ミッドライフ・クライシス -占星術と歩く中年期の危機-(back)
ミッドライフ・クライシス
-占星術と歩く中年期の危機-
第1回(2025.07.10)
中年とは第二の思春期
人の一生にはいくつかのステージがあります。人生の中で若さやエネルギーにあふれ、さまざまな経験を通して成長する時期といえば思春期でしょうか。
思春期とは十代後半の自我の目覚めとともに、一人の人間として自分を確立しようとする時期を指します。
この時代は言い換えれば「青春」真っ只中です。心と体にも変化が訪れ、目前に広がる未来に心が躍る。と同時に自分に自信が持てず、傷つきやすく精神的に不安定になったりします。
また友情や恋愛を通じて多くの感情を味わい、自分自身を見つける大切な時期でもあります。親から独立したいという自立心も芽生えます。その過程では、逆に親に対する依存心も強くなり、心が揺れることもあるでしょう。やがて私たちは「自分とは何者か」ということを模索していく。そして思春期の子供たちは、社会や親、友だちの影響を受けながら、アイデンティティを確立していきます。
ではこの思春期を抜けたら、私たちは立派な大人になれるのでしょうか。
実は私の四十代は、激動そのものでした。二十代前半に占星術と出会い、若さゆえの情熱でロンドンにある英国占星術協会の門を叩きました。帰国後、ロンドンで学んだ心理学をベースにした占星術を日本に紹介しようとしても、何のつてもなく不安な日々を過ごしました。それからいくつかの出会いがあり、最初の書籍を出版できたのは29歳でした。二十代後半はアルバイトに明け暮れる日々で、人生最高に暗かったと記憶しています。
三十代は雑誌創刊ブームの波に乗り、数々の女性誌の連載を任されることになり、気がつくと原稿料だけで生活できるようになっていました。そして三十代も終わりに近づく頃、「いつも真夜中まで仕事をしている。星座や惑星についての文章を書きながら、実際の星を見ていない」と思い至ります。遠い遠い宇宙の彼方から、「このままでいいのか」と声が聞こえたような気がしました。
「サハラ砂漠で満天の星を見てみたい」と思い立ったのが、運命の新しい扉を開くきっかけになりました。モロッコにある砂漠に魅了され、イスラム圏という異文化にもみくちゃにされるうちに、アラビア語の必要性を感じて学校に入り直し、アラビア語漬けの日々を数年過ごすという……。その間は今までの価値観がひっくり返るような経験をいくつもしたものです。今となってはこの激動の時代を懐かしむ余裕もありますが、中年期に直面したさまざまな出来事が、血となり肉となって自分を支えてくれているような気がします。私の話はこのくらいにして、本題に戻りましょう。
学校を卒業し初めての仕事に就き、恋をして結婚する人もいます。現代では思春期のままモラトリアム状態となり、定職に就かないまま人生を模索し続ける人もいます。また時代の影響を受け、仕事を得るのに困難を極めた就職氷河期世代の人もいるでしょう。
やがて「不惑」と呼ばれる四十代が近づく頃、どの人にも等しく人生にはさまざまな変化が訪れます。「不惑」とは数え年で40歳を指す言葉です。孔子の論語に由来し、この年齢になると迷いや悩みがなくなるとされてきました。孔子の生きた時代とは違い、現代では寿命も延び、選択肢の多さがかえって私たちを苦しめます。逆に不惑の年を迎える頃、私たちは「この人生で本当によかったのか」「もっと別の人生があったのではないか」などと悩むことになります。
このように四十代から五十代前半にかけて経験される心理的・感情的な不安や葛藤を「中年期の危機(Middle Age Crisis もしくはMidlife Crisis)」と呼びます。この時期、人は自分の人生の意味、限界、社会的な達成、老い、そして死などについても深く考えるようになり、強い焦りや不安を覚えるような出来事が起こります。
人生の折り返し地点が来たような気がして、自分のこれまでを見直し始める人もいるでしょう。ふと鏡を見ると、そこには外見の変化も見てとれる※。二十代、三十代に比べて体力が低下し、夜更かしした翌日には肌の張りもなく、白髪や皺を見つけて落ち込んだりすることも……。
人間関係にも変化があります。あんなに仲の良かった友だちとも、いつしか疎遠になってしまい、パートナーとの関係も見直さざるを得ないような出来事が起こります。子どもの独立や反抗期と自身の中年期が重なる人も多いでしょう。
仕事では部下や後輩についての悩みも増えます。今までの仕事のやり方が通用しなくなり、やりがいを失う人もいれば、転職を本気で考える人もいそうです。
もちろん悪いことばかりではありません。今までのキャリアを生かして独立を果たしたり、重要なポストを任されて身の引き締まる思いがする人もいるはず。また四十代になってから、全く新しい分野の仕事に挑戦したくなったりするかもしれません。
いずれにせよ、中年期は変化の時代であることは間違いありません。この時期に突発的な行動に走るというのも、よくあることです。いきなり高級車を買ってみたり、洋服の趣味が変わったり、一人旅に出たくなったりします。
不倫に走る人もいれば、長年の夫婦生活に終止符を打ち、離婚を決意する人もいるでしょう。また独身を貫いてきた人が、突然、結婚するというパターンもあります。新しい趣味を始めたり、習い事に没頭したり、「推し活」に目覚めるひともいます。
「四十にして惑わず」とは、孔子の論語からの言葉と前に書きましたが、現代の40歳は、ある意味、惑いっぱなしなのかもしれません。人生で光り輝いているのは、何も青春時代ばかりではありません。まるで微熱を帯びたように人生を彷徨(さまよ)うこの特別な期間は、第二の思春期なのではないでしょうか。
「中年期の危機」をネガティブに捉える必要はありません。むしろそれは人生を再評価し成長する機会であると捉え、楽しんでみてはどうでしょう。適切に向き合えば、この特別な期間を、より充実した後半生の始まりにすることができるはずです。
天王星のサイクルと中年期の危機
星座占いでおなじみの占星術、とりわけ私が学んだ心理占星術では、天王星という惑星のサイクルを基に、どの人にも等しく、人生を再調整せざるを得ないような社会的、または内面的な危機が訪れると説きます。
天王星の公転周期は84年。太陽の周りを移動するのに84年かかります。本格的な占星術では、その人の生年月日、出生時間、出生地を基にバースチャート(出生図)を作ります。その人が40歳から42歳の間に、天王星はバースチャートの元々の位置と真反対になります(たとえばある人の出生図の天王星の位置が天秤座の10度の場合、天王星は正反対の牡羊座の10度まで進む)。それをウラヌス・ハーフリターン(天王星の半回帰)と呼び、重要視します。
このウラヌス・ハーフリターンは、心理学者ユングが「中年期の危機」と呼んでいる心の発達の危機と符合するのです。
ユングは人生を二つの大きな段階に分けて捉えています。
人生の前半(中年期以前):
社会的な自我(ペルソナ)を築く時期。外の世界での成功、地位、家族、社会での役割を追い求める
人生の後半(中年期以降):
内的な自己と向き合う。無意識との対話。生きる意味を探究する。精神的、霊的成長の時期。
ユング心理学でいう中年期の危機とは、「人生前半の価値観が崩れ、無意識の声が聞こえてくるとき」を指します。中年期を単なる人生の倦怠期や気分の落ち込みではなく、「個人が真の自己(セルフ)と向き合い、精神的変容を遂げるチャンスを秘めた時期」と捉えているのが特徴です。
天王星はギリシャ神話の天空の神・ウラヌスと関係づけられています。1781年、近代天文学の父と呼ばれるW・ハーシェルによって発見されました。天王星は現状を打ち破り、あらゆる規制や束縛から自由になろうとする心の欲求を表します。天王星が自由と革命の星と呼ばれるのはそのためで、発明や独自性とも関わります。
天王星が出生図の位置とオポジション(真反対、180度の角度)をとると、それまでの人生で生かすことのできなかったパーソナリティの劣っている部分や、使ってこなかった心の機能が、まるでパンドラの箱を開けたかのように飛び出してきます。それこそユングのいう「無意識の声が聞こえてくる」時期なのです。
ではそれぞれの人の「パーソナリティの劣っている部分」とか「使ってこなかった心の機能」とは一体何なのか。それを具体的に知ることで、この不安定でありながら魅力的でもある「中年期の危機」を、やみくもに恐れずに迎えることができるのではないでしょうか。
それには本格的な出生図を作る必要があります。最近ではネット上に無料のホロスコープ作成サイトがあるので、一度、作ってみるとよいでしょう。巷の星占いでは、出生時の太陽の位置を基に誕生星座とします。春分の日以降、4月下旬までに生まれた人は、どの世代であっても「牡羊座生まれ」となります。ところが自分のチャートを作ってみると、出生時の太陽だけではなく、月や他の惑星の位置までもが記されていることがわかります。
Astrodienstの無料ホロスコープ作成サイト
https://www.astro.com/horoscopes/ja
第2回目の連載では、第47代アメリカ大統領、ドナルド・トランプのバースチャートを参考に、心理占星術でいう心理タイプの出し方を説明します。それによってあなたが中年期に取り組むべき課題が見えてきます。
また第3回目からはケーススタディとして、さまざまな方にインタヴューをし、中年期の危機を迎えて起こる出来事をその人独自のストーリーとして紹介。きっと回を重ねるうちに、第二の思春期とも思えるミッドライフ・クライシスにどう向き合うか、そしてそれをどう乗り越えていくかが見えてくると思います。
「中年期の危機」というテーマは、何も40歳から42歳の人限定というわけでもありません。これから四十代を迎えようとする人、また既に四十代前半は過ぎたが、いまだにこのテーマと向き合い続けている人、五十代でありながら「自分にとっての中年期の危機とは何だったのか」を探ってみたい人、また六十代以上にとっても自分の人生を振り返り、精神的に豊かなシニア時代を生きるための一助となるでしょう。
第2回(2025.08.14)
どの人にとっても等しく訪れるという「中年期の危機」。ですがやはり知りたいのは「私にはどんな心の危機が訪れるのか」でしょう。
それにはまず生年月日、出生時間、出生地のデータからバースチャートを作る必要があります。心理占星術では個人の出生図(バースチャート)を基に、星座や惑星のシンボルを用いて、あなた固有の物語を読み解こうとします。まずあなたがどんなタイプの人間なのか。性格や気質、ものの考え方や対処方法などを調べます。それによって中年期に対峙するべき問題が見えてきます。それでは心理占星術と、心理学者ユングの「タイプ論」を照らし合わせながら、具体的に説明していきましょう。
心理占星術とユングのタイプ論
「無意識の心理学者」として知られるユングが、珍しく日常の意識世界について研究した『タイプ論』という著書があります。そこでユングは人間の心理について、Intuition(直観)、Sensation(感覚)、Thinking(思考)、Feeling(感情)という4つの機能をあげています。簡単に説明すると、
Intuition(直観機能)―五感を超えた閃きや第六感、つまり総合的な直観力で判断する働き。
Sensation(感覚機能)―現実に存在するものを五感でとらえ、快・不快で判断する働き
Thinking(思考)―情感よりも論理を重んじ、合理的に正しいか、間違っているかで判断する働き。
Feeling(感情)―論理よりも情感や雰囲気を重んじ、好ましいか嫌いかで判断する働き。
こうした4つの心の機能は、だれもが持っているものです。ただし人によって機能の強い弱い、得意不得意があります。日常生活では自分に合った機能を使った方が、何事もうまくいくので、ついそればかりを使っているうちに、残りの機能は磨かれずに、無意識の中に置き去りにされてしまいます。
それが人生の後半にさしかかると、今までの人生であまり生かされなかったパーソナリティの劣った部分や、使ってこなかった心の機能を意識せざるを得ないような出来事が起こります。それこそがミッドライフ・クライシスです。
また自分と似たタイプの人とは、自然とコミュニケーションがうまくいくでしょう。しかし自分の中で最も未発達な機能を得意とするタイプとは、なかなかしっくりいかないし、不愉快な思いをすることも多いのです。それは心理学でいう「投影」という作用で、自分の苦手な機能がシャドウとなり、相手にその影を投げかけてしまうことから起こります。中年期になるとなぜか苦手なタイプとつき合う機会が増え、人間関係で悩みが生じることも多くあります。
ユング心理学も心理占星術も、人間を4タイプに分類して、単純に相性の良し悪しを判断するためのものではありません。全く違うタイプの人との関わりの中から、相手と衝突したり葛藤したりしつつ、自分の心の未発達な機能を自覚していく……。むしろそれが、人間をより成長させることにつながるのではないかと思います。
自分の心がどの機能に強く支えられているかを自覚することで、自分のみならず他人への理解も深まります。また自分が苦手とする、あまりうまく使えない機能を知ることは、中年期に勃発するさまざまな問題を理解し、解決する上で重要な鍵となるでしょう。
占星術の4元素とユング心理学による心の4機能の対応関係
それでは占星術でいう火・地・風・水の4元素と、ユングのタイプ論で分類される4機能がどのように対応するかを見ていきましょう。
火のエレメント(牡羊座・獅子座・射手座)は、直観機能に対応
古代人はこの3星座を象徴するものとして、「火」を選びました。火は赤々と燃えてすべてを焼き尽くす。勢いのよさや情熱、潔さが共通してみられるのが火の星座です。
出生図で火の星座に惑星が多いと、勇気があってエネルギッシュ。自己主張が強く、温かい気質の人物となります。怒りで感情を爆発させることはあっても、人と感情レベルで心を通わせることは苦手です。
