ミッドライフ・クライシス -占星術と歩く中年期の危機-
ミッドライフ・クライシス
-占星術と歩く中年期の危機-
ミッドライフ・クライシスとは、四十代から五十代前半にかけて経験される心理的・感情的な不安や葛藤のこと。そんな、さまざまな出来事に直面している人たちを、岡本翔子さんがインタビューします。
困難にぶつかったとき、占星術を通して人生を振り返り、今後の豊かな未来を探っていく歩き方、あなただけの生き方を、岡本さんとともに見つけてみませんか。
第5回(2025.12.21)
ケーススタディ 3
映画業界で充実した日々を過ごしていた蟹座のCさんが、
人生を一変させるような出来事をきっかけに、大切なものと出合うまで
Cさんの心理タイプデータ
Cさんの心理タイプのバランス表をポイントで計算した場合
※各惑星のポイント表は第2回をご覧ください。
占星術ではその人の人となりを判断するのに、出生図(バースチャート、またはホロスコープという)を作成します。その中で重要視するのが太陽星座(通常、私たちが〇〇座生まれと呼んでいるもの)と月星座です。
今回インタビューするCさんからいただいた出生データは、出生時間が少々アバウトでした。そのデータをもとに、出生時の月星座の位置を調べると蠍座29度となりました。このように星座と星座の境目に月星座が位置している場合、生まれた時間が数分遅くなると月星座が蠍座の次の星座、射手座になる場合もあります。
月星座は子ども時代の本能的な欲求、まだ自我がめばえる前の無意識的なふるまい、気質を表しています。Cさんの月星座は蠍座か、それとも射手座か。それを判断するために、まず「どんな子どもだったか」をたずねてみました。
射手座に月がある少女が夢見る世界は
銀座鉄道に乗って遠い惑星を旅することだった
「子ども時代ですか? そうですね。知らないところに行きたい。知らない場所をうろうろするのが楽しかった。あ、小学生の頃、アレルギー性結膜炎にかかり、市の中心にある眼科に通うことになるんです。でも両親が働いているので、一人でバスに乗って行かなきゃならない。寂しいとか不安だというより、ワクワクしましたね。親に連れられてくるほかの子どもたちの前で、眼科の先生が、『一人で通って来てえらいね』と。それも嬉しかったです」
月星座が射手座にある子どもの特徴は、自由が好き、未知の世界に憧れを抱く、冒険に心を躍らせる、正直でフランク、失敗しても懲りないなど。この話を聞いて、彼女の月は射手座なのではないかと思い至りました。さらに決定打となるエピソードがこれです。
「ちょっと恥ずかしいのですが、松本零士の『銀河鉄道999』が好きでした。寝る前にカーテンを開けて星空を見て、銀河鉄道に乗って遠い惑星に行きたいと毎晩、星を見ていました」
射手座に月がある人は「今、ここではないどこか遠く」に思いを馳せます。それが海外への興味につながったり、SF映画好きになったりします。実際、Cさんは『ガタカ』『インターステラー』、古くは『2001年宇宙の旅』などが大好きだそうで、それが後に映画業界で活躍することになるのを暗示していたのかもしれません。
地元の高校からから東京の大学へ。
育った場所から脱出するのが第一で、何になりたいかは二の次だった
Cさんは中肉中背、穏やかで上品な雰囲気を持つ女性です。彼女が生まれたのは東北地方のある都市です。教育者も多い一族の中で育ち、ご両親は彼女に学校の先生になってほしい、と願っていたようです。
「高校は進学校の国立コースでした。クラスに女子は4,5人だけ。地元に残ってほしいという親の思いもわかっていましたが、とにかく離れたかった。だから大学はどこでもよかったんです。勝手に自分で私立の推薦枠を取りつけて、東京の大学に進学しました。育った場所から脱出するのが第一で、何になりたいかは二の次でした」
