ミッドライフ・クライシス -占星術と歩く中年期の危機-

ミッドライフ・クライシス

-占星術と歩く中年期の危機-

ミッドライフ・クライシスとは、四十代から五十代前半にかけて経験される心理的・感情的な不安や葛藤のこと。そんな、さまざまな出来事に直面している人たちを、岡本翔子さんがインタビューします。
困難にぶつかったとき、占星術を通して人生を振り返り、今後の豊かな未来を探っていく歩き方、あなただけの生き方を、岡本さんとともに見つけてみませんか。



中年とは第二の思春期

 人の一生にはいくつかのステージがあります。人生の中で若さやエネルギーにあふれ、さまざまな経験を通して成長する時期といえば思春期でしょうか。
思春期とは十代後半の自我の目覚めとともに、一人の人間として自分を確立しようとする時期を指します。
 この時代は言い換えれば「青春」真っ只中です。心と体にも変化が訪れ、目前に広がる未来に心が躍る。と同時に自分に自信が持てず、傷つきやすく精神的に不安定になったりします。 また友情や恋愛を通じて多くの感情を味わい、自分自身を見つける大切な時期でもあります。親から独立したいという自立心も芽生えます。その過程では、逆に親に対する依存心も強くなり、心が揺れることもあるでしょう。やがて私たちは「自分とは何者か」ということを模索していく。そして思春期の子供たちは、社会や親、友だちの影響を受けながら、アイデンティティを確立していきます。

 ではこの思春期を抜けたら、私たちは立派な大人になれるのでしょうか。
 実は私の四十代は、激動そのものでした。二十代前半に占星術と出会い、若さゆえの情熱でロンドンにある英国占星術協会の門を叩きました。帰国後、ロンドンで学んだ心理学をベースにした占星術を日本に紹介しようとしても、何のつてもなく不安な日々を過ごしました。それからいくつかの出会いがあり、最初の書籍を出版できたのは29歳でした。二十代後半はアルバイトに明け暮れる日々で、人生最高に暗かったと記憶しています。
 三十代は雑誌創刊ブームの波に乗り、数々の女性誌の連載を任されることになり、気がつくと原稿料だけで生活できるようになっていました。そして三十代も終わりに近づく頃、「いつも真夜中まで仕事をしている。星座や惑星についての文章を書きながら、実際の星を見ていない」と思い至ります。遠い遠い宇宙の彼方から、「このままでいいのか」と声が聞こえたような気がしました。  「サハラ砂漠で満天の星を見てみたい」と思い立ったのが、運命の新しい扉を開くきっかけになりました。モロッコにある砂漠に魅了され、イスラム圏という異文化にもみくちゃにされるうちに、アラビア語の必要性を感じて学校に入り直し、アラビア語漬けの日々を数年過ごすという……。その間は今までの価値観がひっくり返るような経験をいくつもしたものです。今となってはこの激動の時代を懐かしむ余裕もありますが、中年期に直面したさまざまな出来事が、血となり肉となって自分を支えてくれているような気がします。私の話はこのくらいにして、本題に戻りましょう。

 学校を卒業し初めての仕事に就き、恋をして結婚する人もいます。現代では思春期のままモラトリアム状態となり、定職に就かないまま人生を模索し続ける人もいます。また時代の影響を受け、仕事を得るのに困難を極めた就職氷河期世代の人もいるでしょう。
 やがて「不惑」と呼ばれる四十代が近づく頃、どの人にも等しく人生にはさまざまな変化が訪れます。「不惑」とは数え年で40歳を指す言葉です。孔子の論語に由来し、この年齢になると迷いや悩みがなくなるとされてきました。孔子の生きた時代とは違い、現代では寿命も延び、選択肢の多さがかえって私たちを苦しめます。逆に不惑の年を迎える頃、私たちは「この人生で本当によかったのか」「もっと別の人生があったのではないか」などと悩むことになります。