火のエレメントは、ユング心理学でいう「直観機能」に相当します。物事の判断はいうなれば第六感・総合的な直感であり、未来志向のものの見方が特徴です。対極に位置する地・感覚タイプとは違い、事実や現実にあまり目を向けず、常に新しい世界や可能性を求めます、全体的に物事をざっくり見る傾向が強いので、細部を見落としがちな点は否めません。先の見えないことに、情熱をかきたてられるのが特徴です。
直観機能の背後には、隠された地のエレメントがあります。それを心の中で抑圧しすぎると、中年期以降、突然お金や社会的地位にこだわって俗物化することも。この世の現実と向き合うために、感覚機能を磨く必要がありそうです。
●出生図で火のエレメントが欠けている人へ
火の要素が欠けていたり、少ない場合、火が喚起する情熱や勇気が欠如してしまいます。人生そのものに対する不信感を持つ人もいます。自分に対する自信を取り戻し、自らの存在価値を信じる必要性があります。スポーツや肉体的鍛錬を伴う精神修養、勝ち負けを競うゲーム、またはセラピーや夢分析などによって、眠れる火のエネルギー、つまり直観機能を活性化させることです。
地のエレメント(牡牛座・乙女座・山羊座)は、感覚機能に対応
地の星座は、現実の形あるものに重要性を認めます。堅実で実際的、そして地に足がついています。必ずしも物質主義的ではありませんが、通常、現実に適応して、心地よい生活を送る術を心得ています。
出生図で地の星座が強調されると、目で見たり、触ったり、聞いたり、つまり五感から入ってくる情報に敏感になります。五感で体験したことが血肉となって独自の考え方が生まれます。注意深く、保守的でもあるのは、「未来の100万円より手中の1万円」を大切にするからでしょう。
地のエレメントは「感覚機能」に対応。物事の判断基準は理屈や感情ではなく、快・不快、つまり五感を通じた感覚で決まります。対極に位置する直観タイプのように、先の読めないことにワクワクするというより、目に見える結果を欲しがるのが特徴です。何でもよく見たり、触って確かめた上で初めてゴーサインを出すので、行動面で慎重、鈍重という評価は否めません。
感覚機能の背後には、未熟な火のエレメントが眠っています。自分の心の奥に眠る直観機能に目をむけないと、普段は現実的な判断をする人が、突然怪しげな宗教にハマったりすることに。五感を超えた世界への理解を深めることが、あなたの人生を豊かにするでしょう。
●出生図で地のエレメントが欠けている人へ
地の要素が欠けていたり、弱い場合、努力を積み重ねて成功するというイメージが持てず、忍耐力が欠如しています。才能はあってもそれに見合った業績を残しにくいのも特徴です。作家になりたいが、どうやって書いたらよいのかがわからないという悩みを抱いたりします。経験やアイデアを形にしていく、仕事や金銭に結び付けていく、つまり具体化する術を学ぶ必要があります。また地が欠けていると身体感覚が希薄で、ギリギリになるまで体調不良に気づかない人もいます。五感を通じた楽しみを見つけ、感覚機能を磨く必要があります。
風のエレメント(双子座・天秤座・水瓶座)は、思考機能に対応
風は音が伝わるための媒体であり、あらゆるものを結びつけます。目には見えないけどどこにでも存在する風のエレメントは、思想の世界や通信、コミュニケーションと関連しています。
出生図で風の星座に惑星が多いと、客観性があり、物事や状況を外から眺め、感情を交えずに描写することができます。性格的にはあっさりとしていて、クールな印象。好奇心が旺盛で、情報や知識の吸収に熱心です。
風のエレメントは、タイプ論でいうと「思考機能」に相当します。物事の判断基準は、情感よりも論理を重んじます。世の中で起こっていることや自分が経験したことなどを、ある一定の枠組みでとらえます。対極に位置する水・感情タイプとは違って、どこか超然としていて、物事に感情移入したりしません。「知ること」「考えること」自体が楽しみなので、いろんな知識が宝の持ち腐れとなっている場合も。
思考機能の背後には、未発達で荒々しい感情が渦巻いています。人との感情的な交流を心の中で抑圧してしまうと、中年期を過ぎてから、突然恋に落ちていつもの冷静さを欠き、相手を怖気づかせてしまうかもしれません。自分の中に潜む情感や心の揺れのようなものに、もっと目を向けることが必要です。
●出生図で風のエレメントが欠けているひとへ
風の要素が欠けていたり、少ない場合、その場の状況から一歩離れて、それを客観視する能力が欠如しています。冷静さを欠いているので、すぐパニックしやすいのも特徴です。物事から距離を置いた俯瞰図の視点を持てるよう、努力するべきかもしれません。また風が少ないと、言いたいことを言語化する能力が弱く、知的コンプレックスを抱くこともあります。こういった弱点を補うには、読書やスピーチなどを通じて、知的コミュニケーション能力を高めることです。
水のエレメント(蟹座・蠍座・魚座)は、感情機能に対応
水は流動的な液体で、うるおいをイメージさせます。水の星座の特徴は、豊かな情感にあります。言葉よりも、その場のムードや相手が醸し出す雰囲気を、フィーリングでとらえます。
出生図で水の星座が強調されると、感受性が豊かで、人の気持ちに感応しやすくなります。個人的な人間関係を大切にする一方、人の好き嫌いは激しい。非論理的で客観性に欠けるところがあります。
水のエレメントは、ユング心理学でいう「感情機能」に相当します。物事の判断基準はフィーリング、つまり自分の価値基準に基づき「好き」か「嫌いか」で判断します。また言葉にならない微妙な感情をとても大切にします。対極に位置する風・思考タイプとは違って、行動する基準が論理的に正しいかどうかではなく、相手が喜んでくれるかどうかだったりします。ともすれば親切の押し売りや、対人面でのえこひいきをもたらす場合も。
感情機能の裏側には、未熟な思考機能がひそんでいます。精神的に追いつめられると、本やニュースの受け売りでヘタな理屈をこねたりしがちです。または適当な理由をつけて議論を終わらせて、自分の世界にこもるという常套手段もあります。心の中に埋もれている論理性や客観的なものの見方を鍛えていく必要があるでしょう。
●出生図で水のエレメントが欠けている人へ
情感豊かな水の要素が欠けていたり、少ない場合、自分自身や他人の感情に無頓着になってしまいます。人との会話の中で言葉にならないニュアンスを理解できず、鈍感で冷たい人と後ろ指を指されることもあるでしょう。あまりにも合理的で愛情に欠けているので、努力して感情機能を育てて行く必要があります。演劇関係のワークショップに参加したりするのもいいし、心理セラピーが役に立つ場合も。また大人になってからの恋愛が、未熟な感情機能を磨くよいチャンスを与えてくれるかもしれません。
自分の心理タイプを調べる
表①の火地風水の4エレメントと、ユング心理学の心の4機能の対応を見て、「私は牡羊座生まれだから火の星座で直観タイプ」と判断するのは早とちりというもの。前にも述べたように、「直観・感覚・思考・感情」という心の働きは、本来すべての人が備えているものです。
私たちは何か物事を決めるとき、また人づき合いでも、知らないうちに「直観・感覚・思考・感情」の4機能を使っています。ところがだれにでも得意な機能と不得意な機能があり、最終的には自分にとって一番なじみのある、得意な機能で物事を判断します。
あなたにとってどの機能が得意で、またどの機能がうまく使いこなせないかを知るには、単に太陽星座(通常〇〇座生まれと言われるもの)だけではなく、出生図をちゃんと調べて判断する必要があります。
実際の心理タイプの調べ方は、第47代アメリカ大統領、ドナルド・トランプ氏のバースチャート(出生図)をもとに説明してみましょう。

トランプ氏のチャートから、ホロスコープに必要な太陽、月、水星、金星、火星、木星、土星、天王星、海王星、冥王星の10惑星が、火地風水のどのエレメントに分布しているかを調べます。表②のトランプ氏の心理タイプデータを参考に、各惑星が何座に位置しているかを見てみましょう。
また表③を参考に、トランプ氏の心理タイプのバランス表を作成してみました。
このバランス表を見ると、トランプ氏のエレメント別惑星配分には特徴があります。まず地の星座(感覚機能に対応)に惑星がひとつもありません。地道にコツコツと物事を積み上げていく能力が、著しく欠けています。10個の惑星のうち、4つが風の星座(思考機能)にあります。合理的に物事を割り切って考えることは得意なようです。特に双子座の太陽は情報収集に長け、広く浅く知識を吸収しますが、飽きっぽいところがあり変わり身の早さも特徴です。
また火の星座(直観機能)に3つ、水の星座(感情機能)にも3つ惑星があります。太陽の次に重視する月は火の星座の射手座にあるので、直観機能の働きも優位にあると考えてよいでしょう。少し専門的になりますが、双子座22度にある太陽と射手座21度の月は正反対に位置しており、トランプ氏が満月生まれであることを示しています。そもそも双子座も射手座も二重性の宮と呼ばれ、自分の中に相反する性質を抱えています。双子座と射手座で作る満月生まれの人は、自分の中に相反する別人格、もしくは極端な二面性を抱える傾向があります。
思考機能と直観機能を使いながら、人生を渡り歩いていくタイプと言えるでしょう。そして親しい人間関係の中では、思考機能を押しのけて「好き」か「嫌いか」で物事を判断する感情機能が優位になることもありそうです。なぜならコミュニケ―ションを司る水星や愛情に関わる金星が、水の星座である蟹座に位置しているからです。蟹座は自己防衛本能が強い星座で、人間関係を「味方」か「それ以外」ととらえる傾向があります。
たとえば思考機能で合理的かつ論理的に政策を進める過程で、ふと感情機能が優位になり、外交面などでは「味方か」「それ以外か」で状況を判断するという、不可解な二面性があるようにも思われます。
中年期は既に過ぎているトランプ氏ですが、出生図に地の星座がゼロという結果を見るにつけ、人生後半のテーマは「地に足のついたビジネス展開」だったり、行き当たりばったりではなく長期的展望に立ち、地道に結果を積み重ねていくことだったりします。また地の星座が欠けている人は身体感覚が鈍いので、自分の肉体の声を聴くことも健康の秘訣になります。
ちなみにトランプ氏の出生図の天王星は、双子座17度に位置しています。前章でミッドライフ・クライシス(中年期の危機)は、天王星が出生図の反対側まで移動する時期に符合すると書きました。トランプ氏の場合、天王星が出生時の真反対となる射手座の17度近辺に進んだのは1986年前後です。当時、トランプ氏は異業種進出を図り、アメリカンフットボールチームのオーナーに収まったり、航空会社を買収したりしています。42歳で最高級ホテルのひとつ「プラザ・ホテル」を買収するも、その後徐々に財政的苦境に陥り、経営していたカジノやホテルも倒産、離婚訴訟など、まさに中年期の危機と呼べるような数年間を過ごします。
さてここで紹介してきた心理タイプの調べ方は、どの惑星も同じポイントとして計算したものです。実はこの方法には少し無理があります。出生図(バースチャート)で最も影響力を持つ太陽と、ひとつの星座を十数年もかけて運行する冥王星(個人というよりもむしろ、世代や時代に影響を及ぼす)では、その効力は違います。
そこで太陽や月を最大の影響力をもたらすものとし、次に地球に近い惑星から順々に、点数にカーブをつけていく方法があります。
占星術を長く勉強している人は、トランプ氏の心理タイプのバランス表を見ただけで、風の星座=4ではあるものの、トランプ氏と同世代に生まれた人は必ず、天王星や海王星が風の星座にあることを知っています。数値としては思考機能が最大ではあるものの、月や火星といったパーソナルな惑星が占める火の星座の直観機能と拮抗していると読めるかもしれません。
そこで初心者の方には、各惑星のポイント表を用意しました。このポイント表を基にトランプ氏の心理タイプを探ったものが表⑤になります。
まさに直観機能と思考機能は共に9点となりました。「思考タイプ」とも「直観タイプ」とも読めます。この判断は少し専門的になりますが、地の星座に惑星がひとつもなく感覚機能が未発達な場合、その対極にある直観機能が際立ちます。となるとトランプ氏は直観機能や優位な「直観タイプ」と言えるかもしれません。先に書いたように、満月生まれの人は自分の中に相反する“もう一人の自分”がいます。そう考えると2つの機能が優位なタイプと読んでもよいでしょう。
では最後に、心理タイプを調べるときの基本的な注意点を挙げておきます。
次回からはケーススタディが始まります。中年期の危機をテーマに、さまざまな方にお話を伺い、その人独自の物語を占星術的な解釈を加えて紹介していきたいと思います。
第3回(2025.09.17)
ケーススタディ 1
真面目な性格なのに、なぜか怒涛の恋愛ループを繰り返してしまう
山羊座のAさんがたどり着いた居場所
Aさんの心理タイプデータ
Aさんの心理タイプのバランス表をポイントで計算した場合
※各惑星のポイント表は第2回をご覧ください。
友人の後輩としてAさんを紹介されたのは、彼女がちょうど30歳を迎えるころでした。大学を卒業し22歳で大手アパレル会社に入社し、スカーフや傘などを扱う洋品部門に配属されたそうです。ちょうどその頃に制定された男女雇用機会均等法にならい、彼女は男性社員と同じように営業職として6年間働き、充実したOL生活を送りました。
「でもその6年間は準備だと思っていました。文化的な素養がある父親の影響でしょうか。アパレル会社を退職後は編集者を養成する専門学校に通い、そこの先生たちのアドバイスを受けながら、女性が社会進出するための“学校”を主催、運営することになりました。その“学校”では著名な文化人、作家などを講師に招きました。それが話題となり、某新聞社やラジオ局などの取材も受けました。あ、経営的にも赤字を出さずにちゃんとやっていたんですよ」