思春期のCさんの、育った環境から離れて「自由になりたい」という意思がひしひしと伝わってきます。ここまで彼女の射手座の月を象徴するようなエピソードが続きましたが、Cさんは想像力が豊かで、人の気持ちにも敏感な蟹座生まれです。蟹座のキーワードは、感受性が豊か、親密な人間関係を好む、記憶力に優れるなど。また守りたい、育てたい、安心したいという心の欲求が強い星座です。
「本が好き。映画も大好き。父の贈り物はいつも本でした。私の育った地域の学校では、自分で学習ノートを用意する習慣がありました。自分で1ページ目は算数、2ページ目は国語などと決めて、自主的に学習していく。ところが私は1ページ目に詩を書いていました。絵も描きましたねぇ。何かを作る、モノを書く。そういうことに興味がありました。将来はなんとなく出版社? ドラマも好きだから放送局? などと漠然と考えていました」
情緒豊かで繊細な蟹座(太陽星座)と自由を求める射手座(月星座)の組み合わせは、心の中で葛藤を生み出します。何かに帰属したい、安心したいと願う蟹座と、理想の世界を求めて暴走する射手座が常に心の中で戦っている状態です。
また学生時代のCさんは、「絶対に先生になりたくない」という心の声に従い、あえて教職を取らなかったそうです。そして就活の時期を迎え、まず大企業である某生命保険会社に就職します。
「数字にはまったく興味はなかったけど、あえて金融に行く。かなりねじ曲がった考えですよね。しかも1年で辞める覚悟で。お給料も福利厚生も素晴らしかったのですが……。私って何が好きだったんだろうと考えていたら、映画専門のPR会社の募集を見つけて転職をすることに。23歳でした」
インディペンデント系映画配給会社に転職し、
射手座の月のひらめきを十分に発揮
CさんはそのPR会社で3年働き、26歳の時に映画のPRだけではなく、その映画に一から関われる独立インディペンダント系配給会社に転職します。
「楽しかったですね。海外のマーケットですでに他の配給会社が買っていた、後にカルト的な人気を誇る映画に出合うんです。主演男優はまだ日本で知られていなかった。その買い付けに成功し、その映画のキャッチコピーからタイアップ企画まで、すべてに関わることができました。少人数のチームで一つの映画を世に出していく……。その面白さを知り、そこで3年働きました」
当時の熱狂が伝わってくるようなCさんの説明に、聞いている私までワクワクしました。確かにそのちょっとカルト系の映画は、当時日本で一大ブームを巻き起こしたのを私も覚えています。大企業の一社員から信頼できる少人数のチームで働くというワークスタイルは、人と人との絆を大切にする蟹座にとって最も心地よい働き方です。しかも「これは絶対に当たる!」と直観を働かせて、先の見えない未来に自分を賭ける映画の買い付け作業では、ひらめきに優れる射手座の月を十分に発揮できたのでしょう。
その後、メジャーな配給会社からお声がかかり29歳で転職。そこから約10年、映画業界やエンターテインメント業界で働きます。大きなプロジェクトが始まると、昼も夜もなくハードワークが続く業界です。やりがいもあり充実した日々でしたが、Cさんはよく「四十代以降はまったく別の仕事をしていると思う」と口にしていたそうです。
東日本大震災とミッドライフ・クライシスがシンクロしたあの日から
心の中では何とも言えない違和感がふくらんでいく
そして41歳になった2011年3月11日、日本全体を震撼させることになる象徴的な事件が起こります。東日本大震災です。ちなみにCさんの出生時の天王星の位置は天秤座の0度です。天王星の公転周期は84年、東日本大震災の翌日に天王星は牡羊座の0度まで進み、Cさんの出生時の位置とぴったり180度を形成していました。天王星のハーフリターン(半回帰)、まさにミッドライフ・クライシスの時期と震災が符合したパターンです。
(注:Cさんは1969年生まれ。その年前後に生まれた人々は、東日本大震災の時期に中年期の危機を迎えた世代です。ある特定の出来事、天災や政変、景気の変動などと中年期の危機が、ある世代全体にシンクロすることはよくあることです)
