを基に、どの人にも等しく、人生を再調整せざるを得ないような社会的、または内面的な危機が訪れると説きます。
天王星の公転周期は84年。太陽の周りを移動するのに84年かかります。本格的な占星術では、その人の生年月日、出生時間、出生地を基にバースチャート(出生図)を作ります。その人が40歳から42歳の間に、天王星はバースチャートの元々の位置と真反対になります(たとえばある人の出生図の天王星の位置が天秤座の10度の場合、天王星は正反対の牡羊座の10度まで進む)。それをウラヌス・ハーフリターン(天王星の半回帰)と呼び、重要視します。
このウラヌス・ハーフリターンは、心理学者ユングが「中年期の危機」と呼んでいる心の発達の危機と符合するのです。
ユングは人生を二つの大きな段階に分けて捉えています。
人生の前半(中年期以前):
社会的な自我(ペルソナ)を築く時期。外の世界での成功、地位、家族、社会での役割を追い求める
人生の後半(中年期以降):
内的な自己と向き合う。無意識との対話。生きる意味を探究する。精神的、霊的成長の時期。
ユング心理学でいう中年期の危機とは、「人生前半の価値観が崩れ、無意識の声が聞こえてくるとき」を指します。中年期を単なる人生の倦怠期や気分の落ち込みではなく、「個人が真の自己(セルフ)と向き合い、精神的変容を遂げるチャンスを秘めた時期」と捉えているのが特徴です。
天王星はギリシャ神話の天空の神・ウラヌスと関係づけられています。1781年、近代天文学の父と呼ばれるW・ハーシェルによって発見されました。天王星は現状を打ち破り、あらゆる規制や束縛から自由になろうとする心の欲求を表します。天王星が自由と革命の星と呼ばれるのはそのためで、発明や独自性とも関わります。
天王星が出生図の位置とオポジション(真反対、180度の角度)をとると、それまでの人生で生かすことのできなかったパーソナリティの劣っている部分や、使ってこなかった心の機能が、まるでパンドラの箱を開けたかのように飛び出してきます。それこそユングのいう「無意識の声が聞こえてくる」時期なのです。
ではそれぞれの人の「パーソナリティの劣っている部分」とか「使ってこなかった心の機能」とは一体何なのか。それを具体的に知ることで、この不安定でありながら魅力的でもある「中年期の危機」を、やみくもに恐れずに迎えることができるのではないでしょうか。
それには本格的な出生図を作る必要があります。最近ではネット上に無料のホロスコープ作成サイトがあるので、一度、作ってみるとよいでしょう。巷の星占いでは、出生時の太陽の位置を基に誕生星座とします。春分の日以降、4月下旬までに生まれた人は、どの世代であっても「牡羊座生まれ」となります。ところが自分のチャートを作ってみると、出生時の太陽だけではなく、月や他の惑星の位置までもが記されていることがわかります。
Astrodienstの無料ホロスコープ作成サイト
https://www.astro.com/horoscopes/ja
第2回目の連載では、第47代アメリカ大統領、ドナルド・トランプのバースチャートを参考に、心理占星術でいう心理タイプの出し方を説明します。それによってあなたが中年期に取り組むべき課題が見えてきます。
また第3回目からはケーススタディとして、さまざまな方にインタヴューをし、中年期の危機を迎えて起こる出来事をその人独自のストーリーとして紹介。きっと回を重ねるうちに、第二の思春期とも思えるミッドライフ・クライシスにどう向き合うか、そしてそれをどう乗り越えていくかが見えてくると思います。
「中年期の危機」というテーマは、何も40歳から42歳の人限定というわけでもありません。これから四十代を迎えようとする人、また既に四十代前半は過ぎたが、いまだにこのテーマと向き合い続けている人、五十代でありながら「自分にとっての中年期の危機とは何だったのか」を探ってみたい人、また六十代以上にとっても自分の人生を振り返り、精神的に豊かなシニア時代を生きるための一助となるでしょう。
第2回(2025.08.14)
どの人にとっても等しく訪れるという「中年期の危機」。ですがやはり知りたいのは「私にはどんな心の危機が訪れるのか」でしょう。
それにはまず生年月日、出生時間、出生地のデータからバースチャートを作る必要があります。心理占星術では個人の出生図(バースチャート)を基に、星座や惑星のシンボルを用いて、あなた固有の物語を読み解こうとします。まずあなたがどんなタイプの人間なのか。性格や気質、ものの考え方や対処方法などを調べます。それによって中年期に対峙するべき問題が見えてきます。それでは心理占星術と、心理学者ユングの「タイプ論」を照らし合わせながら、具体的に説明していきましょう。
心理占星術とユングのタイプ論