それはすごい……。高身長で筋肉質なAさんの第一印象は、頑張り屋のキャリアウーマンのように見えました。予想に反して占いが大好きというAさんは続けます。
「山羊座って地味な星座ですよね、生真面目で。物心ついたときから喘息がひどくてしょっちゅう入院していました。子供らしさを育む前に社会性を身に着けざるを得なかった。私は母親の顔色をいつもうかがっているような子どもでした。なぜなら母に優しくされた記憶がないんです。いきなり理不尽に怒って口をきいてくれなかったり、気に入らないことがあると“あっちに行け”と言われたり。いつも母親に認められようと必死でした。会社を辞めた28歳~31歳は、燃え尽き症候群でしたね。当時、ド失恋もして、そのたびに占いばっかりやっていました」
ずいぶん雲行きが変わってきました。そこからAさんの怒涛の恋愛ループ話が始まります。
確かに占星術では山羊座は努力家で生真面目、野心家などと評される星座です。会社を辞めフリーランスとなった彼女が、「社会で認められたい」ともがく姿は、山羊座らしいと思いました。しかしAさんの出生時の月星座、魚座が、情緒的でロマンティストな一面を表していました。
出生時に月が位置していた星座は、自我に目覚める前のもっと本能的な部分を表します。彼女の中では常に、社会的な自立や成功をめざす現実的な山羊座と、夢見がちでセンチメンタル、愛を求め恋愛に翻弄される魚座が同居していたのです。
いつも愛を求めていたのに、最初の心の危機、
サターン・リターンがやってきた
「社会人女性向けの“学校”を運営しているときに、取材に来たメディア関係のディレクターと恋に落ちるんです。それが魚座の男性で、二股かけられていました。婚約者がいて半年後に結婚も決まっていた。それでも結婚後も関係を続けたいと言われ、結婚式に乗り込んでやろうかと思った。それが最初の修羅場(笑)。当時30歳でした。だからド失恋と社会人のための“学校”と燃え尽き症候群はセットなんですよ」
占星術ではミッドライフ・クライシスを迎える前に、もう一つ重要な惑星のサイクルがあります。28歳~30歳くらいに起こるサターン・リターンです。それは私たちが成長する過程で経験する最初の心の危機かもしれません。土星の公転周期は約29年。出生時の土星がホロスコープを一周するとき、私たちは人生の再調整や人間関係の見直しをせざるを得なくなります。
自分自身に対して抱いている幻想、「私は仕事ができる」とか「適齢期になれば相手が現れて結婚する」などが打ち砕かれて、つらい自己評価を下すことになります。サターン・リターンは、無限の可能性を信じていた子ども時代の終わりを告げるベルのようなもので、自分の能力不足に対する嫌悪感に苛まれることも。それまで価値を置いていたものが親に刷り込まれたものだと気づいたり、両親への癒着から逃れようとしたりする期間でもあります。
「背も高いしガタイのいい私が言うのもなんですが、私の中には“かわいい子猫のミーコちゃん”がいて、いつも愛を求めていました。母親に愛されなかった反動か、恋愛で満たされたい、そしてちゃんと結婚して母に認めてもらいたいとも思っていたんですね」
魚座に月がある人が幼少時代に母親から冷たくされると、より感情的な愛着を求めて恋愛相手に依存するようになります。恋愛相手が望む「あなた像」を無意識に演じることで、相手の愛を得ようとする傾向があるのです。
社会的に認められたい、その一方で自分を愛してくれる伴侶に出会いたいという思いを抱えながら、30代になったAさんの奮闘は続きます。
付き合った相手が築地市場のようにすべて魚座。
まるで恋愛の海に翻弄される日々
31歳で公共施設や商業施設の案内標識を作るサインシステム会社に就職。34歳まで、がむしゃらに働いたそうです。35歳以降は法律事務所でバイトをしながら、インポート物のインナーウェア、雑貨などを扱うショップで広報の仕事も始めました。その間も積極的にお見合いや不毛な恋愛を繰り返し、そのつど心がくじけたとか。
「前の大失恋も含めてですが、この頃つき合った相手もすべてが魚座でした。その全員とも結婚には至らなかったですねぇ。それにしても“周りは築地市場のように魚座だらけ”。このフレーズ、ラジオに投稿してパーソナリティに読まれたんですよ」
これには笑いました。占星術の専門家もビックリの事実です。
「私ってなんなのっ?ちゃんと生きていないと思った。結婚すればいいんでしょう。でも何か満たされない自分がいる。中年というお年頃に近づいているのに。仕事も独立しているわけじゃない。ちゃんと仕事で社会的に評価されたいのに……。恋愛ではボロボロでしたが、バイト先の法律事務所で陳述書など書くのですが、DVを扱う訴状などはまるで小説でも書くようにすらすら書けましたねぇ(笑)」
東京近郊にある実家を出て、初めての一人暮らしを始めたのが37歳。相変わらずバイトをかけ持ちしながら生活していましたが、インポートショップの広報として雑誌に取材されたことを機会に、一人ひとりの要望を聞き、フィッティングなども行うスタイリストとして仕事をやっていこうと決意します。Aさんが39歳を迎える年でした。
39歳といえばまさに天王星のハーフリターン、ミッドライフ・クライシス(詳細は連載①②をご覧ください)の入り口です。仕事でも独立を果たした彼女ですが、さてその後、Aさんにはどんな出来事が待ち受けていたのでしょうか。
ロールプレイングゲームのように恋愛の森をさまよい、
ついには相手に放り出され、衝撃の事実を突きつけられる
スタイリストとして女性誌などに企画を持ち込む一方、法律事務所でのバイトもこなし、忙しい日々を送っていたAさんに新しい出会いがあります。
「港区にあるホテルの最上階のバーで、雑誌の編集者と打ち合わせをしていたら、まるで映画みたいなんですけど、バーテンに“あちらのお客さまから”とカクテルが……」
「ええ~っ!!ど、どんな人だったの?イケオジとか?」
と興味津々に聞き返す私。Aさんは続けます。
「編集者がトイレに立った隙にメモを渡されて。いや決してハンサムというわけではなく、笑うとまるで芸能人のような白い歯が!仕事は金融関係というか、投資家?それで別の日に会い、東京タワーが見えるマンションで結ばれるわけですよ」
“事実は小説より奇なり”とはこのことです。そこからの展開はまるでジョットコースターのようでした。
「彼のマンションに女性がいた痕跡はなく、3か月くらい蜜月が続きました。でもある日突然、別れを切り出されました。お見合いして結婚すると。仕事も何も手につかなくなり泣き暮らしました」
実は私は当時のAさんの憔悴ぶりを知っています。でもさらに衝撃の事実が判明するのです。
「彼、結婚詐欺師だったんです。しばらくしてから、本当に偶然なのですが彼側の唯一の知り合いから、彼が東京、大阪、名古屋、福岡と主要都市で3年毎に結婚し、離婚を繰り返していた事実がわかりました。しかも子だくさん!結婚相手は全員資産家らしく。たぶん、私の家にはそれほどの土地や資産がないとわかり、手を引いたんでしょうね。許せませんでした」
公転周期を84年とする天王星が、ちょうど彼女の出生時の真反対に位置し、Aさんは当時42歳でした。完全に冷静さを欠いていると思いますが、悪い人だとわかっても別れられない、別れたくない。その一心だったといいます。
どう懲らしめようか、どう復讐すればよいか。いっそドスでも持って殺してやりたいなどと彼女が口にしたときの、バイト先の弁護士先生の一言が秀逸です。
「Aさん、いったん、そのドスは置きたまえ。理性でいこうぜ、理性で。俺も他人の色恋には口を挟みたくないし、自分だって叩けば埃の出る身だけどさ。理性でいこう」
弁護士先生は、Aさんのホロスコープの心理タイプバランスの中で最も点数の少ない思考機能に対応する風の星座、双子座でした。そう、Aさんの人生前半で、最も欠けていたのは論理的に物事を考える風の星座の要素=思考機能だったかもしれません。
法律事務所のボスの一言で少しは冷静さを取り戻したAさんでしたが、普段から使い慣れていない思考機能が、そう簡単に使えるわけもなく……。
「先生のアドバイスで犯罪者にならなくてすみましたが(笑)、もうめちゃくちゃでした。老齢になった父親にすがって泣いたり、あるお寺で護摩焚きをしてもらったり。そのお坊さんは、よしもとばななの小説『アムリタ』をくれましたね。横浜方面に手かざしで邪気を祓う霊能者がいると聞きつけて会いに行きましたが、施術の翌日、目が覚めたら、まるで憑き物が落ちたように気分が軽くなりました。理性には欠ける私ですが、目に見えない力ってやはりあると思います」
その後、その結婚詐欺師がどうなったかは知る由もありませんが、周りの人々に助けられ、支えられ、Aさんは何とか立ち直ることができたといいます。
「42歳でも失恋することってあるんですね。もっと分別があるはずなのに。30代後半には、自分の心の旅ができるというバリ島にも行き、自信もついたはずなのに。結婚はもうないと思いました」
「結婚はもうない」とおもっていた矢先に出会った男性、
それは親戚の陽気なおばさんのような人だった……
その後、Aさんは数々の女性誌で洋服やインナーウェアなどのフィッティングやスタイリングに関する企画を担当したり、実際に個人のクライアントに頼まれてスタイリングのアドバイスをしたりと、仕事でも少しずつ活躍できるように。そして徐々に大失恋の傷も癒されていきます。
40代後半は大切な友人を癌で亡くし、自分自身も病気をしてつらい治療を受けたりしましたが、前ほど自己憐憫に苛まれ恋愛に逃げ込むということもなくなってきました。
またずいぶん変わったのは、彼女がずっと苦しんできた母親との関係です。Aさんの母親は地方都市出身。29歳でAさんの父親とお見合いをして東京に移り住みました。東京での新婚生活に胸を膨らませた母親でしたが、なんと小姑が6人!結婚後すぐにAさんが生まれ、心の準備もないままに母親になってしまったといいます。
「今思えば母がずっと不機嫌だったのは、理想が高く、ありのままの自分の人生を肯定できなかったからでしょうね。母は射手座なんですよ。もっと自由な東京生活を夢見て結婚したら、小姑が6人。娘をかわいがる余裕なんかなかったのでしょうね」
中年期を迎えてAさんは少し客観的に母親を見ることができるようになりました。華道の先生として活動する母親は、社会から尊敬され頼られる存在でもあったといいます。すると母親に対する「愛されなかった」という恨みや悲しみから少しずつ解放されていきます。
そして40代も最後の年に業界紙専門のライター友人に、ある男性を紹介されます。建築構造関係の専門大学の教授だという、一つ年上のバツイチ男性でした。そしてAさんはその男性と結婚することになります。
「彼の風貌が、なぜか親戚の陽気なおばさんにそっくりだったんです。手が厚ぼったく、しかも福耳で。声の質がいやじゃないと思いました。私、声フェチかもしれない」
「えっ、どういうこと?」と私は説明を求めました。
「そのおばさん、苦労しているんだけど幸せの象徴のような人。大好きなおばさんに似ていて。彼が私を気に入ったポイントが、“はっきりものを言う”“派手な身なり”で、自分が今まで生きづらいと思っていた部分でした」
その後、Aさんは50歳を迎える3日前に、49歳で彼と結婚します。私はその当時のことを覚えています。いつもなら新しい恋愛が始まると、私に「どう思いますか?」と連絡をしてきたAさんですが、この結婚に関しては事後報告だったのです。
「今回に関しては占いはやめようと思ったんです。だれのせいにもしない。直感で自分が決めたことだからそれに従う。自分の決断に責任を持とうと思って(笑)。でも聞いてくれます?今の主人は母と同じ射手座なんですよ。これは私が乗り越えるべきテーマかと」
この言葉を聞いて私はかなり感動してしまいました。占いに依存し、振り回され続けたAさんですが、占星術との関わり方も変わってきたように感じました。
さて49歳で大学の教授と結婚!と聞くと、ここまで待ったからこそシンデレラストーリーを手に入れられたのだ、と思う人もいるでしょう。いやいやAさんのサバイバルストーリーはまだまだ続きます。
「聞いてください!ふた開けてみたらビックリ。娘が元ヤンキーでシングルマザー、孫の学費を無心に来るんですよ。そして義理の母親は買い物依存症で主人のカードを使いまくる。頭にきますが、うまく距離を置いてやっていこうと思います」
えっ、距離を取る!? 若い頃はなにかというと自己憐憫モードを発令させてメソメソしていたAさんです。常に人との距離が近く、相手に感情移入しすぎて自滅するというパターンを繰り返していました。改めてAさんのホロスコープから彼女の心理タイプを見ると、感覚機能(地の要素)と感情機能(水の要素)には優れるものの、直観機能(火の要素)と思考機能(風の要素)は低く、無意識の中に埋もれていました。
それがミッドライフ・クライシスを迎えたころから、思考機能特有の理性や人との距離感を少しずつ身に着け、結婚に至ってはまさに直観(しかもご主人の星座は直観機能に優れる火の星座、射手座)、目に見えないものに自分を賭ける勇気をもって前に進んでいったように思われます。
人生の前半は利き手の右手でこなしたけど、
中年以降はうまく使えない左手も使うと、豊かな人生に
このインタヴューは、Aさんが結婚してから十数年経ってから行いました。Aさんは中年期以降の生き方、心得について面白い自説を展開します。
「左手も使えるようになることなんじゃないかと。人生前半は利き手である右手で物事をこなしてきた。でも中年以降、利き手だけではなく、うまく使えない左手も使って物事をやっていくって感じかな」
「私にとって結婚はまさに“冒険”でした。夢のようにハッピーな結婚ではないけど、物事をうまく進めるには自己憐憫に浸っている暇はない。慣れない左手も使いながら起こりうる災難をうまくかわしていく……。実はそれが醍醐味だとも思っているんです。面倒くさいことが起こるのは当たり前だけど、夫と簡単に別れようとは思わないですね」