 このように四十代から五十代前半にかけて経験される心理的・感情的な不安や葛藤を「中年期の危機(Middle Age Crisis もしくはMidlife Crisis)」と呼びます。この時期、人は自分の人生の意味、限界、社会的な達成、老い、そして死などについても深く考えるようになり、強い焦りや不安を覚えるような出来事が起こります。 人生の折り返し地点が来たような気がして、自分のこれまでを見直し始める人もいるでしょう。ふと鏡を見ると、そこには外見の変化も見てとれる※。二十代、三十代に比べて体力が低下し、夜更かしした翌日には肌の張りもなく、白髪や皺を見つけて落ち込んだりすることも……。
 人間関係にも変化があります。あんなに仲の良かった友だちとも、いつしか疎遠になってしまい、パートナーとの関係も見直さざるを得ないような出来事が起こります。子どもの独立や反抗期と自身の中年期が重なる人も多いでしょう。
 仕事では部下や後輩についての悩みも増えます。今までの仕事のやり方が通用しなくなり、やりがいを失う人もいれば、転職を本気で考える人もいそうです。 もちろん悪いことばかりではありません。今までのキャリアを生かして独立を果たしたり、重要なポストを任されて身の引き締まる思いがする人もいるはず。また四十代になってから、全く新しい分野の仕事に挑戦したくなったりするかもしれません。
 いずれにせよ、中年期は変化の時代であることは間違いありません。この時期に突発的な行動に走るというのも、よくあることです。いきなり高級車を買ってみたり、洋服の趣味が変わったり、一人旅に出たくなったりします。
 不倫に走る人もいれば、長年の夫婦生活に終止符を打ち、離婚を決意する人もいるでしょう。また独身を貫いてきた人が、突然、結婚するというパターンもあります。新しい趣味を始めたり、習い事に没頭したり、「推し活」に目覚めるひともいます。

「四十にして惑わず」とは、孔子の論語からの言葉と前に書きましたが、現代の40歳は、ある意味、惑いっぱなしなのかもしれません。人生で光り輝いているのは、何も青春時代ばかりではありません。まるで微熱を帯びたように人生を彷徨(さまよ)うこの特別な期間は、第二の思春期なのではないでしょうか。
「中年期の危機」をネガティブに捉える必要はありません。むしろそれは人生を再評価し成長する機会であると捉え、楽しんでみてはどうでしょう。適切に向き合えば、この特別な期間を、より充実した後半生の始まりにすることができるはずです。


天王星のサイクルと中年期の危機

 星座占いでおなじみの占星術、とりわけ私が学んだ心理占星術では、天王星という惑星のサイクルを基に、どの人にも等しく、人生を再調整せざるを得ないような社会的、または内面的な危機が訪れると説きます。

 天王星の公転周期は84年。太陽の周りを移動するのに84年かかります。本格的な占星術では、その人の生年月日、出生時間、出生地を基にバースチャート(出生図)を作ります。その人が40歳から42歳の間に、天王星はバースチャートの元々の位置と真反対になります(たとえばある人の出生図の天王星の位置が天秤座の10度の場合、天王星は正反対の牡羊座の10度まで進む)。それをウラヌス・ハーフリターン(天王星の半回帰)と呼び、重要視します。
 このウラヌス・ハーフリターンは、心理学者ユングが「中年期の危機」と呼んでいる心の発達の危機と符合するのです。

 ユングは人生を二つの大きな段階に分けて捉えています。

人生の前半(中年期以前):
社会的な自我(ペルソナ)を築く時期。外の世界での成功、地位、家族、社会での役割を追い求める

人生の後半(中年期以降):
内的な自己と向き合う。無意識との対話。生きる意味を探究する。精神的、霊的成長の時期。

 ユング心理学でいう中年期の危機とは、「人生前半の価値観が崩れ、無意識の声が聞こえてくるとき」を指します。中年期を単なる人生の倦怠期や気分の落ち込みではなく、「個人が真の自己(セルフ)と向き合い、精神的変容を遂げるチャンスを秘めた時期」と捉えているのが特徴です。