「無意識の心理学者」として知られるユングが、珍しく日常の意識世界について研究した『タイプ論』という著書があります。そこでユングは人間の心理について、Intuition(直観)、Sensation(感覚)、Thinking(思考)、Feeling(感情)という4つの機能をあげています。簡単に説明すると、
Intuition(直観機能)―五感を超えた閃きや第六感、つまり総合的な直観力で判断する働き。
Sensation(感覚機能)―現実に存在するものを五感でとらえ、快・不快で判断する働き
Thinking(思考)―情感よりも論理を重んじ、合理的に正しいか、間違っているかで判断する働き。
Feeling(感情)―論理よりも情感や雰囲気を重んじ、好ましいか嫌いかで判断する働き。
こうした4つの心の機能は、だれもが持っているものです。ただし人によって機能の強い弱い、得意不得意があります。日常生活では自分に合った機能を使った方が、何事もうまくいくので、ついそればかりを使っているうちに、残りの機能は磨かれずに、無意識の中に置き去りにされてしまいます。
それが人生の後半にさしかかると、今までの人生であまり生かされなかったパーソナリティの劣った部分や、使ってこなかった心の機能を意識せざるを得ないような出来事が起こります。それこそがミッドライフ・クライシスです。
また自分と似たタイプの人とは、自然とコミュニケーションがうまくいくでしょう。しかし自分の中で最も未発達な機能を得意とするタイプとは、なかなかしっくりいかないし、不愉快な思いをすることも多いのです。それは心理学でいう「投影」という作用で、自分の苦手な機能がシャドウとなり、相手にその影を投げかけてしまうことから起こります。中年期になるとなぜか苦手なタイプとつき合う機会が増え、人間関係で悩みが生じることも多くあります。
ユング心理学も心理占星術も、人間を4タイプに分類して、単純に相性の良し悪しを判断するためのものではありません。全く違うタイプの人との関わりの中から、相手と衝突したり葛藤したりしつつ、自分の心の未発達な機能を自覚していく……。むしろそれが、人間をより成長させることにつながるのではないかと思います。
自分の心がどの機能に強く支えられているかを自覚することで、自分のみならず他人への理解も深まります。また自分が苦手とする、あまりうまく使えない機能を知ることは、中年期に勃発するさまざまな問題を理解し、解決する上で重要な鍵となるでしょう。
占星術の4元素とユング心理学による心の4機能の対応関係
それでは占星術でいう火・地・風・水の4元素と、ユングのタイプ論で分類される4機能がどのように対応するかを見ていきましょう。
火のエレメント(牡羊座・獅子座・射手座)は、直観機能に対応
古代人はこの3星座を象徴するものとして、「火」を選びました。火は赤々と燃えてすべてを焼き尽くす。勢いのよさや情熱、潔さが共通してみられるのが火の星座です。
出生図で火の星座に惑星が多いと、勇気があってエネルギッシュ。自己主張が強く、温かい気質の人物となります。怒りで感情を爆発させることはあっても、人と感情レベルで心を通わせることは苦手です。
火のエレメントは、ユング心理学でいう「直観機能」に相当します。物事の判断はいうなれば第六感・総合的な直感であり、未来志向のものの見方が特徴です。対極に位置する地・感覚タイプとは違い、事実や現実にあまり目を向けず、常に新しい世界や可能性を求めます、全体的に物事をざっくり見る傾向が強いので、細部を見落としがちな点は否めません。先の見えないことに、情熱をかきたてられるのが特徴です。
直観機能の背後には、隠された地のエレメントがあります。それを心の中で抑圧しすぎると、中年期以降、突然お金や社会的地位にこだわって俗物化することも。この世の現実と向き合うために、感覚機能を磨く必要がありそうです。
●出生図で火のエレメントが欠けている人へ
火の要素が欠けていたり、少ない場合、火が喚起する情熱や勇気が欠如してしまいます。人生そのものに対する不信感を持つ人もいます。自分に対する自信を取り戻し、自らの存在価値を信じる必要性があります。スポーツや肉体的鍛錬を伴う精神修養、勝ち負けを競うゲーム、またはセラピーや夢分析などによって、眠れる火のエネルギー、つまり直観機能を活性化させることです。
地のエレメント(牡牛座・乙女座・山羊座)は、感覚機能に対応
地の星座は、現実の形あるものに重要性を認めます。堅実で実際的、そして地に足がついています。必ずしも物質主義的ではありませんが、通常、現実に適応して、心地よい生活を送る術を心得ています。
出生図で地の星座が強調されると、目で見たり、触ったり、聞いたり、つまり五感から入ってくる情報に敏感になります。五感で体験したことが血肉となって独自の考え方が生まれます。注意深く、保守的でもあるのは、「未来の100万円より手中の1万円」を大切にするからでしょう。