相変わらず彼女を悩ませる、義母の買い物依存症は止まりません。Aさんは服飾系専門学校での講師や、個人のスタイリングなどの仕事も続けながら、通販商品であふれるゴミ屋敷と化した義母の家の片づけにも出かけます。
「この人だって一人の人間。放ってはおけません。でも義母の家から帰る途中、一人カラオケで歌いまくるんです。そうでもしないとやってられませんよ。えっどんな曲かって?カーペンターズの“二人の誓い”とか、イーグルスの“デスペラード”とか(笑)。吉田美奈子の“夢で逢えたら”なんて最高点をたたき出し、自画自賛です」
中年期の危機と呼ばれる40歳~42歳のころ、かなりヘビーな経験をしたAさんですが、現在もしたたかに、そしてしなやかに生きています。なによりも今の自分を肯定して生きていますとおっしゃったのが印象的でした。
人生はそう甘くないけどなんて豊かなんだ、最高だ。そう思わせてくれるAさんでした。
第4回(2025.10.15)
ケーススタディ 2
親に頼られ、マンションまで買わされても
飄々と受け止めてしなやかに生きる双子座のBくんの人生作法
Bくんの心理タイプデータ
Bくんの心理タイプのバランス表をポイントで計算した場合
※各惑星のポイント表は第2回をご覧ください。
1990年代初頭に、年上の友人から相談を受けたことがあります。「兄が和菓子屋を始めようとしているけどどう思う?」と。聞けばある事業に失敗し、起死回生の策を講じて新たに商売を始めるというのです。嫌な予感がする……。そしてその予感は的中し、数年もしないうちに、彼女のお兄さんの店は倒産してしまいます。お兄さんには3人の子どもがいました。
子どもたちの教育費にまで手が回らないお兄さんに代わり、広告カメラマンやスタイリストのマネージメント会社をやっていた友人は、まず長女を引き取り専門学校の費用を肩代わりします。その翌年、お兄さんの和菓子屋を手伝っていた23歳の長男の行く末を案じ、手に職をつけるべく、当時まだ開校して間もないデジタルハリウッドに送り込みます。もちろん学費や生活費なども、彼女が援助したといいます。
注:デジタルハリウッドはWEBデザイン、CGデザインが学べ、動画クリエイターなどを養成する専門学校
20代前半から親の借金を肩代わりさせられる
風の星座だらけのBくんの進む道
今回の物語の主人公は、私の年上の友人の甥であるBくん。私は彼が20代前半の頃から知っていて、ときどきBくんの仕事や転職の相談などに乗ってきました。時は流れて約30年。現在はあるゲーム会社でCGプロデューサーとして働く彼に、話を聞くことになりました。
「高校の頃は漠然と、文系の大学に行こうかと思っていましたね。経済学部とか。たいした目標もなく受験に失敗したので、父の商売を22歳まで手伝っていました。駅ビルの構内によくあるような和菓子屋です」
Bくんは中肉中背でどこにでもいるタイプの男性です。どことなく飄々としていて、若い頃から、そして現在も初対面では印象に残りにくいタイプかもしれません。
彼の出生図を調べると、大きな特徴があります。彼は双子座ですが、ホロスコープを構成する10惑星のうち7惑星が風の星座(双子座・天秤座・水瓶座)に集中しているのです。話をしていても感情的になることはなく、いつも冷静で淡々としているのが印象的でした。
「叔母の勧めもあり、1996年に23歳でデジタルハリウッドに入りました。楽しかったですよ。当時のデジハリ(デジタルハリウッドの略称)は社会人の生徒が多く、新聞記者や会社員、水商売のお姉さんもいて社会勉強になりました。 一通りCGが学べるので、CGのムービーが作れるようになるんです。デジハリ卒業生の就職先は、ゲーム関係、映画や広告、TV業界などが多かったですね。」
そして彼は24歳でデジタルハリウッドが提携している派遣会社に入って、ゲームなどの開発に携わることになり、その8か月後にはそのゲーム制作会社の正社員になります。そもそも大学受験でなぜ経済学部? その話を聞いたときに私は思わず「似合わない!」と口走ってしまいました。知識と情報をキーワードとする双子座に惑星が集中し、風の星座だらけのBくんです。さらにホロスコープで地の星座(牡牛座、乙女座、山羊座)に惑星が一つもないので、ビジネス感覚や損得勘定には疎いタイプといえます。おそらく彼はデジタルハリウッドで眠れる才能を開花させ、まるでスポンジが水を吸収するように、CG制作の技術を身に着けていったのでしょう。新しい可能性の扉が開かれ、家族の呪縛からも解放されて、明るい未来が始まるかのように見えました。
「CGデザイナーとしてまず派遣社員で働き始めました。その頃、父に自己破産を進める動きがあったんですが、自己破産はしたくないと。ということは毎月の返済が続くわけです。当時の新人のお給料といえば20数万円でしたが、手取りにすると20万円を少し欠けるくらい。父から月に15万円ほど工面してくれないかと言われまして、毎月返済分を自分が出すことになるんですよ」
20代前半で親の借金を肩代わり!? 20代といえば遊びたい盛りです。友だちと朝まで遊んだり、恋をしたりと青春を謳歌するはずの年頃に、お給料のほとんどが親の借金の返済に消えていくとは。聞いているこちらの方がドキドキしたり勝手に腹が立ったりして、心は千々に乱れます。
「それは頭に来ましたよ。けんかも増えましたね。母ですか? ええ、父の商売が傾いてからは、スーパーのレジ係として働いていましたねぇ。姉? あの人は趣味人ですから。父の借金に関してはノータッチです」
彼には1歳年上の蟹座の姉がいます。彼女も社会人になっていましたが、音楽やアートなどに興味があり、自分の世界を守ることで精いっぱいだったのでしょう。彼の下にもう一人妹がいますが、その頃はまだ専門学校生で、その費用も彼の叔母である私の友人が肩代わりしていました。
「ところで恋愛、つまり女の子とつき合ったりはしなかったの?」
という私の問いかけにも、Bくんは当時を思い出しながら淡々と答えます。
「恋愛? あ、それはちょこちょこありました。でも続かない。仕事ばっかりやっているわけですから長続きしない。結婚しようと思ったことですか? う~ん、あんまりないかもしれない。毎月膨大なお金が出ていくので、現実的に結婚は無理かなと思っていました」
出生図で風の星座ばかりに惑星が集中している人は、とくに恋愛に関してどこか他人事みたいなところがあります。起こった出来事を正確に描写することはできるのに、自分の気持ちとなるとさっぱり見当がつかないのです。
さてそんな生活が数年続きましたが、最終的に彼の父親は自己破産の道を選択します。当時は千葉県の松戸で家族と同居していたBくんですが、月々の返済がなくなったのを機に実家を出て、中野区にある広めのワンルームマンションで一人暮らしを始めます。
「実家を出たのは27歳くらいでしたね。毎月の返済はなくなりましたが、たまに生活費が足りないと親から連絡があり、その都度出していました(笑)。CG制作の現場ってハードじゃないですか。毎日仕事三昧で、当時の記憶があまりないくらいです。自分の30代前半、両親の暮らしがそこそこ安定していたのは、母方の年老いた両親を松戸に引き取ることになったからです。僕の祖父母の年金が入ってくる。それで結果的に彼ら(Bくんのご両親)の生活費が増えてなんとかなっていたのでしょうね。うちの両親は自分らの家計がどれくらいで回っているのかがまったくわかっておらず、全てがふわっとしているんです。ところが僕の祖父母が次々亡くなって、また次のいや~な波が来るんですよ」
価値観が崩れ、無意識の声が聞こえるとき、
ミッドライフ・クライシスが顔を出してくる
「中年期の危機」に辿り着く前からBくんの経済状況は、生活力に欠ける両親のせいで常に危機に瀕していました。仕事はハードではあるものの、つかの間の穏やかな日々を送っていた30代半ば、母親からある提案をされるのです。
「36歳でしたね。自分たちが慣れ親しんだ松戸に、僕名義で家を買ったらどうかと。悪気はないんですよ、いずれは僕のものになるという考えだったのでしょう。祖父母の年金がなくなり、また生活が苦しくなったんでしょうね。僕が頭金を出せば、返済分はすべて自分たちが出すというんです。それで35年ローンを組んで3LDKのマンションを買うんです」
ご両親がちゃんと毎月のローンを支払ってくれるのだろうか、と疑いのまなざしを向ける私にBくんは続けます。
「ローン返済と管理費でたったの毎月7万円ですよ。それが数か月もしないうちに払えなくなるわけです。しょうがないから、2年後にまた200万円貯金をはたいて繰り上げ返済をします。彼らの支払額はそれで月々3万5000円に。40代になってもそれを続けて、マンション購入から9年目に完済。44歳になっていました。でも僕はそこには一度も住んでいないんですよ」
子どもは親を選べません。今風にいえば「親ガチャ外れ」のBくんですが、生活力のない親の援助をすることが、もはや初期設定になっている感じです。私は今回のテーマである「中年期の危機」を迎える40歳~42歳ごろに何か転機はなかったかと質問してみました。
「それがばっちりあるんです。40歳を目前にして、仕事もどんどんハードになっていきました。当時パチンコ屋がM&Aでゲーム会社を買うというパターンが多々あったのですが、自分が働いている会社も同様でした。その会社には16年間正社員として勤め、CGデザイナーとしてひと通りの経験をさせてもらいました。でも合併後はゲームの製作をやったり、パチンコの液晶部分の開発をやったり……」
聞けば35歳くらいからパチンコ関連の仕事が増え始め、ゲームの部署からはいい顔をされなくなり、Bくんはストレスを抱えるようになります。親が住むマンションのローンの返済に加え、自分が暮らす賃貸アパートの家賃も払っていたわけですから、経済的にも精神的にも厳しかったのでしょう。それで16年勤めた会社を辞めて転職の道を探り始めます。
「41歳で転職しました。それまで仕事を発注していた会社に、たまたまポストがあったんです。そこはCGプロダクションで、ゲーム会社から仕事を受けたりします。役職はプロジェクトマネージャーで、まず実務仕事がなくなりました。仕事を取ってきて自分のチームで回す。知り合いを頼ったり、前の会社のクライアントに営業をしたり。立ち回りが厳しく、自由にもやらせてもらえず、当時はホント最悪でした」
転職を決意したとき、自由と革命を司る天王星がBくんの出生時の位置に対して、180度反対側を運行していました。まさにそれはミッドライフ・クライシスを象徴する星の動きです。人生前半でうまく生かせなかったパーソナリティの劣っている部分や、使ってこなかった心の機能が、まるでパンドラの箱を開けたように飛び出してくるのです。それは具体的にBくんのホロスコープでいうと、惑星が一つも入っていない地の星座(感覚機能)や外惑星が一つしかない火の星座(直観機能)を指します。
41歳の転職以降、彼の仕事は実務(CGデザイン)から管理の仕事へと移っていきます。それは彼が望んだことでもあるのですが、プロジェクトそのものを管理し、リアルタイムでさまざまな変更にも対処しつつ、ゴールを見据えて動く。上司の勝手な要求とも戦う必要性が出てきます。ヴィジョンを持って仕事に臨み、理不尽な要求をしてくる相手には戦いも辞さない。それこそ火の星座の性質が必要とされる分野です。
また管理の仕事には、タスクをお金に変えていくことも含まれます。相手が提示する予算で何ができ、ちゃんと利益を上げられるかが問われます。これは現実的で、損得勘定に長けた地の星座の得意分野です。
中年期の危機とは、人生前半の価値観が崩れ、無意識の声が聞こえてくるときといわれます。その声が示唆しているのは、Bくんが今まで使ってこなかった火の性質(直観機能)や、地の要素(感覚機能)を使いこなせるようになれということのようです。
「料理」と「投資」を始めたことで、苦手な心の機能を
楽しめるようになり、未知の世界の扉が開けてきた
41歳の転職から、彼の生活にはある変化が訪れていました。
「それまでは外食しかしていませんでした。それが料理を作るようになったんです。えっ、自分の母親ですか? いちおうは作るんですが美味しくないんですよ。自炊を始めたらそれが楽しくなってきたので、自分でも驚きです。決定的だったのは、やっぱりコロナです。仕事もリモートになりましたし、自炊してタバコもやめたら、生活費がガクッと減りました」
地の星座が欠けていると、自分の身体感覚が希薄な人が多いのです。それで中年を迎える頃に体を壊すパターンがあるのですが、Bくんは自炊をすることで無意識に健康志向へと舵を切った感があります。自分の肉体に意識を向ける。これは眠れる感覚機能を目覚めさせるよい方法です。
では欠けている火の星座に対応する直観機能を使うシーンは、仕事以外にも増えたのでしょうか。
「投資を始めました。ETF(上場投資信託)、長期投資です。アメリカをやったりベトナムをやったり。特定の株にどんとつぎ込むようなことは、さすがに怖いのでしませんが、投資は楽しいです」
36歳から始めたという投資ですが、相場という目に見えないものに自分を賭ける行為です。火の星座の要素が強い人は、生まれながらのギャンブラー。先の見えないことに自分を賭けることに燃える人たちですが、Bくんの直観機能は、40代を迎えてようやく無意識下から目覚めたばかりです。中年期の危機というターニングポイントから約10年が過ぎましたが、Bくんは苦手な心の機能を、仕事に加えて「料理」と「投資」から楽しく学んでいるようです。
50代を迎えたBくんに、将来の夢はないのかと問いかけました。
「隠居ですかね。それで生き延びる(笑)。散歩してゲームして料理作って。そんな生活になるんじゃないですかね」
あまりの達観ぶりに私は大笑いしてしまいます。
「確かに若い頃からちょっとジジイ系だもんね」と失礼な発言をする私に、
「そうですよ、子供の頃から隠居(笑)。多分、将来それが一番やりたいことだと思います」
と自虐的に明るく答えてくれました。そう、なんとも不毛感を漂わせながら決して暗くはなく、根は明るい不思議なキャラクターのBくんでした。
人生の重要な局面で現実的な選択を促す