「その日は、夏に公開する映画のプロデューサーが来社してプレゼンを受けることになっていて……。余震で部屋はガタガタ揺れる、ハンガーが大きく波打っていて、でもプレゼンは聞かなくてはならない。私、東北出身じゃないですか。こんなことをしていてよいのか。このままの生活でよいのかと激しく心が揺れました」
その後、Cさんの心には何とも言えない違和感が広がり始めます。中年期の危機とは、「人生前半の価値観が崩れ、無意識の声が聞こえてくるとき」です。改めてCさんのホロスコープ(出生図)の心理タイプのバランス表を見てみましょう。人間の心を構成する4つの機能(直観・感覚・思考・感情)と占星術の4元素(火・地・風・水)を対応させてみると、どの機能もバランスよく配分されています。しかしCさんの前半生を振り返ってみると、射手座の月が優位に立ち、親の願いを振り払って東京の大学に進み、ひらめきと直観で映画&エンタメ業界を渡り歩いてきたような気がします。
また水象星座の蟹座でありながら、水の星座に天体が2つしかないのも特徴です。そして最も少ないのは風の要素、思考機能です。人生後半を迎えたCさんは、その後どんな人生を歩むことになるのでしょうか。
生け花との出合いをきっかけに
京都の染織の世界に直観で飛び込む
「震災後も正体のわからないモヤモヤを抱きつつ働いてきましたが、43歳で海外の番組を日本の配給会社に紹介する会社に転職しました。それまで自分の手掛けた“企画が当たる、当たらない”で一喜一憂する仕事でしたが、そこは定時で帰れる職場だったので時間に余裕ができました。そして生け花と出合う。これだ! と思いました」
ミッドライフ・クライシス真っただ中、Cさんの人生後半の幕が開きます。
「映画のPRでクリエイティブなこともやってきたつもりでした。でも花は空間的? ポスターなどとは違って立体的で、しかも生き物です。野に咲いているように活ける“投げ入れ”をやると、自分も元気になるのが面白かった」
生け花という新しい世界の扉が開き、花を活けることにのめり込んでいくCさんでしたが、思わぬ壁にぶち当たります。
「生け花を続けるにつれ、せっかく素敵な花器、素敵な花たちがあるのに何かがうまくいかない。花が言うことを聞いてくれないのです。何度もやり直すうちに、花も元気を失くしてくる。先生は『植物の声を聴いていない』『花に任せろ』とおっしゃるのですが、それが理解できなくて苦しみました」
そんなCさんに素晴らしい出会いがあります。たまたま観たテレビのドキュメンタリー番組が、京都在住の染織家で随筆家でもある方による、まさに『植物の声を聞く』というものでした。
「もうこれだ!と思って、その染織家の方がやっているワークショップに毎週末通うことになるんです」
40代でこのフットワークの軽さ! やはり聞けば聞くほど、Cさんは直観機能が優位なタイプです。その半年後、会社を辞めてその先生がやっていらっしゃる、芸術体験を通して染織を学ぶ学校に入り、人生のリトリート期間ともいえる楽しい学生生活を京都で送ることになります。
「植物の声を聴くこと」をヒントに
草木染めで五感を鍛え「私」を手放すことができるように
「その学校では、まず手を使う、匂いを嗅ぐ。草木染とは植物の命をいただくこと。頭でこうなるのではなく、こういう色が出るわけでもなく、植物がそうなりたい色に任せるのです。今までは花にも人にも“心から任せる”ことができなかった。それがなぜか簡単に手放せちゃった。できた~! これだ! と」
面白くなってきました。Cさんは直観機能だけではなく、心理タイプのバランス表を見ると、地の星座にも金星以下4惑星があるので、実は五感を使う感覚機能も持ち合わせています。人生の前半では射手座の月ばかり使って、感覚機能は無意識の中で眠っていたのかもしれません。