地のエレメントは「感覚機能」に対応。物事の判断基準は理屈や感情ではなく、快・不快、つまり五感を通じた感覚で決まります。対極に位置する直観タイプのように、先の読めないことにワクワクするというより、目に見える結果を欲しがるのが特徴です。何でもよく見たり、触って確かめた上で初めてゴーサインを出すので、行動面で慎重、鈍重という評価は否めません。
感覚機能の背後には、未熟な火のエレメントが眠っています。自分の心の奥に眠る直観機能に目をむけないと、普段は現実的な判断をする人が、突然怪しげな宗教にハマったりすることに。五感を超えた世界への理解を深めることが、あなたの人生を豊かにするでしょう。
●出生図で地のエレメントが欠けている人へ
地の要素が欠けていたり、弱い場合、努力を積み重ねて成功するというイメージが持てず、忍耐力が欠如しています。才能はあってもそれに見合った業績を残しにくいのも特徴です。作家になりたいが、どうやって書いたらよいのかがわからないという悩みを抱いたりします。経験やアイデアを形にしていく、仕事や金銭に結び付けていく、つまり具体化する術を学ぶ必要があります。また地が欠けていると身体感覚が希薄で、ギリギリになるまで体調不良に気づかない人もいます。五感を通じた楽しみを見つけ、感覚機能を磨く必要があります。
風のエレメント(双子座・天秤座・水瓶座)は、思考機能に対応
風は音が伝わるための媒体であり、あらゆるものを結びつけます。目には見えないけどどこにでも存在する風のエレメントは、思想の世界や通信、コミュニケーションと関連しています。
出生図で風の星座に惑星が多いと、客観性があり、物事や状況を外から眺め、感情を交えずに描写することができます。性格的にはあっさりとしていて、クールな印象。好奇心が旺盛で、情報や知識の吸収に熱心です。
風のエレメントは、タイプ論でいうと「思考機能」に相当します。物事の判断基準は、情感よりも論理を重んじます。世の中で起こっていることや自分が経験したことなどを、ある一定の枠組みでとらえます。対極に位置する水・感情タイプとは違って、どこか超然としていて、物事に感情移入したりしません。「知ること」「考えること」自体が楽しみなので、いろんな知識が宝の持ち腐れとなっている場合も。
思考機能の背後には、未発達で荒々しい感情が渦巻いています。人との感情的な交流を心の中で抑圧してしまうと、中年期を過ぎてから、突然恋に落ちていつもの冷静さを欠き、相手を怖気づかせてしまうかもしれません。自分の中に潜む情感や心の揺れのようなものに、もっと目を向けることが必要です。
●出生図で風のエレメントが欠けているひとへ
風の要素が欠けていたり、少ない場合、その場の状況から一歩離れて、それを客観視する能力が欠如しています。冷静さを欠いているので、すぐパニックしやすいのも特徴です。物事から距離を置いた俯瞰図の視点を持てるよう、努力するべきかもしれません。また風が少ないと、言いたいことを言語化する能力が弱く、知的コンプレックスを抱くこともあります。こういった弱点を補うには、読書やスピーチなどを通じて、知的コミュニケーション能力を高めることです。
水のエレメント(蟹座・蠍座・魚座)は、感情機能に対応
水は流動的な液体で、うるおいをイメージさせます。水の星座の特徴は、豊かな情感にあります。言葉よりも、その場のムードや相手が醸し出す雰囲気を、フィーリングでとらえます。
出生図で水の星座が強調されると、感受性が豊かで、人の気持ちに感応しやすくなります。個人的な人間関係を大切にする一方、人の好き嫌いは激しい。非論理的で客観性に欠けるところがあります。
水のエレメントは、ユング心理学でいう「感情機能」に相当します。物事の判断基準はフィーリング、つまり自分の価値基準に基づき「好き」か「嫌いか」で判断します。また言葉にならない微妙な感情をとても大切にします。対極に位置する風・思考タイプとは違って、行動する基準が論理的に正しいかどうかではなく、相手が喜んでくれるかどうかだったりします。ともすれば親切の押し売りや、対人面でのえこひいきをもたらす場合も。
感情機能の裏側には、未熟な思考機能がひそんでいます。精神的に追いつめられると、本やニュースの受け売りでヘタな理屈をこねたりしがちです。または適当な理由をつけて議論を終わらせて、自分の世界にこもるという常套手段もあります。心の中に埋もれている論理性や客観的なものの見方を鍛えていく必要があるでしょう。
●出生図で水のエレメントが欠けている人へ
情感豊かな水の要素が欠けていたり、少ない場合、自分自身や他人の感情に無頓着になってしまいます。人との会話の中で言葉にならないニュアンスを理解できず、鈍感で冷たい人と後ろ指を指されることもあるでしょう。あまりにも合理的で愛情に欠けているので、努力して感情機能を育てて行く必要があります。演劇関係のワークショップに参加したりするのもいいし、心理セラピーが役に立つ場合も。また大人になってからの恋愛が、未熟な感情機能を磨くよいチャンスを与えてくれるかもしれません。