地の星座の女性たちこそ、大事なキーパーソン
彼の人生の重要な局面で、いつも現実的な選択を促すのは地の星座の女性たちです。就職氷河期の初めに就職に有利な専門学校を見つけ出し、その費用をすべて肩代わりした叔母さんは山羊座です。また生活能力には欠けるものの、マンション購入をすすめた母親が乙女座です。40代で完済したマンションは古くはなりましたが、Bくんが持つ立派な資産です(彼はそこには一度も住んではいませんが)。彼は自分に著しく欠ける地の星座特有の、地道で現実的な考えを、彼女たちから補ってもらっていたのでしょう。
論理的でクールな風の星座だらけの彼が、なぜ父親の借金を肩代わりしてきたのか。それは出生図の月と火星が水の星座の魚座にあるからでしょう。月星座の性質は、子ども時代に条件付けされた無意識的な反応のパターンを表します。月が魚座にあると人の気持ちに敏感で、困っている人を救いたいという気持ちから、自己犠牲的な行動に出てしまう傾向があるのです。火星も同様で自分を必要とする人の要求を満たすことが、仕事や人生の隠れたモチベーションとなりやすいのです。
インタヴューの最後にBくんは教えてくれました。
「44歳で親の住むマンションを完済した後は、ほぼ金銭的な援助はしていません。お小遣いはたまにあげていますが。今更この人たちにお金を返せと言っても始まらない。80代になりましたしね。あ、でも先日久しぶりに風呂釜が壊れたと連絡がありまして、73万円支払いました」
あ、やっぱり出しちゃうんだ、出すよねと心の中でうなずく私でしたが、この先、両親に代わって彼の自己犠牲精神を刺激する人物が現れないことを願うばかりです。人生の前半では全く無自覚だった地の星座の性質(感覚機能)や、火の星座の要素(直観機能)も、要所要所で使えるようになりながら、“夢の隠居生活”(もしかしたら投資で早期リタイアを実現させるFIRE生活?)を手に入れてほしいと思っています。
第5回(2025.12.21)
ケーススタディ 3
映画業界で充実した日々を過ごしていた蟹座のCさんが、
人生を一変させるような出来事をきっかけに、大切なものと出合うまで
Cさんの心理タイプデータ
Cさんの心理タイプのバランス表をポイントで計算した場合
※各惑星のポイント表は第2回をご覧ください。
占星術ではその人の人となりを判断するのに、出生図(バースチャート、またはホロスコープという)を作成します。その中で重要視するのが太陽星座(通常、私たちが〇〇座生まれと呼んでいるもの)と月星座です。
今回インタビューするCさんからいただいた出生データは、出生時間が少々アバウトでした。そのデータをもとに、出生時の月星座の位置を調べると蠍座29度となりました。このように星座と星座の境目に月星座が位置している場合、生まれた時間が数分遅くなると月星座が蠍座の次の星座、射手座になる場合もあります。
月星座は子ども時代の本能的な欲求、まだ自我がめばえる前の無意識的なふるまい、気質を表しています。Cさんの月星座は蠍座か、それとも射手座か。それを判断するために、まず「どんな子どもだったか」をたずねてみました。
射手座に月がある少女が夢見る世界は
銀座鉄道に乗って遠い惑星を旅することだった
「子ども時代ですか? そうですね。知らないところに行きたい。知らない場所をうろうろするのが楽しかった。あ、小学生の頃、アレルギー性結膜炎にかかり、市の中心にある眼科に通うことになるんです。でも両親が働いているので、一人でバスに乗って行かなきゃならない。寂しいとか不安だというより、ワクワクしましたね。親に連れられてくるほかの子どもたちの前で、眼科の先生が、『一人で通って来てえらいね』と。それも嬉しかったです」
月星座が射手座にある子どもの特徴は、自由が好き、未知の世界に憧れを抱く、冒険に心を躍らせる、正直でフランク、失敗しても懲りないなど。この話を聞いて、彼女の月は射手座なのではないかと思い至りました。さらに決定打となるエピソードがこれです。
「ちょっと恥ずかしいのですが、松本零士の『銀河鉄道999』が好きでした。寝る前にカーテンを開けて星空を見て、銀河鉄道に乗って遠い惑星に行きたいと毎晩、星を見ていました」
射手座に月がある人は「今、ここではないどこか遠く」に思いを馳せます。それが海外への興味につながったり、SF映画好きになったりします。実際、Cさんは『ガタカ』『インターステラー』、古くは『2001年宇宙の旅』などが大好きだそうで、それが後に映画業界で活躍することになるのを暗示していたのかもしれません。
地元の高校からから東京の大学へ。
育った場所から脱出するのが第一で、何になりたいかは二の次だった
Cさんは中肉中背、穏やかで上品な雰囲気を持つ女性です。彼女が生まれたのは東北地方のある都市です。教育者も多い一族の中で育ち、ご両親は彼女に学校の先生になってほしい、と願っていたようです。
「高校は進学校の国立コースでした。クラスに女子は4,5人だけ。地元に残ってほしいという親の思いもわかっていましたが、とにかく離れたかった。だから大学はどこでもよかったんです。勝手に自分で私立の推薦枠を取りつけて、東京の大学に進学しました。育った場所から脱出するのが第一で、何になりたいかは二の次でした」
思春期のCさんの、育った環境から離れて「自由になりたい」という意思がひしひしと伝わってきます。ここまで彼女の射手座の月を象徴するようなエピソードが続きましたが、Cさんは想像力が豊かで、人の気持ちにも敏感な蟹座生まれです。蟹座のキーワードは、感受性が豊か、親密な人間関係を好む、記憶力に優れるなど。また守りたい、育てたい、安心したいという心の欲求が強い星座です。
「本が好き。映画も大好き。父の贈り物はいつも本でした。私の育った地域の学校では、自分で学習ノートを用意する習慣がありました。自分で1ページ目は算数、2ページ目は国語などと決めて、自主的に学習していく。ところが私は1ページ目に詩を書いていました。絵も描きましたねぇ。何かを作る、モノを書く。そういうことに興味がありました。将来はなんとなく出版社? ドラマも好きだから放送局? などと漠然と考えていました」
情緒豊かで繊細な蟹座(太陽星座)と自由を求める射手座(月星座)の組み合わせは、心の中で葛藤を生み出します。何かに帰属したい、安心したいと願う蟹座と、理想の世界を求めて暴走する射手座が常に心の中で戦っている状態です。
また学生時代のCさんは、「絶対に先生になりたくない」という心の声に従い、あえて教職を取らなかったそうです。そして就活の時期を迎え、まず大企業である某生命保険会社に就職します。
「数字にはまったく興味はなかったけど、あえて金融に行く。かなりねじ曲がった考えですよね。しかも1年で辞める覚悟で。お給料も福利厚生も素晴らしかったのですが……。私って何が好きだったんだろうと考えていたら、映画専門のPR会社の募集を見つけて転職をすることに。23歳でした」
インディペンデント系映画配給会社に転職し、
射手座の月のひらめきを十分に発揮
CさんはそのPR会社で3年働き、26歳の時に映画のPRだけではなく、その映画に一から関われる独立インディペンダント系配給会社に転職します。
「楽しかったですね。海外のマーケットですでに他の配給会社が買っていた、後にカルト的な人気を誇る映画に出合うんです。主演男優はまだ日本で知られていなかった。その買い付けに成功し、その映画のキャッチコピーからタイアップ企画まで、すべてに関わることができました。少人数のチームで一つの映画を世に出していく……。その面白さを知り、そこで3年働きました」
当時の熱狂が伝わってくるようなCさんの説明に、聞いている私までワクワクしました。確かにそのちょっとカルト系の映画は、当時日本で一大ブームを巻き起こしたのを私も覚えています。大企業の一社員から信頼できる少人数のチームで働くというワークスタイルは、人と人との絆を大切にする蟹座にとって最も心地よい働き方です。しかも「これは絶対に当たる!」と直観を働かせて、先の見えない未来に自分を賭ける映画の買い付け作業では、ひらめきに優れる射手座の月を十分に発揮できたのでしょう。
その後、メジャーな配給会社からお声がかかり29歳で転職。そこから約10年、映画業界やエンターテインメント業界で働きます。大きなプロジェクトが始まると、昼も夜もなくハードワークが続く業界です。やりがいもあり充実した日々でしたが、Cさんはよく「四十代以降はまったく別の仕事をしていると思う」と口にしていたそうです。
東日本大震災とミッドライフ・クライシスがシンクロしたあの日から
心の中では何とも言えない違和感がふくらんでいく
そして41歳になった2011年3月11日、日本全体を震撼させることになる象徴的な事件が起こります。東日本大震災です。ちなみにCさんの出生時の天王星の位置は天秤座の0度です。天王星の公転周期は84年、東日本大震災の翌日に天王星は牡羊座の0度まで進み、Cさんの出生時の位置とぴったり180度を形成していました。天王星のハーフリターン(半回帰)、まさにミッドライフ・クライシスの時期と震災が符合したパターンです。
(注:Cさんは1969年生まれ。その年前後に生まれた人々は、東日本大震災の時期に中年期の危機を迎えた世代です。ある特定の出来事、天災や政変、景気の変動などと中年期の危機が、ある世代全体にシンクロすることはよくあることです)
「その日は、夏に公開する映画のプロデューサーが来社してプレゼンを受けることになっていて……。余震で部屋はガタガタ揺れる、ハンガーが大きく波打っていて、でもプレゼンは聞かなくてはならない。私、東北出身じゃないですか。こんなことをしていてよいのか。このままの生活でよいのかと激しく心が揺れました」
その後、Cさんの心には何とも言えない違和感が広がり始めます。中年期の危機とは、「人生前半の価値観が崩れ、無意識の声が聞こえてくるとき」です。改めてCさんのホロスコープ(出生図)の心理タイプのバランス表を見てみましょう。人間の心を構成する4つの機能(直観・感覚・思考・感情)と占星術の4元素(火・地・風・水)を対応させてみると、どの機能もバランスよく配分されています。しかしCさんの前半生を振り返ってみると、射手座の月が優位に立ち、親の願いを振り払って東京の大学に進み、ひらめきと直観で映画&エンタメ業界を渡り歩いてきたような気がします。
また水象星座の蟹座でありながら、水の星座に天体が2つしかないのも特徴です。そして最も少ないのは風の要素、思考機能です。人生後半を迎えたCさんは、その後どんな人生を歩むことになるのでしょうか。
生け花との出合いをきっかけに
京都の染織の世界に直観で飛び込む
「震災後も正体のわからないモヤモヤを抱きつつ働いてきましたが、43歳で海外の番組を日本の配給会社に紹介する会社に転職しました。それまで自分の手掛けた“企画が当たる、当たらない”で一喜一憂する仕事でしたが、そこは定時で帰れる職場だったので時間に余裕ができました。そして生け花と出合う。これだ! と思いました」
ミッドライフ・クライシス真っただ中、Cさんの人生後半の幕が開きます。
「映画のPRでクリエイティブなこともやってきたつもりでした。でも花は空間的? ポスターなどとは違って立体的で、しかも生き物です。野に咲いているように活ける“投げ入れ”をやると、自分も元気になるのが面白かった」
生け花という新しい世界の扉が開き、花を活けることにのめり込んでいくCさんでしたが、思わぬ壁にぶち当たります。
「生け花を続けるにつれ、せっかく素敵な花器、素敵な花たちがあるのに何かがうまくいかない。花が言うことを聞いてくれないのです。何度もやり直すうちに、花も元気を失くしてくる。先生は『植物の声を聴いていない』『花に任せろ』とおっしゃるのですが、それが理解できなくて苦しみました」
そんなCさんに素晴らしい出会いがあります。たまたま観たテレビのドキュメンタリー番組が、京都在住の染織家で随筆家でもある方による、まさに『植物の声を聞く』というものでした。
「もうこれだ!と思って、その染織家の方がやっているワークショップに毎週末通うことになるんです」
40代でこのフットワークの軽さ! やはり聞けば聞くほど、Cさんは直観機能が優位なタイプです。その半年後、会社を辞めてその先生がやっていらっしゃる、芸術体験を通して染織を学ぶ学校に入り、人生のリトリート期間ともいえる楽しい学生生活を京都で送ることになります。
「植物の声を聴くこと」をヒントに
草木染めで五感を鍛え「私」を手放すことができるように
「その学校では、まず手を使う、匂いを嗅ぐ。草木染とは植物の命をいただくこと。頭でこうなるのではなく、こういう色が出るわけでもなく、植物がそうなりたい色に任せるのです。今までは花にも人にも“心から任せる”ことができなかった。それがなぜか簡単に手放せちゃった。できた~! これだ! と」
面白くなってきました。Cさんは直観機能だけではなく、心理タイプのバランス表を見ると、地の星座にも金星以下4惑星があるので、実は五感を使う感覚機能も持ち合わせています。人生の前半では射手座の月ばかり使って、感覚機能は無意識の中で眠っていたのかもしれません。
「しかもその学校は、草木染めを技術で教えるというより、感性教育というんでしょうか。生き方そのもの、哲学のようなものを教わりました。ルドルフ・シュタイナーの本を読む勉強会などもありました。それまでは花を活けるにしても“私”が入り込み過ぎて、“私”を手放すことができなかった。でも何かが変わり始めました」
中年期を迎えた女性が何かを学ぶ、学校に入り直すというパターンはよくあります。何かを体系的に学び直すことで、未発達な思考機能を目覚めさせるのです。それがCさんの場合は、京都での約2年間の学生体験だったのでしょう。街を歩けば世界遺産がそこここにある京都。美しいものに囲まれて、幸福な日々が続きましたが、その生活にも終わりが訪れます。Cさんは48歳になっていました。