 天王星はギリシャ神話の天空の神・ウラヌスと関係づけられています。1781年、近代天文学の父と呼ばれるW・ハーシェルによって発見されました。天王星は現状を打ち破り、あらゆる規制や束縛から自由になろうとする心の欲求を表します。天王星が自由と革命の星と呼ばれるのはそのためで、発明や独自性とも関わります。
 天王星が出生図の位置とオポジション(真反対、180度の角度)をとると、それまでの人生で生かすことのできなかったパーソナリティの劣っている部分や、使ってこなかった心の機能が、まるでパンドラの箱を開けたかのように飛び出してきます。それこそユングのいう「無意識の声が聞こえてくる」時期なのです。
 ではそれぞれの人の「パーソナリティの劣っている部分」とか「使ってこなかった心の機能」とは一体何なのか。それを具体的に知ることで、この不安定でありながら魅力的でもある「中年期の危機」を、やみくもに恐れずに迎えることができるのではないでしょうか。
 それには本格的な出生図を作る必要があります。最近ではネット上に無料のホロスコープ作成サイトがあるので、一度、作ってみるとよいでしょう。巷の星占いでは、出生時の太陽の位置を基に誕生星座とします。春分の日以降、4月下旬までに生まれた人は、どの世代であっても「牡羊座生まれ」となります。ところが自分のチャートを作ってみると、出生時の太陽だけではなく、月や他の惑星の位置までもが記されていることがわかります。

Astrodienstの無料ホロスコープ作成サイト
https://www.astro.com/horoscopes/ja

 第2回目の連載では、第47代アメリカ大統領、ドナルド・トランプのバースチャートを参考に、心理占星術でいう心理タイプの出し方を説明します。それによってあなたが中年期に取り組むべき課題が見えてきます。
 また第3回目からはケーススタディとして、さまざまな方にインタヴューをし、中年期の危機を迎えて起こる出来事をその人独自のストーリーとして紹介。きっと回を重ねるうちに、第二の思春期とも思えるミッドライフ・クライシスにどう向き合うか、そしてそれをどう乗り越えていくかが見えてくると思います。

「中年期の危機」というテーマは、何も40歳から42歳の人限定というわけでもありません。これから四十代を迎えようとする人、また既に四十代前半は過ぎたが、いまだにこのテーマと向き合い続けている人、五十代でありながら「自分にとっての中年期の危機とは何だったのか」を探ってみたい人、また六十代以上にとっても自分の人生を振り返り、精神的に豊かなシニア時代を生きるための一助となるでしょう。


著者 岡本翔子(おかもと・しょうこ)
心理占星学研究家。ロンドンにある英国占星学協会で、心理学をベースにした占星術を学ぶ。英国占星学協会会員。
『完全版 心理占星学入門』(文春e-Books)、『「月のリズ ム」で夢をかなえるムーン・マジック』(KKベストセラーズ)、『占星学』リズ・グリーン著(青土社、鏡リュウジ共訳)、『月の心理占学』(方丈社)、『月 のリズムで暮らす本』『月の大事典』テレサ・ムーリー著 (ヴィレッジブックス、監訳)『ハーブ占星術』エリザベス・ブ ルーク著(東京堂出版、翻訳・監修)など、著書・訳書多数。
月の満ち欠けカレンダーを記し、月のリズムを生活に生かすヒントが満載のダイアリー『MOON BOOK』は2004年からのロングセラーで、2024年からWEBサイト版がスタート。『MOON BOOK 2025』がサイト内で発売中。自身が毎年発行する『MOON CALENDAR』(リボンシップ)も好評発売中。
また、占星術と料理、コスメ、旅などを組み合わせたコラムを『CREA』『美ST』『料理通信』『ESSE』などの雑誌連載を中心に執筆。『CREA』、「CREA WEB」「婦人画報」など多数の女性誌にも、月間星占いや月星座占い、ムーンカレンダーを連載中。毎年、各地でセミナーやイベントを行い、開催ごとに盛況となっている。
モロッコの砂漠で見る月に魅せられ、三越旅行や風の旅行社と組んで不定期に「月の砂漠ツアー」を行っている。
FaceBook 岡本翔子のMoonBook https://www.facebook.com/moonbook.jp/
岡本翔子オフィシャルサイト http://www.okamotoshoko.com
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岡本翔子監修WEBサイト「MOON CH」 https://www.moonch.jp

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