自分の心理タイプを調べる
表①の火地風水の4エレメントと、ユング心理学の心の4機能の対応を見て、「私は牡羊座生まれだから火の星座で直観タイプ」と判断するのは早とちりというもの。前にも述べたように、「直観・感覚・思考・感情」という心の働きは、本来すべての人が備えているものです。
私たちは何か物事を決めるとき、また人づき合いでも、知らないうちに「直観・感覚・思考・感情」の4機能を使っています。ところがだれにでも得意な機能と不得意な機能があり、最終的には自分にとって一番なじみのある、得意な機能で物事を判断します。
あなたにとってどの機能が得意で、またどの機能がうまく使いこなせないかを知るには、単に太陽星座(通常〇〇座生まれと言われるもの)だけではなく、出生図をちゃんと調べて判断する必要があります。
実際の心理タイプの調べ方は、第47代アメリカ大統領、ドナルド・トランプ氏のバースチャート(出生図)をもとに説明してみましょう。
トランプ氏のチャートから、ホロスコープに必要な太陽、月、水星、金星、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星の10惑星が、火地風水のどのエレメントに分布しているかを調べます。表②のトランプ氏の心理タイプデータを参考に、各惑星が何座に位置しているかを見てみましょう。
また表③を参考に、トランプ氏の心理タイプのバランス表を作成してみました。
このバランス表を見ると、トランプ氏のエレメント別惑星配分には特徴があります。まず地の星座(感覚機能に対応)に惑星がひとつもありません。地道にコツコツと物事を積み上げていく能力が、著しく欠けています。10個の惑星のうち、4つが風の星座(思考機能)にあります。合理的に物事を割り切って考えることは得意なようです。特に双子座の太陽は情報収集に長け、広く浅く知識を吸収しますが、飽きっぽいところがあり変わり身の早さも特徴です。
また火の星座(直観機能)に3つ、水の星座(感情機能)にも3つ惑星があります。太陽の次に重視する月は火の星座の射手座にあるので、直観機能の働きも優位にあると考えてよいでしょう。少し専門的になりますが、双子座22度にある太陽と射手座21度の月は正反対に位置しており、トランプ氏が満月生まれであることを示しています。そもそも双子座も射手座も二重性の宮と呼ばれ、自分の中に相反する性質を抱えています。双子座と射手座で作る満月生まれの人は、自分の中に相反する別人格、もしくは極端な二面性を抱える傾向があります。
思考機能と直観機能を使いながら、人生を渡り歩いていくタイプと言えるでしょう。そして親しい人間関係の中では、思考機能を押しのけて「好き」か「嫌いか」で物事を判断する感情機能が優位になることもありそうです。なぜならコミュニケ―ションを司る水星や愛情に関わる金星が、水の星座である蟹座に位置しているからです。蟹座は自己防衛本能が強い星座で、人間関係を「味方」か「それ以外」ととらえる傾向があります。
たとえば思考機能で合理的かつ論理的に政策を進める過程で、ふと感情機能が優位になり、外交面などでは「味方か」「それ以外か」で状況を判断するという、不可解な二面性があるようにも思われます。
中年期は既に過ぎているトランプ氏ですが、出生図に地の星座がゼロという結果を見るにつけ、人生後半のテーマは「地に足のついたビジネス展開」だったり、行き当たりばったりではなく長期的展望に立ち、地道に結果を積み重ねていくことだったりします。また地の星座が欠けている人は身体感覚が鈍いので、自分の肉体の声を聴くことも健康の秘訣になります。
ちなみにトランプ氏の出生図の天王星は、双子座17度に位置しています。前章でミッドライフ・クライシス(中年期の危機)は、天王星が出生図の反対側まで移動する時期に符合すると書きました。トランプ氏の場合、天王星が出生時の真反対となる射手座の17度近辺に進んだのは1986年前後です。当時、トランプ氏は異業種進出を図り、アメリカンフットボールチームのオーナーに収まったり、航空会社を買収したりしています。42歳で最高級ホテルのひとつ「プラザ・ホテル」を買収するも、その後徐々に財政的苦境に陥り、経営していたカジノやホテルも倒産、離婚訴訟など、まさに中年期の危機と呼べるような数年間を過ごします。
さてここで紹介してきた心理タイプの調べ方は、どの惑星も同じポイントとして計算したものです。実はこの方法には少し無理があります。出生図(バースチャート)で最も影響力を持つ太陽と、ひとつの星座を十数年もかけて運行する冥王星(個人というよりもむしろ、世代や時代に影響を及ぼす)では、その効力は違います。