「映画業界にいた頃の上司から、いつまで京都にいるの? 戻って来いと連絡があり、貯金も少なくなってきたし一回帰るかと。それで馴染みの業界、動画配信サービスを行う会社の正社員として戻れました。私の人生はいつも“この話に乗ってみよう”で始まる。これでいいんですかねぇ」
根が生真面目なCさんは常に、「これでいいんだろうか」と自問自答しながら前に進みます。50代にはまた新しい挑戦が待ち受けていました。京都の学校で培った、染織の知識や技術を生かせる場所が信州にあり、その地域振興のプロジェクトで公的な補助金を得て、その街に移り住むことになります。私がCさんに出会ったのもその頃でした。共通の友人を交えて一緒に食事をしているとき、Cさんは私に質問をしました。
「モノ作りをやりたいと京都で学んだはずなのに、ときどき映画のPRの仕事を引き受けたりもします。またこの地域に残っている染織の技術を、後世に残していかなきゃという思いも強くて……。私は創作一筋の人ではないのでしょうか」
その気持ちはとてもよくわかる。冒頭の心理タイプのバランス表を見てもわかるように、出生図の惑星が、火地風水のどのエレメントにもバランスよく配分されている人特有の悩みです。しかも仕事運を司るホロスコープの天頂に多くの惑星があるので、あの仕事もこの仕事もそれなりにできてしまうのです。
「そうね。病みがたく創作活動をせずにはいられない、たとえば生け花や染織だけやっていれば幸せ、という人ではないと思う(笑)。でも四十代を過ぎてから、人生で使えるツール(道具)が増えるのはいいことなんじゃない」
と私は答えつつ、今まであまり彼女が語ってこなかった恋愛や結婚について話題を振ってみました。なぜならCさんの太陽星座は、人との情緒的なつながり、家族のように親密な人間関係を求める蟹座にあるからです。
自分の中にある情緒豊かな蟹座の性質に気づき、
親密な人間関係を得て豊かな人生を生きる
「三十代前半には結婚話もありました。双方の両親にも紹介が済み、いざ結婚となると『私を自由にさせてください』みたいな感じになってしまった(笑)。その後も何回かプロポーズされたことがあるんですよ。でも結婚が人生のゴールではないと、後になってから気づきました」
今の時代、女性にとって結婚は必須案件ではなく選択肢の一つです。結婚する必要はなくても、心が通じ合う親密な人間関係が蟹座には必要です。
「きっとCさんにはまるで家族のように親密な仕事仲間がいたんじゃない?たとえば映画関係家族とか、現在住んでいる信州ファミリーとか」
「います!います! 京都家族もいるんですよ」
Cさんは目を輝かせながら、嬉しそうにそう答えてくれました。
夜になったら窓を開け、『銀河鉄道999』に乗り込むことを夢に見ていた少女は、自分の直観に導かれて東京、京都、長野と人生の旅を続けています。ミッドライフ・クライシスを迎える頃には、自分の無意識の中で眠っている心の機能を使わざるを得ない出来事が起こり、悪戦苦闘しながらも人間的に成長し、その後も人生を楽しんでいるように見えました。中年期の危機と向き合うことは、生きる上で使えるツール(道具)を増やしていくことなのかもしれません。
そして自分の中にある、相反する太陽(蟹座)と月(射手座)の星座の性質を融合させることも、人生を賭けて取り組むべき課題といえます。
簡単に手に入るものはつまらないと、冒険に心躍らせる射手座の月に導かれて、やがては蟹座の太陽が望むもの——想像力豊かに生きる、親密な人間関係を築く、だれかを守り育む能力を発揮する——、それを手に入れることができたらCさんの人生はもっと豊かで意味深いものになっていくでしょう。
「最近になってようやく、自分の中で葛藤するその二つの性質を、どちらも肯定してよいのだと思えるようになりました」
そう微笑むCさん。ところで占星術の教科書には、月が射手座にある女性は外国人と結婚をする可能性もあると書かれています。実際、私は射手座の月を持ちアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、モロッコなどに移り住み、国際結婚をしている日本人女性を知っています。遠い世界に思いを馳せる射手座の月を持つCさん。この先、未知の国の人との電撃結婚もあり!? Cさんを前にして、そんな楽しい想像をしてしまいました。
第6回(2026.1.28)
ケーススタディ 4
D氏の心理タイプデータ
D氏の心理タイプのバランス表をポイントで計算した場合
※各惑星のポイント表は第2回をご覧ください。
『中年期の危機』をテーマにさまざまな方にお話を聴く、というスタイルで始めた企画ですが、四十代で人生の転換期を迎え、転職や離婚などを経験する人がいます。その一方で表面的な変化はあまりなく、順風満帆に見える中年期を過ごす人もいます。そう見える人々の内面では何が起こっているのか、いやさしたる変化はないのかを知りたいと思い、ある人物に白羽の矢を立てました。
ミッドライフ・クライシスという言葉の響きが、これから中年期を迎える人に不安や恐怖ではなく、期待や希望も抱くきっかけになればと思ったからです。
子ども時代の記憶、突然、母がいなくなるトラウマ
D氏は長年、私の経理を担当する計理士さんです。中肉中背、いつもスーツ姿で眼鏡をかけ、腰が低く穏やかな笑みをたたえています。初めて出会った頃、彼はまだ二十代後半でしたが、星座が蠍座とは当初から知っていました。「口が堅い、秘密主義、研究心や探求心に優れる、実は情が深い」などという蠍座の典型的な性質が服を着ているような人、という印象です。このたび、彼から51歳にして税理士試験に受かったという報告を受けたのをきっかけに、インタビューをお願いすることにしました。
「東京の城北地区で生まれ育ちました。両親は毛沢東思想に影響を受け、学生運動もやっていたようです。物心ついた頃から、父親は中国語がペラペラで、貿易会社に勤めていました。港に入ってくる中国の船の水先案内人などもやっていました」
D氏は1974年生まれですが、ご両親はかつて全共闘世代と呼ばれた1940年代後半生まれ。学生運動を通じて社会改革をめざした世代です。D氏のホロスコープを紐解くと太陽・水星・金星・火星と主要な天体が蠍座にあります。しかし幼少期の気質を表す月が射手座に位置し、海外と関わりが深く、移動の多い子ども時代を表しています。
「母は日本で中国語を教えていました。私が小学二年生のときに、長春にある大学から日本語講師として招聘されて、母と二人、中国で暮らすことになりました。当時は昭和五十年代、現地の子どもたちとは全く洋服が違うので、どこに行っても好奇の目で見られました」
D氏が私の経理を担当するようになってから30年が過ぎますが、初めて聞く話です。そこから私は彼の子ども時代の数奇なエピソードに、惹き込まれていきます。
「当時はホテル住まいだったのですが、ある日私が現地の小学校から帰ると、ホテルの荷物がすべて消えていて……。中国人の運転手さんが自分を迎えに来て、彼に抱きかかえられて連れ去られるのです。泣き叫び、もう恐怖のどん底です。実は母親が病気になり入院したのですが、それを知らされたのはずいぶん経ってからでした。中国残留孤児の家庭に引き取られてそこで3か月過ごしました」
ええ~っ!それはトラウマになるような恐怖体験です。私の頭の中では、山崎豊子作『大地の子』がドラマ化された映像が再生されました。それ以前にも貿易をしていた父親と、また家族旅行で夏休みに中国に行くこともあったとか。
「実は5歳くらいのとき、やはり母親に連れられて台湾の高雄で登山をすることになり、山小屋で目覚めたら母がいない(笑)。先に散歩に出ちゃったのですが、山小屋の人が温かいミルクを出してくれたのを覚えています。だから自分には、“突然母親がいなくなるというトラウマ”があるのです」
そういう話を淡々と語るD氏を見るにつけ、深い感情を内に秘め、容易なことでは動じない蠍座だと感じずにはいられませんでした。中国残留孤児の家庭で過ごした後、快復した母親とも再会して、D氏は日本に帰ります。その後、彼には10歳年の離れた弟も生まれて、つかの間の穏やかな日々を過ごすのですが。
思春期、父親の破産、突然の失踪
「中学1年で父親が貿易会社を辞めて独立するんです。いわゆる脱サラというやつです。当初は商売も順調でしたが、そこで天安門事件が起こります。それですべてが終わるんですね。中国との取引ができなくなりました。15歳の頃です。当時家を買うという話もあったのですが一気になくなり、毎日父が家にいるように。今思うと引きこもり状態です。その後ロシアとの貿易で挽回しようと試みるもうまくいかず、借金取りから電話が来るように。そんな日々が続きましたが、私が20歳になった頃、父が忽然と消えました。失踪したんです」
思春期真っただ中のD氏にとって父親の破産、そして突然の失踪は、自分の将来をも脅かす大事件だっただろうと想像できます。ここで改めてD氏の出生図について、彼がどんな心理タイプなのかを見てみることにしましょう。
ホロスコープを構成する10天体のうち、6天体(中でも蠍座に4天体が集中)が水の星座に集中しています。水の星座は、心理学者ユングのいう心の4機能では感情機能に対応するので、D氏は紛れもなく情感に優れる感情タイプということになります。加えてサブ機能として、ひらめき重視の直観機能が挙げられます。火の星座である射手座に月と海王星が位置しているからです。風の星座(合理的な思考機能に対応)は少なく、地の星座(五感に優れる感覚機能の対応)に至ってはゼロというかなり極端なバランス配分だとわかってきました。
「本を読むのが好きな子どもでした。『三国志』や『水滸伝』が大好きだった。小学生向きの解説付き、夏目漱石の本もよく読みました。勉強は嫌いでしたね。漠然と進路を決める際には、今思うといい加減な理由ですが、ちょっといい、商業科のある高校に入りました。営業は絶対にイヤだし、工場勤務なんて無理無理(笑)。外回りより、事務などの内勤がよかった。卒業後は経理の専門学校に行きましたが、簿記の授業が面白くてハマりました」
感情機能が発達している人は、「好き・嫌い」をフィーリングで感じ取ります。「これだけは無理」なものを消去していくうちに、好ましいものが残るというパターンでしょうか。D氏の後の計理士人生はここから始まります。
「経理というのはルールが全部決まっていて、イメージでいうとパズルのようです。特に推定簿記、最初と真ん中のピースが抜けていて穴埋め式なのですが、それが大好きでした。税理士コースでしたが、とりあえず簿記の資格を取り、20歳で就職しました」
推定簿記というのは、まず全体像を直観で描いてから穴を埋めていく作業です。完成図を予測し、そこから逆引きしてピースを埋める作業は、D氏のサブ機能である直観機能を使うワクワクする作業だったのでしょう。
給料よりも納得できる仕事がしたい
「20歳で建築業の経理部に入ります。そこを1年10か月で辞めたのは消費税率が3%から5%に上がり、建築業界が不況に突入したからです。当時の課長が、経理が好きだったら会計事務所に行ったほうがよいとアドバイスをくれたので、22歳で新宿区にある会計事務所に転職しました」
その会計事務所では、何の知識もないのにいきなりお客様を担当することになり、仕事ができなくて散々怒られたとか。そして記念すべき一社目の顧客である社長さんの名字が、奇遇にもD氏と一緒だったことなどを話してくれました。その事務所では約5年間、彼が27歳になるまで勤めますが、個人や会社を含め15ものクライアントを担当し、徐々に仕事を覚えていったそうです。
その間にD氏は若くして結婚します。そのいきさつについても話を聞くことができました。
「結婚したのは26歳です。出会ったのは仕事場近くの居酒屋で、向こうも仕事帰りに友だちと飲みに来ていて仲良くなりました。グループ交際を経て結婚することになるのですが、母親には大反対されました。理由はまだ早い、というのと奥さんが4歳年上だったからです。結婚式の1週間前に、式に出てくれと2人で頼みに行ったんですよ」
知らなかった。そんな大恋愛の末に結婚したとは。ちょっと意外なエピソードです。その後、27歳でD氏は現在も勤めている港区にある別の会計事務所に転職することになります。そこのボスは公認会計士の資格を持っています。私はてっきり、お給料がいいから転職をしたのだろうと思っていたのですが、
「うう~ん。仕事をもうちょっとちゃんとやりたかったからです。しっかり計画を立てて仕事に取り組みたかった。今のボスは公認会計士の資格を持っていますが、当時は自分を含めてたった3人の小さな事務所でした。転職については奥さんに泣かれました。給料も下がるし、なんでその年で転職するの? ありえないと」
お給料よりも納得できる仕事がしたいと願ったD氏ですが、改めて出生図の惑星配分が水の星座の蠍座に集中している感情タイプだなと感じました。金銭よりも人と人との絆や、自分が納得できる仕事のやり方を優先したかったのでしょう。蠍座は一見物静かですが、一度こうと決めたらその意志は揺るぎがない頑固な星座です。たとえ奥さまに反対されようとも。
「転職後は29歳で長女が誕生し、31歳で次女が生まれました。勝手に消えた父親のことは、ずっと恨んでいました。でも長女が生まれたとき、不思議なことにその恨みが消えました。父の友人から中国地方のある都市に父が住んでいると聞き、きっと孫の顔が見たいだろうと、一度だけ会いに行ったことがありました。そして新しい会計事務所では順調に顧客も増えて、所員も3人から7人に増えます。自分も家族が増えて子育てにも参加し、三十代は忙しく過ぎていきました」
優しい、優しすぎるな、D氏。彼のそんな壮絶な家庭環境を知る由もなかった私ですが、海外でときどき可愛い子供服などを見つけると、D氏のお嬢さんにお土産を買っていきました。そんなとき彼の顔は一瞬、冷静な計理士から愛情深い父親の片鱗をのぞかせ、とても微笑ましかったことを思い出しました。
中年期、未発達だった心の機能が無意識の扉をこじ開ける
さてこの企画の本題です。中年期の危機と呼ばれる四十代に入ってから、身辺に何か具体的な変化があったか、また当時の心模様などを教えてほしいとD氏に話を振ってみました。
「そうですね。仕事で大きな変化はなかったと思います。(しばらく考えた後)あ、そういえば2017年の春、この仕事を始めて最初に経理を担当した、同じ苗字の社長さんがいるとお話ししましたよね。彼が亡くなるんです。彼には散々叱られてズタボロにもなりましたが、自分が転職するときについてきてくれました。前の会計事務所から、当時はまだ小さかった今の事務所に、一緒に移ってくれたんです。彼にはとても恩義を感じていました。私は42歳になっていました」
22歳で本格的に経理の仕事を始め、当時の会社に5年間勤めたD氏ですが、顧客であるその社長さんに叱られつつも信頼関係を深めていったのでしょう。そして不安と期待の入り混じった転職という人生の大きな決断に、「君についていくよ」と引き続き経理を依頼してくれた社長さん。彼の選択はD氏の背中を押し、きっと勇気を与えてくれたことでしょう。
占星術でミッドライフ・クライシスに関係する惑星は、公転周期が84年の天王星です。D氏の出生図の天王星の位置は天秤座の29度です。その社長さんの訃報が届いた2017年春には、ちょうど正反対の牡羊座24度付近を運行し、数か月後には29度に達しました。恩のある社長さんの死と、天王星のハーフリターン(半回帰)がちょうど重なっていたことになります。
「その社長さんは元々証券マンで、アメリカに渡って銀行などで働き現地で結婚。日本ではエステなどに使う高級コスメを販売する会社を興しました。社長さんが他界してからは、その息子さんの日系アメリカ人が会長に就任、日本側で長年働いていた女性が社長になり、二人体制で会社を経営することになります。私は引き続き、亡き社長が考えていた方向性を維持させてあげたいと思っていました。それが恩のある社長に報いることだと」
一方で長年その会社に尽くしてきた女性社長は、これからは自分のやり方で会社を経営したいと思うように。対するD氏は役員会などで、経理上の問題点を提示するようになります。双方の理想と現実がぶつかり合い、その会社との契約は2024年に終了します。
中年期の危機を迎えると今までの仕事のやり方が否定されたり、うまくいっていたはずの人間関係を再構築せざるを得ないような問題が起こったりします。仕事や生活には大きな変化はなくても、D氏の四十代は仕事の進め方や顧客との関わり方を再考させられる時期だったかもしれません。
「前の経理事務所を辞める27歳の頃から、いつかは税理士試験を受けたいと思っていました。でも計理士の仕事というのは10月から5月までが繁忙期で帰りが終電になる日も多く、試験は1年に一度、8月第1週目です。6月と7月しか試験勉強に充てられません。何年か勉強し、そのうち子育てが忙しくなり、また何年かやって断念する、を繰り返していました。それがコロナで電車通勤がなくなり、勉強時間を捻出できるようになりました」
四十代後半に差しかかる頃、D氏の本気スイッチが入ります。税理士試験の中の5科目中2科目は、大学院に通って修士論文を書くことで免除されるとのこと。そこでD氏は一念発起して会計専門職大学院に通い、2年間ひたすら勉強して修士論文を書き上げます。
「授業料は200万円くらいかかりました。コロナ禍でしたがマスクをして授業を受け、まず簿記論、財務諸表論、固定資産税の3科目をクリアしました。修士論文は『交際費課税について』、この業界ではあるあるのテーマです(笑)」
中年期を迎えると、今まで使ってこなかった未発達の心の機能が、無意識の扉をこじ開けて表面に現れてきます。D氏の場合、出生図に風の星座も少ないので、人生の前半ではあまり思考機能を使ってこなかったかもしれません。風の要素が少ないと、言いたいことを言語化する能力が弱く、人によっては知的コンプレックスを抱く人もいます。四十代で大学院に行き、修士論文を書くという行為は、眠れる思考機能を目覚めさせるよい訓練になったでしょう。
「D氏の電卓のおかげで店が建った」
そして五十代を迎え、晴れて税理士試験にも合格したD氏には、新たな挑戦が待ち受けています。それは今の会計事務所を辞め、独立することです。 「現在の事務所の所長から、共同経営の話も出たのですが、彼とは少し仕事の方針が違うのです。所長は企業というか、しっかり単価の取れる顧客が欲しい。でも私はどちらかというと“入り込みたい”んです(笑)。私でなくてもいいクライアントではなく、私を求めてくれる人を探しにいきたいのです」
「ある顧客の話をします。最初は自宅の一角で始めたジュエリー制作ですが、努力して会社を興し、やがては原宿で店舗を出すまで成功しました。そこの女性社長が『D氏の電卓のおかげでコレ(店)が建った』と。グサッときました。これまで働いてきて一番うれしかった言葉です」
お話を聞きながら、私は心の中で「うわっ、典型的な蠍座発言、いただきました!」と小躍りしました。そう、蠍座は仕事に、また関わった人にも深く深く入り込みたいのです。口が堅くて愛情深い蠍座ならではの発言でした。きっとD氏は経理=金銭という数字を通じて、顧客の人生に深く関わり、その人が望む人生を送れるように背後から支える仕事がしたいのでしょう。
「お客さまの一言ひとことが大切。それが仕事のモチベーションになります。だから私は経営オンリーではなく、やはりお客さまの担当としてやっていきたいんですね」
世の中にはいろんなタイプの税理士さんがいます。D氏にはその豊かな感受性でクライアントの背後にある想いを汲み取り、彼らが幸せになる方向へと導く水先案内人になってほしいと思いました。
今後最大の課題は、彼のホロスコープで一つの惑星もない地の星座(感覚機能に相当)を意識し、自分の経験やアイデアをきちんと仕事や金銭という報酬に結びつけていくことにほかなりません。これからは苦手な営業にも挑戦して、しっかりと利益を上げていってほしいと思います。独立の際にはきっと彼の奥さまが重要な役割を果たすことになるでしょう。なぜなら奥さまは地に足のついた山羊座だからです。自分の苦手な機能を、パートナーや子どもを通じて学んだり補ったりすることはよくあります。また地の星座が欠けていると、自分の肉体の変化に無頓着なので、今後はもっと健康にも気をつけてほしいと思いました。
人はそれぞれの物語を生きて成長する
さて最後に私は気になっている質問をしてみました。
「幼少期に外国での恐怖体験があると、海外旅行に行くのも躊躇します?」
D氏は笑いながら答えてくれました。
「いや結婚してからは家族でバリ島や台湾、ベトナムにも行きました。うちの奥さんはホテルのエステに行くのが好きなんです。そういうとき私は娘たちとプールで遊ぶのですが、片時も絶対に離れませんっ(笑)」
そんな心配性の父親に育てられたお嬢さんたちも今では立派に成長し、それぞれ仕事を持ち、独立して暮らしているそうです。
中年期に目立った変化がなかった人の話が聴きたい、と思って始めたD氏へのインタビューですが、人間の心の中は複雑でとても深い。そしてどの人にも固有の物語があり、そのストーリーを生きる過程で人は大きく成長することができるのだと確信を深めました。
第7回(2026.3.6)
ケーススタディ 5
Eさんの心理タイプデータ
Eさんの心理タイプのバランス表をポイントで計算した場合
※各惑星のポイント表は第2回をご覧ください。
自分を取り戻す天秤座のEさんの生き方
今から10年くらい前、私が毎年出版している月のカレンダーのイベントが福岡で行われた際に、主催者の方から紹介されたのがEさんです。開口一番、「私は天秤座なのですが、月星座を調べてみてびっくり。自分の中でモヤモヤしていたことがクリアになりました。天秤座特有の、平和を愛し社交的で人とつながりたいという欲求が強いのは確かです。風の星座なので性格もサバサバしているのですが、月星座が蟹座でした。子どもの頃から空想好きでおせっかい、意外と傷つきやすい面もあり、その二つの性質が自分の中にあると知り、がぜんと占星術に興味が湧きました」と話してくれました。
Eさんは長年、幼児教育に携わった後にご結婚、そして5年に渡るつらい不妊治療を経たのちに出産を経験されています。現在では、子育て中のママたちを応援するさまざまな企画を全国で展開する、福岡では名の知れた方だったのです。幼児教育、学習塾、幼稚園や保育園などへのコンサルティング、講演、各種研修などにも尽力され、テレビ西日本(TNC)のローカル情報番組でも、子育て教育アドバイザーとしてレギュラー出演されています。毎日頑張っているママたちに「子育てをもっと楽しく!」を伝える「ママのご褒美サロン」を2011年から全国各地で行い、この15年間で延べ1万人⁉ の方が参加してくださっているとか。
いつも明るくてポジティブなEさんですが、ちょうど中年期にさしかかるころ、壮絶な不妊治療を経験したと聞いています。また子ども時代はアイドルに憧れていたという彼女に、これまでの人生についてお話を聞くことができました。
アイドルに憧れながらも、みんなを楽しませたい思春期
「子どもの頃から“妄想大好きっ子”でした。当時テレビで大人気だったピンクレディや山口百恵さんみたいな国民的アイドルになることを、リアル妄想しながら、自分のサインを考えたり、オリジナルソングを作曲してみたり(笑)。小学生の頃は、毎日、脳内アイドル活動に勤しんでいました」
これは蟹座に月がある子どもたちがよくやる遊びです。「もしこうなったら……」とリアルに想像して空想に耽るのです。月星座は自我に目覚める前の幼少期の性質を表します。夢見がちだった少女はやがて中学、高校へと進みます。勉強ができ福岡でも有数の進学校に入学したEさんですが、思春期ともなると太陽星座の天秤座らしき性格も現れてきます。
「社交的でみんなを楽しませたいという気持ちが強かったですね。体育の先生たちが歌え! と私を煽るんです。当時、テレビで芸能人の水泳大会がありまして、キョンキョンや早見優さんがよく出ていました。私の十八番は優ちゃんの『夏色のナンシー』でした。今、ご縁があってテレビのコメンテーターをしていますが、本番前に出演者みんなで気分を高めていく時間があるんです。よし! とスイッチが入る、その瞬間が好きなんですね。あ、でも私はタレントではなく(笑)子育て教育アドバイザーとして出演しています。観ているお母さんたちを元気にしたい。お洋服も品格を感じるものを選ぶようにしています」
上品で美意識やバランス感覚に優れ、人を楽しませたい、そして自分自身も人生を存分に謳歌したいというEさんの天秤座らしさが見えるエピソードです。
ここで改めてEさんの出生図を見てみましょう。ホロスコープを構成する10天体のうち、火(直観機能に相当)が4つ、残りの地(感覚機能)、風(思考機能)、水(感情機能)にはそれぞれ2天体が占めます。天体の数だけでは心理タイプは割り出せません。これに影響力の強い太陽や月などを点数化してカーブをつけてEさんの心理タイプを割り出してみると、直観(火の星座)10点、感覚(知の星座)2点、思考(風の星座)8点、感情(水の星座)6点という結果になりました。Eさんは天秤座生まれなので、クールで論理的な思考タイプかと思いきや、情熱的で未来志向、ひらめき重視の直観機能にも優れています。後にEさんは幼児教育で大手として成長する会社の黎明期に参加し、持ち前の直観機能を開花させて、会社の成長に大きく貢献することになります。
月星座が蟹座にあるので、水の星座には2天体しかないにもかかわらず、人の気持ちに寄り添う情緒的な面もあります。Eさんのホロスコープで、最も欠けている要素は地の星座の感覚機能でしょう。地球から遠く離れた冥王星や天王星が地の星座である乙女座に位置していますが、これは世代的なもので個人への影響はあまりありません。したがってEさんが人生後半に意識するべきは、五感を使って感覚機能を磨くことになるでしょう。
幼児教育の現場で、直観機能を発揮する
子ども時代に抱いたアイドルへの憧れも、大学に進むころにはいつしか忘れ、卒業後は大手英会話スクールに就職します。時代はまさにバブル期です。留学に興味があり旅行好きでもあったEさんは、出張なども多いその会社で3年間楽しく働きました。その後、彼女は次の就職先となる、やがては幼児教育の大手に成長する会社と出会います。右脳教育を提唱する七田チャイルドアカデミー(以下、七田)です。
「七田は幼児教育そのものがまだ認知されていない時代に、通信教育から始めた会社です。第1号教室の開校が1988年で、私が入社したのはその4年後くらい。まだ軌道に乗れておらず、ちょうど九州事業所を作るタイミングだったんです。営業目標は全国で200教室、生徒数を1万人に増やす! でした」
その際の面接官が後にEさんのメンター(仕事やキャリアのお手本となって若手社員を指導する人、精神的指導者)で、最終的には取締役副社長となる方だったとか。彼は組織としてこれからの時代、女性の営業職や女性の幹部リーダーの必要性を感じ、彼女を採用します。
「九州の教室が少なかったので、教室を増やさなくてはならない。営業して契約書を交わしたら終わり、ではありません。教室として成り立たせるためには、その方たちとよい関係を築いていかなくてはならない。できることは何でもやりました。メールのない時代だったので各お教室に足繫く通ったり、電話したり、ハガキを書いたり。太陽・天秤座の社交性&コミュニケーション力、そして月・蟹座の、相手の気持ちに寄り添ってお世話する力のおかげでしょうか。お教室はどんどんと増えていき、うれしいと同時に責任感もひしひし感じる日々でした」
右脳教育を謳う七田式教育については、当初から賛否両論があったといいます。それでもEさんは創業者の理念を深く理解して、一人でも多くの子どもたちやその母親たちを笑顔にしたいと頑張ります。興味深いのは七田式教育が提唱するイメージトレーニングや右脳記憶法は、ユングのタイプ論でいう直観機能を開発していくメソッドでもあります。ホロスコープのバランス表で、直観機能(火の星座の要素)に優れるEさんにとっては、とても共感できる勉強法だったに違いありません。