そこで太陽や月を最大の影響力をもたらすものとし、次に地球に近い惑星から順々に、点数にカーブをつけていく方法があります。
占星術を長く勉強している人は、トランプ氏の心理タイプのバランス表を見ただけで、風の星座=4ではあるものの、トランプ氏と同世代に生まれた人は必ず、天王星や海王星が風の星座にあることを知っています。数値としては思考機能が最大ではあるものの、月や火星といったパーソナルな惑星が占める火の星座の直観機能と拮抗していると読めるかもしれません。
そこで初心者の方には、各惑星のポイント表を用意しました。このポイント表を基にトランプ氏の心理タイプを探ったものが表⑤になります。
まさに直観機能と思考機能は共に9点となりました。「思考タイプ」とも「直観タイプ」とも読めます。この判断は少し専門的になりますが、地の星座に惑星がひとつもなく感覚機能が未発達な場合、その対極にある直観機能が際立ちます。となるとトランプ氏は直観機能や優位な「直観タイプ」と言えるかもしれません。先に書いたように、満月生まれの人は自分の中に相反する“もう一人の自分”がいます。そう考えると2つの機能が優位なタイプと読んでもよいでしょう。
では最後に、心理タイプを調べるときの基本的な注意点を挙げておきます。
次回からはケーススタディが始まります。中年期の危機をテーマに、さまざまな方にお話を伺い、その人独自の物語を占星術的な解釈を加えて紹介していきたいと思います。
第3回(2025.09.17)
ケーススタディ 1
真面目な性格なのに、なぜか怒涛の恋愛ループを繰り返してしまう
山羊座のAさんがたどり着いた居場所
Aさんの心理タイプデータ


友人の後輩としてAさんを紹介されたのは、彼女がちょうど30歳を迎えるころでした。大学を卒業し22歳で大手アパレル会社に入社し、スカーフや傘などを扱う洋品部門に配属されたそうです。ちょうどその頃に制定された男女雇用機会均等法にならい、彼女は男性社員と同じように営業職として6年間働き、充実したOL生活を送りました。
「でもその6年間は準備だと思っていました。文化的な素養がある父親の影響でしょうか。アパレル会社を退職後は編集者を養成する専門学校に通い、そこの先生たちのアドバイスを受けながら、女性が社会進出するための“学校”を主催、運営することになりました。その“学校”では著名な文化人、作家などを講師に招きました。それが話題となり、某新聞社やラジオ局などの取材も受けました。あ、経営的にも赤字を出さずにちゃんとやっていたんですよ」
それはすごい……。高身長で筋肉質なAさんの第一印象は、頑張り屋のキャリアウーマンのように見えました。予想に反して占いが大好きというAさんは続けます。
「山羊座って地味な星座ですよね、生真面目で。物心ついたときから喘息がひどくてしょっちゅう入院していました。子供らしさを育む前に社会性を身に着けざるを得なかった。私は母親の顔色をいつもうかがっているような子どもでした。なぜなら母に優しくされた記憶がないんです。いきなり理不尽に怒って口をきいてくれなかったり、気に入らないことがあると“あっちに行け”と言われたり。いつも母親に認められようと必死でした。会社を辞めた28歳~31歳は、燃え尽き症候群でしたね。当時、ド失恋もして、そのたびに占いばっかりやっていました」
ずいぶん雲行きが変わってきました。そこからAさんの怒涛の恋愛ループ話が始まります。
確かに占星術では山羊座は努力家で生真面目、野心家などと評される星座です。会社を辞めフリーランスとなった彼女が、「社会で認められたい」ともがく姿は、山羊座らしいと思いました。しかしAさんの出生時の月星座、魚座が、情緒的でロマンティストな一面を表していました。
出生時に月が位置していた星座は、自我に目覚める前のもっと本能的な部分を表します。彼女の中では常に、社会的な自立や成功をめざす現実的な山羊座と、夢見がちでセンチメンタル、愛を求め恋愛に翻弄される魚座が同居していたのです。
いつも愛を求めていたのに、最初の心の危機、
サターン・リターンがやってきた
「社会人女性向けの“学校”を運営しているときに、取材に来たメディア関係のディレクターと恋に落ちるんです。それが魚座の男性で、二股かけられていました。婚約者がいて半年後に結婚も決まっていた。それでも結婚後も関係を続けたいと言われ、結婚式に乗り込んでやろうかと思った。それが最初の修羅場(笑)。当時30歳でした。だからド失恋と社会人のための“学校”と燃え尽き症候群はセットなんですよ」
占星術ではミッドライフ・クライシスを迎える前に、もう一つ重要な惑星のサイクルがあります。28歳~30歳くらいに起こるサターン・リターンです。それは私たちが成長する過程で経験する最初の心の危機かもしれません。土星の公転周期は約29年。出生時の土星がホロスコープを一周するとき、私たちは人生の再調整や人間関係の見直しをせざるを得なくなります。