入社して数年後には会社も大きく成長し、Eさんはその功績を買われて30代そこそこで東京本部長に任命されます。仕事は大変だけどやりがいもある、まさに順風満帆の人生だったのでしょう。34歳で再び福岡支部に移動となり、Eさんは知り合いに紹介された4歳年上の男性と結婚します。
暗黒の不妊治療時代 思い通りにならない現実を突きつけられる
「新婚生活と仕事を両立させて、忙しくも楽しい日々を過ごしましたが、1年たっても妊娠の兆候がなく、少し焦りはじめました。私は健康優良児でしたし、結婚したらすぐに子どもができると思っていました。失礼な話ですが、もし何か問題があるとすれば、私よりも繊細、理数系で超インドア人間のオットに原因があるのではと。それでオットを引っぱって不妊治療で有名な病院の門をくぐるんです……。先生から告げられた事実は、『奥さん今、36歳? ちょっと赤ちゃん、できにくいかなぁ』だったのです」
30代後半といえばまさに中年期の入り口です。幼児右脳教育の現場で「イメージすることは実現する」という理論を日々実践してきたEさん。心に思い描いたイメージをもとに、ちゃんと行動を起こし、努力も重ねて仕事で実績を上げる。私生活でも理解のある配偶者に恵まれ、充実した人生を送ってきた彼女に、ミッドライフ・クライシスの陰が忍び寄ります。
「はい。そこから約5年にわたる不妊治療が始まります。当時の私はバリバリの熱血会社員で中間管理職。結婚適齢期の女性の部下も十数名いました。不妊治療はまずタイミング法(排卵時期を調べて妊娠しやすい時期を探る)から始まり、『人工授精』『体外受精』『顕微授精』と段階を踏みます。根本的に楽観的な私です。通院すればすぐに妊娠できるだろうと思っていました」
その後のお話は、なんとも壮絶な妊活ストーリーです。自然妊娠を促すタイミング法から、月1回の人工授精に進んでも妊娠の兆候はなく、やがては体外受精か、顕微授精を選択する段階に至ります。医者の勧めで顕微授精へと治療法をステップアップしたEさんですが、治療費などもそれまでに比べて格段に上がり、身体への負担もストレスも大きくなっていきました。
当時まだフルタイムで働いていたEさんですが、6回目の顕微授精が失敗に終わるころには39歳になっていました。彼女が不妊治療を行っていることを知った上司が、会社始まって以来の英断を下します。これまで女性初の営業部門管理職として頑張ってきた労いの意もあってか、1年間の妊活休暇を取得することになるのです。
何事もポジティブでプラス思考だったEさんですが、出口の見えない不妊治療を続けるうちに、いつしかマイナス思考に陥っていたといいます。
「ありがたすぎる辞令ですが、無給になると高額な不妊治療費が払えるのか。休暇中に妊娠できなかったら……。そもそも旅行以外に夢中になれる趣味もない。料理やハンドメイド?違うなと」
眠れる感覚機能を呼び覚ますレッスン
今一度、Eさんのホロスコープをひも解いてみましょう。火の要素である直観機能と風の要素である思考機能に優れるものの、五感を通じて世界を認識する感覚機能(知の星座に対応)が圧倒的に少ないのです。中年期の危機とは、「人生前半の価値観が崩れ、無意識の声が聞こえてくるとき」です。今まで使ってこなかった感覚機能を無意識の中から呼び覚ますべきときが来たようです。
「妊活休暇を取るご報告に、今までお世話になった方々にご挨拶に行ったら、こんな言葉をいただきました。いつも仕事に一生懸命で、季節を感じることもなかったのではと。空を見上げて雲の形を眺めるとか、道端の花の香りを嗅いでみるとか。これからはぜひそんな日々を過ごしてみて、と言われたんです」
1年間の妊活休暇とは、まさに人生のリトリート期間だったのでしょう。忙しい仕事や日常から一時的に離れ、心身をリフレッシュし、自分自身と向き合う特別な時間を過ごす。Eさんはその期間を「仕事を忘れ、五感を大事にする日々を過ごす」と決め、毎日散歩をしたり、ヨガや運動に通って体作りにも取り組んだそうです。それはまさに眠れる感覚機能を呼び覚ますエクササイズだったのでしょう。不妊治療に関する匿名ブログも始め、同じ悩みを持つ女性たちとも交流していったそう。自分に足りない感覚機能=五感を磨きつつ、人とのつながりを求める天秤座らしさも発揮するEさんに、有力な情報がもたらされます。
「妊活休暇も4か月が過ぎたころ、ブログ仲間から別の病院を紹介されるのです。そこでも顕微授精を勧められます。病院を変えることが何となく背徳行為のような気がして悩んだのですが、どうしても子どもが欲しい。通院中だった不妊治療専門病院では、7回もの顕微授精を行いましたが(子どもが)授からなかった。その病院で8回目の顕微授精に臨むのですが……」
決して妊活をあきらめなかったEさんに奇跡が訪れます。40歳のクリスマス前にEさんは妊娠し、41歳になる2か月前に男の子を無事出産します。
「5年に及ぶ不妊治療では、顕微授精1回30万円x8回で240万円。数えきれないほどのホルモン注射1回1万円。薬代に通院のための交通費などを入れると、ゆうに500万円はかかりました。それでもどんな大金でも買えない、世界で一番の宝物を授かりました」
奇跡の妊娠。心の機能を息子に教えられる奇跡の日々
長期に渡る不妊治療期間、それは同時に自分の無意識の海を航海する旅のようなものだったのではないでしょうか。そもそも天秤座は人間が備え持つネガティブな部分、醜い性質などをできれば見たくないと願う星座です。自分の心の深層と深く向き合わざるを得なかった妊活期間には、きっと自分の嫌な面や弱い部分も見ただろうと思われます。その旅の終わりにEさんが手にしたのは、中年期の危機を心豊かに過ごす最強のカードです。
それはEさんの息子さんのKくんです。なんと彼はEさんの出生図の中で最も弱い感覚機能に対応する地の星座・乙女座生まれです。しかもKくんは出生図で圧倒的に地の星座が多い感覚タイプです。Eさんは息子Kくんを通じて、人生の後半には五感豊かな感覚の世界に触れ、経済観念やコツコツと地道に何かを築き上げていく術なども学んでいくことになります。
時は流れて、子育て中のEさんと息子Kくんが交わす会話の中にも、大きな発見があります。
「夕食の準備中に息子が、目を輝かせながら『お母さん、見て、見て』と読んでいる本を見せに来ます。私は『今、急いでごはんを作っているから、もうちょっと待ってね』と答えていました。そんな状況が続くある日、息子が言うのです。『お母さん、“もうすぐ”とか、“もうちょっと”ってよく言うけど、あと何分なのか、具体的に言ってくれないとわからないよ』と。素直に感心してしまいました。それからは『あと30分、今7時だから7時半になったら』と時計やテレビの時刻を指しながら伝えると、時間の概念を教えるいい機会にもなりました」
なるほど~。これぞ概念的な風の星座・天秤座母VS具体的な地の星座・乙女座息子の会話です。私の知るケースでは、高齢出産、つまり中年期の危機を迎えるころに生まれた子どもが、母親のホロスコープに欠ける心理機能を多く持っていることがままあります。たとえば出生図に風の星座がゼロの母親に、風の星座だらけの娘とか。相性の良し悪しはケースバイケースですが、きっと人生後半に子どもから教えられることが多いのでしょう。
さらなるクライシス。メンターとの決別 独立を決意する
ミッドライフ・クライシスに関わる惑星は、84年を公転周期とする天王星です。Eさんが天王星のハーフリターン(半回帰)を迎えたのは、41~43歳(天王星が動きが遅いので、その影響は数年間に及びます)でした。それはちょうど、育休期間を終えたEさんが会社復帰を果たしたころに符合します。Eさんの出生図の天王星の位置(乙女座25度)に対し、進行中の天王星が真反対に来たとき、面接で彼女を採用してくれた方が経営陣と袂を分かつことになり退職します。
「育児と仕事の両立は大変でしたが、毎日が楽しく一生、七田で働くつもりでした。私の恩人、メンターでもある方が辞めると聞いて呆然となり、吐き気すら催しました。それくらいショックな出来事でした」
その後しばらくしてEさんは20年以上も働いた会社を退職し、子育て教育アドバイザーとして働きはじめます。きっとEさんにとってのミッドライフ・クライシスは、まず前哨戦としての不妊治療期間に始まり、やがてはメンターからの自立や個人事業主としての独立の時期に重なっていたようです。
独立後、Eさんはブログを活用し、子育て中や妊活中のママたちとのネットワークを広げていきます。そして息子さんが3歳になるころ、がんばっているママたちを笑顔にしたいとの思いから「ママのご褒美サロン」を始めます。
「自分自身がママになって感じたことは、ママだって認めてもらいたいし、自分を見つめ直す場や、同じ立場のママたちと出会い話をする機会が欲しい、だったのです。でも公民館やビルの会議室では夢がない……」
Eさんはママたちが日常を離れ、少し優雅な気分になれる素敵なカフェを見つけ、そこを会場にすることに。このコンセプトは美意識が高く社交性に優れる天秤座ならではの発想です。面白いことに、「ママのご褒美サロン」を始める際、Eさんの中には3つの重要な取り決めがあったといいます。それは、
1、 参加された方々、一人ひとりが自分のことを話す時間を作る
2、 お子様のことを話してもらうときには「親バカ」になってもらう
3、 参加された方どうしのご縁をつないでいくこと
やはりEさんは論理的に物事を考える思考機能に優れるタイプで、人と人とをつなぐ力に長ける天秤座だなと思わされます。単に集まってダラダラおしゃべりをし、愚痴をこぼしあうのではなく、未来につながるコンセプトを考え、そこはクールに運営をしていく。だからこそ、この「ママのご褒美サロン」はその後、15年も続き、1万人に近い方々の社交の場となったのではないでしょうか。
風の星座の軽やかさで“自分自身”を生きる
その後のEさんは、育児期女性が柔軟に働ける環境を提供し、彼女たちの社会復帰をサポートするNPO法人などの理事も務め、企業とママ人材をつなぐ「ママドラフト会議」などにも関わっています。50代初めには育児や教育、女性の就労などについての初のご著書も出版、またママたちとリアルな交流ができなかったコロナ禍には、オンラインサロンを始めるなど、まさに八面六臂のご活躍ぶりです。
「いや単にみなさんが心配で、基本、おせっかいなんです。今では幼稚園や保育園の顧問として経営者の方をサポートしたり、小学校のPTAの方から頼まれて講演や講座をやったりもしています。今後は会社員時代の経験も生かし、幼児教育もしっかりやっていきたい。またそのお教室を経営する人たちが立派にお金が取れる人になるように(つまりビジネスとして成り立つように)育てていきたいのです」
このインタビューは、福岡にあるEさんおすすめの健康的なランチができるおしゃれなカフェで行いました。
「ミッドライフ・クライシスを迎えたころは、仕事に育児と無我夢中でした。ホロスコープで私に欠けている感覚機能を、息子から教わるというのが面白いですね。いつも忙しく『誘われたら断らない』でスケジュールを埋めてしまう私ですが、自分の精神面を落ち着かせるために『静の日』というのを設けています。その日は時間に縛られずに事務処理をしたり、自分自身と向き合ったり、家族のためにちょっと凝った料理を作ったりします」
さすがバランス感覚にも優れる天秤座です。仕事や自分の心が不安定だった中年期の危機の教訓を生かし、自分に欠けている心の機能を自覚しながら、充実した五十代後半を過ごしているようです。
人はミッドライフ・クライシスを迎え、無意識の中にある「パーソナリティの劣っている部分」や「使ってこなかった心の機能」に出合います。そこでめざすのは、「もっと優れた別の人間」になることではありません。私たちは中年期の自分の心の中を旅して、やがては「私自身」に帰ってくるのです。でもそれはかつての「私」ではなく、苦手な機能を自覚し、その機能を少し使えるようになった「私」です。
根が真面目なEさんは私に質問します。
「私に足りない地の星座の要素、感覚機能を自覚するには、もっと何かしたほうがよいのでしょうか」
私はちょっと意地悪く答えます。
「うう~ん。手の感覚に集中する趣味? たとえばパンをこねるとか、あ、でも苦手だろうなぁ。山に一人で籠って土をこねる陶芸とか(笑)」
「一人で、ですよね(汗)。あ~無理です、無理です。私なら仲良しの友人に『お金は払うから一緒に行って』と誘っちゃいますね」
これぞ天秤座! どこまでも社交的で、人とつながっていたいEさんでした。
著者 岡本翔子(おかもと・しょうこ)
心理占星学研究家。ロンドンにある英国占星学協会で、心理学をベースにした占星術を学ぶ。英国占星学協会会員。
『完全版 心理占星学入門』(文春e-Books)、『「月のリズ ム」で夢をかなえるムーン・マジック』(KKベストセラーズ)、『占星学』リズ・グリーン著(青土社、鏡リュウジ共訳)、『月の心理占学』(方丈社)、『月 のリズムで暮らす本』『月の大事典』テレサ・ムーリー著 (ヴィレッジブックス、監訳)『ハーブ占星術』エリザベス・ブ ルーク著(東京堂出版、翻訳・監修)など、著書・訳書多数。
月の満ち欠けカレンダーを記し、月のリズムを生活に生かすヒントが満載のダイアリー『MOON BOOK』は2004年からのロングセラーで、2024年からWEBサイト版がスタート。『MOON BOOK 2025』がサイト内で発売中。自身が毎年発行する『MOON CALENDAR』(リボンシップ)も好評発売中。
また、占星術と料理、コスメ、旅などを組み合わせたコラムを『CREA』『美ST』『料理通信』『ESSE』などの雑誌連載を中心に執筆。『CREA』、「CREA WEB」、「婦人画報」など多数の女性誌にも、月間星占いや月星座占い、ムーンカレンダーを連載中。毎年、各地でセミナーやイベントを行い、開催ごとに盛況となっている。
モロッコの砂漠で見る月に魅せられ、三越旅行や風の旅行社と組んで不定期に「月の砂漠ツアー」を行っている。
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