自分自身に対して抱いている幻想、「私は仕事ができる」とか「適齢期になれば相手が現れて結婚する」などが打ち砕かれて、つらい自己評価を下すことになります。サターン・リターンは、無限の可能性を信じていた子ども時代の終わりを告げるベルのようなもので、自分の能力不足に対する嫌悪感に苛まれることも。それまで価値を置いていたものが親に刷り込まれたものだと気づいたり、両親への癒着から逃れようとしたりする期間でもあります。
「背も高いしガタイのいい私が言うのもなんですが、私の中には“かわいい子猫のミーコちゃん”がいて、いつも愛を求めていました。母親に愛されなかった反動か、恋愛で満たされたい、そしてちゃんと結婚して母に認めてもらいたいとも思っていたんですね」
魚座に月がある人が幼少時代に母親から冷たくされると、より感情的な愛着を求めて恋愛相手に依存するようになります。恋愛相手が望む「あなた像」を無意識に演じることで、相手の愛を得ようとする傾向があるのです。
社会的に認められたい、その一方で自分を愛してくれる伴侶に出会いたいという思いを抱えながら、30代になったAさんの奮闘は続きます。
付き合った相手が築地市場のようにすべて魚座。
まるで恋愛の海に翻弄される日々
31歳で公共施設や商業施設の案内標識を作るサインシステム会社に就職。34歳まで、がむしゃらに働いたそうです。35歳以降は法律事務所でバイトをしながら、インポート物のインナーウェア、雑貨などを扱うショップで広報の仕事も始めました。その間も積極的にお見合いや不毛な恋愛を繰り返し、そのつど心がくじけたとか。
「前の大失恋も含めてですが、この頃つき合った相手もすべてが魚座でした。その全員とも結婚には至らなかったですねぇ。それにしても“周りは築地市場のように魚座だらけ”。このフレーズ、ラジオに投稿してパーソナリティに読まれたんですよ」
これには笑いました。占星術の専門家もビックリの事実です。
「私ってなんなのっ?ちゃんと生きていないと思った。結婚すればいいんでしょう。でも何か満たされない自分がいる。中年というお年頃に近づいているのに。仕事も独立しているわけじゃない。ちゃんと仕事で社会的に評価されたいのに……。恋愛ではボロボロでしたが、バイト先の法律事務所で陳述書など書くのですが、DVを扱う訴状などはまるで小説でも書くようにすらすら書けましたねぇ(笑)」
東京近郊にある実家を出て、初めての一人暮らしを始めたのが37歳。相変わらずバイトをかけ持ちしながら生活していましたが、インポートショップの広報として雑誌に取材されたことを機会に、一人ひとりの要望を聞き、フィッティングなども行うスタイリストとして仕事をやっていこうと決意します。Aさんが39歳を迎える年でした。
39歳といえばまさに天王星のハーフリターン、ミッドライフ・クライシス(詳細は連載①②をご覧ください)の入り口です。仕事でも独立を果たした彼女ですが、さてその後、Aさんにはどんな出来事が待ち受けていたのでしょうか。
ロールプレイングゲームのように恋愛の森をさまよい、
ついには相手に放り出され、衝撃の事実を突きつけられる
スタイリストとして女性誌などに企画を持ち込む一方、法律事務所でのバイトもこなし、忙しい日々を送っていたAさんに新しい出会いがあります。
「港区にあるホテルの最上階のバーで、雑誌の編集者と打ち合わせをしていたら、まるで映画みたいなんですけど、バーテンに“あちらのお客さまから”とカクテルが……」
「ええ~っ!!ど、どんな人だったの?イケオジとか?」
と興味津々に聞き返す私。Aさんは続けます。
「編集者がトイレに立った隙にメモを渡されて。いや決してハンサムというわけではなく、笑うとまるで芸能人のような白い歯が!仕事は金融関係というか、投資家?それで別の日に会い、東京タワーが見えるマンションで結ばれるわけですよ」
“事実は小説より奇なり”とはこのことです。そこからの展開はまるでジョットコースターのようでした。
「彼のマンションに女性がいた痕跡はなく、3か月くらい蜜月が続きました。でもある日突然、別れを切り出されました。お見合いして結婚すると。仕事も何も手につかなくなり泣き暮らしました」
実は私は当時のAさんの憔悴ぶりを知っています。でもさらに衝撃の事実が判明するのです。
「彼、結婚詐欺師だったんです。しばらくしてから、本当に偶然なのですが彼側の唯一の知り合いから、彼が東京、大阪、名古屋、福岡と主要都市で3年毎に結婚し、離婚を繰り返していた事実がわかりました。しかも子だくさん!結婚相手は全員資産家らしく。たぶん、私の家にはそれほどの土地や資産がないとわかり、手を引いたんでしょうね。許せませんでした」
公転周期を84年とする天王星が、ちょうど彼女の出生時の真反対に位置し、Aさんは当時42歳でした。完全に冷静さを欠いていると思いますが、悪い人だとわかっても別れられない、別れたくない。その一心だったといいます。
どう懲らしめようか、どう復讐すればよいか。いっそドスでも持って殺してやりたいなどと彼女が口にしたときの、バイト先の弁護士先生の一言が秀逸です。
「Aさん、いったん、そのドスは置きたまえ。理性でいこうぜ、理性で。俺も他人の色恋には口を挟みたくないし、自分だって叩けば埃の出る身だけどさ。理性でいこう」
弁護士先生は、Aさんのホロスコープの心理タイプバランスの中で最も点数の少ない思考機能に対応する風の星座、双子座でした。そう、Aさんの人生前半で、最も欠けていたのは論理的に物事を考える風の星座の要素=思考機能だったかもしれません。
法律事務所のボスの一言で少しは冷静さを取り戻したAさんでしたが、普段から使い慣れていない思考機能が、そう簡単に使えるわけもなく……。
「先生のアドバイスで犯罪者にならなくてすみましたが(笑)、もうめちゃくちゃでした。老齢になった父親にすがって泣いたり、あるお寺で護摩焚きをしてもらったり。そのお坊さんは、よしもとばななの小説『アムリタ』をくれましたね。横浜方面に手かざしで邪気を祓う霊能者がいると聞きつけて会いに行きましたが、施術の翌日、目が覚めたら、まるで憑き物が落ちたように気分が軽くなりました。理性には欠ける私ですが、目に見えない力ってやはりあると思います」
その後、その結婚詐欺師がどうなったかは知る由もありませんが、周りの人々に助けられ、支えられ、Aさんは何とか立ち直ることができたといいます。
「42歳でも失恋することってあるんですね。もっと分別があるはずなのに。30代後半には、自分の心の旅ができるというバリ島にも行き、自信もついたはずなのに。結婚はもうないと思いました」
「結婚はもうない」とおもっていた矢先に出会った男性、
それは親戚の陽気なおばさんのような人だった……
その後、Aさんは数々の女性誌で洋服やインナーウェアなどのフィッティングやスタイリングに関する企画を担当したり、実際に個人のクライアントに頼まれてスタイリングのアドバイスをしたりと、仕事でも少しずつ活躍できるように。そして徐々に大失恋の傷も癒されていきます。
40代後半は大切な友人を癌で亡くし、自分自身も病気をしてつらい治療を受けたりしましたが、前ほど自己憐憫に苛まれ恋愛に逃げ込むということもなくなってきました。
またずいぶん変わったのは、彼女がずっと苦しんできた母親との関係です。Aさんの母親は地方都市出身。29歳でAさんの父親とお見合いをして東京に移り住みました。東京での新婚生活に胸を膨らませた母親でしたが、なんと小姑が6人!結婚後すぐにAさんが生まれ、心の準備もないままに母親になってしまったといいます。
「今思えば母がずっと不機嫌だったのは、理想が高く、ありのままの自分の人生を肯定できなかったからでしょうね。母は射手座なんですよ。もっと自由な東京生活を夢見て結婚したら、小姑が6人。娘をかわいがる余裕なんかなかったのでしょうね」
中年期を迎えてAさんは少し客観的に母親を見ることができるようになりました。華道の先生として活動する母親は、社会から尊敬され頼られる存在でもあったといいます。すると母親に対する「愛されなかった」という恨みや悲しみから少しずつ解放されていきます。
そして40代も最後の年に業界紙専門のライター友人に、ある男性を紹介されます。建築構造関係の専門大学の教授だという、一つ年上のバツイチ男性でした。そしてAさんはその男性と結婚することになります。
「彼の風貌が、なぜか親戚の陽気なおばさんにそっくりだったんです。手が厚ぼったく、しかも福耳で。声の質がいやじゃないと思いました。私、声フェチかもしれない」
「えっ、どういうこと?」と私は説明を求めました。
「そのおばさん、苦労しているんだけど幸せの象徴のような人。大好きなおばさんに似ていて。彼が私を気に入ったポイントが、“はっきりものを言う”“派手な身なり”で、自分が今まで生きづらいと思っていた部分でした」
その後、Aさんは50歳を迎える3日前に、49歳で彼と結婚します。私はその当時のことを覚えています。いつもなら新しい恋愛が始まると、私に「どう思いますか?」と連絡をしてきたAさんですが、この結婚に関しては事後報告だったのです。
「今回に関しては占いはやめようと思ったんです。だれのせいにもしない。直感で自分が決めたことだからそれに従う。自分の決断に責任を持とうと思って(笑)。でも聞いてくれます?今の主人は母と同じ射手座なんですよ。これは私が乗り越えるべきテーマかと」
この言葉を聞いて私はかなり感動してしまいました。占いに依存し、振り回され続けたAさんですが、占星術との関わり方も変わってきたように感じました。
さて49歳で大学の教授と結婚!と聞くと、ここまで待ったからこそシンデレラストーリーを手に入れられたのだ、と思う人もいるでしょう。いやいやAさんのサバイバルストーリーはまだまだ続きます。
「聞いてください!ふた開けてみたらビックリ。娘が元ヤンキーでシングルマザー、孫の学費を無心に来るんですよ。そして義理の母親は買い物依存症で主人のカードを使いまくる。頭にきますが、うまく距離を置いてやっていこうと思います」
えっ、距離を取る!? 若い頃はなにかというと自己憐憫モードを発令させてメソメソしていたAさんです。常に人との距離が近く、相手に感情移入しすぎて自滅するというパターンを繰り返していました。改めてAさんのホロスコープから彼女の心理タイプを見ると、感覚機能(地の要素)と感情機能(水の要素)には優れるものの、直観機能(火の要素)と思考機能(風の要素)は低く、無意識の中に埋もれていました。
それがミッドライフ・クライシスを迎えたころから、思考機能特有の理性や人との距離感を少しずつ身に着け、結婚に至ってはまさに直観(しかもご主人の星座は直観機能に優れる火の星座、射手座)、目に見えないものに自分を賭ける勇気をもって前に進んでいったように思われます。
人生の前半は利き手の右手でこなしたけど、
中年以降はうまく使えない左手も使うと、豊かな人生に
このインタヴューは、Aさんが結婚してから十数年経ってから行いました。Aさんは中年期以降の生き方、心得について面白い自説を展開します。
「左手も使えるようになることなんじゃないかと。人生前半は利き手である右手で物事をこなしてきた。でも中年以降、利き手だけではなく、うまく使えない左手も使って物事をやっていくって感じかな」
「私にとって結婚はまさに“冒険”でした。夢のようにハッピーな結婚ではないけど、物事をうまく進めるには自己憐憫に浸っている暇はない。慣れない左手も使いながら起こりうる災難をうまくかわしていく……。実はそれが醍醐味だとも思っているんです。面倒くさいことが起こるのは当たり前だけど、夫と簡単に別れようとは思わないですね」
相変わらず彼女を悩ませる、義母の買い物依存症は止まりません。Aさんは服飾系専門学校での講師や、個人のスタイリングなどの仕事も続けながら、通販商品であふれるゴミ屋敷と化した義母の家の片づけにも出かけます。
「この人だって一人の人間。放ってはおけません。でも義母の家から帰る途中、一人カラオケで歌いまくるんです。そうでもしないとやってられませんよ。えっどんな曲かって?カーペンターズの“二人の誓い”とか、イーグルスの“デスペラード”とか(笑)。吉田美奈子の“夢で逢えたら”なんて最高点をたたき出し、自画自賛です」
中年期の危機と呼ばれる40歳~42歳のころ、かなりヘビーな経験をしたAさんですが、現在もしたたかに、そしてしなやかに生きています。なによりも今の自分を肯定して生きていますとおっしゃったのが印象的でした。
人生はそう甘くないけどなんて豊かなんだ、最高だ。そう思わせてくれるAさんでした。
著者 岡本翔子(おかもと・しょうこ)
心理占星学研究家。ロンドンにある英国占星学協会で、心理学をベースにした占星術を学ぶ。英国占星学協会会員。
『完全版 心理占星学入門』(文春e-Books)、『「月のリズ ム」で夢をかなえるムーン・マジック』(KKベストセラーズ)、『占星学』リズ・グリーン著(青土社、鏡リュウジ共訳)、『月の心理占学』(方丈社)、『月 のリズムで暮らす本』『月の大事典』テレサ・ムーリー著 (ヴィレッジブックス、監訳)『ハーブ占星術』エリザベス・ブ ルーク著(東京堂出版、翻訳・監修)など、著書・訳書多数。
月の満ち欠けカレンダーを記し、月のリズムを生活に生かすヒントが満載のダイアリー『MOON BOOK』は2004年からのロングセラーで、2024年からWEBサイト版がスタート。『MOON BOOK 2025』がサイト内で発売中。自身が毎年発行する『MOON CALENDAR』(リボンシップ)も好評発売中。
また、占星術と料理、コスメ、旅などを組み合わせたコラムを『CREA』『美ST』『料理通信』『ESSE』などの雑誌連載を中心に執筆。『CREA』、「CREA WEB」、「婦人画報」など多数の女性誌にも、月間星占いや月星座占い、ムーンカレンダーを連載中。毎年、各地でセミナーやイベントを行い、開催ごとに盛況となっている。
モロッコの砂漠で見る月に魅せられ、三越旅行や風の旅行社と組んで不定期に「月の砂漠ツアー」を行っている。
FaceBook 岡本翔子のMoonBook https://www.facebook.com/moonbook.jp/
岡本翔子オフィシャルサイト http://www.okamotoshoko.com
オフィシャルブログ https://ameblo.jp/okamotoshoko/
インスタグラム https://www.instagram.com/okamoto_shoko
岡本翔子監修WEBサイト「MOON CH」 https://www.moonch.jp