「しかもその学校は、草木染めを技術で教えるというより、感性教育というんでしょうか。生き方そのもの、哲学のようなものを教わりました。ルドルフ・シュタイナーの本を読む勉強会などもありました。それまでは花を活けるにしても“私”が入り込み過ぎて、“私”を手放すことができなかった。でも何かが変わり始めました」
中年期を迎えた女性が何かを学ぶ、学校に入り直すというパターンはよくあります。何かを体系的に学び直すことで、未発達な思考機能を目覚めさせるのです。それがCさんの場合は、京都での約2年間の学生体験だったのでしょう。街を歩けば世界遺産がそこここにある京都。美しいものに囲まれて、幸福な日々が続きましたが、その生活にも終わりが訪れます。Cさんは48歳になっていました。
「映画業界にいた頃の上司から、いつまで京都にいるの? 戻って来いと連絡があり、貯金も少なくなってきたし一回帰るかと。それで馴染みの業界、動画配信サービスを行う会社の正社員として戻れました。私の人生はいつも“この話に乗ってみよう”で始まる。これでいいんですかねぇ」
根が生真面目なCさんは常に、「これでいいんだろうか」と自問自答しながら前に進みます。50代にはまた新しい挑戦が待ち受けていました。京都の学校で培った、染織の知識や技術を生かせる場所が信州にあり、その地域振興のプロジェクトで公的な補助金を得て、その街に移り住むことになります。私がCさんに出会ったのもその頃でした。共通の友人を交えて一緒に食事をしているとき、Cさんは私に質問をしました。
「モノ作りをやりたいと京都で学んだはずなのに、ときどき映画のPRの仕事を引き受けたりもします。またこの地域に残っている染織の技術を、後世に残していかなきゃという思いも強くて……。私は創作一筋の人ではないのでしょうか」
その気持ちはとてもよくわかる。冒頭の心理タイプのバランス表を見てもわかるように、出生図の惑星が、火地風水のどのエレメントにもバランスよく配分されている人特有の悩みです。しかも仕事運を司るホロスコープの天頂に多くの惑星があるので、あの仕事もこの仕事もそれなりにできてしまうのです。
「そうね。病みがたく創作活動をせずにはいられない、たとえば生け花や染織だけやっていれば幸せ、という人ではないと思う(笑)。でも四十代を過ぎてから、人生で使えるツール(道具)が増えるのはいいことなんじゃない」
と私は答えつつ、今まであまり彼女が語ってこなかった恋愛や結婚について話題を振ってみました。なぜならCさんの太陽星座は、人との情緒的なつながり、家族のように親密な人間関係を求める蟹座にあるからです。
自分の中にある情緒豊かな蟹座の性質に気づき、
親密な人間関係を得て豊かな人生を生きる
「三十代前半には結婚話もありました。双方の両親にも紹介が済み、いざ結婚となると『私を自由にさせてください』みたいな感じになってしまった(笑)。その後も何回かプロポーズされたことがあるんですよ。でも結婚が人生のゴールではないと、後になってから気づきました」
今の時代、女性にとって結婚は必須案件ではなく選択肢の一つです。結婚する必要はなくても、心が通じ合う親密な人間関係が蟹座には必要です。
「きっとCさんにはまるで家族のように親密な仕事仲間がいたんじゃない?たとえば映画関係家族とか、現在住んでいる信州ファミリーとか」
「います!います! 京都家族もいるんですよ」
Cさんは目を輝かせながら、嬉しそうにそう答えてくれました。
夜になったら窓を開け、『銀河鉄道999』に乗り込むことを夢に見ていた少女は、自分の直観に導かれて東京、京都、長野と人生の旅を続けています。ミッドライフ・クライシスを迎える頃には、自分の無意識の中で眠っている心の機能を使わざるを得ない出来事が起こり、悪戦苦闘しながらも人間的に成長し、その後も人生を楽しんでいるように見えました。中年期の危機と向き合うことは、生きる上で使えるツール(道具)を増やしていくことなのかもしれません。
そして自分の中にある、相反する太陽(蟹座)と月(射手座)の星座の性質を融合させることも、人生を賭けて取り組むべき課題といえます。
簡単に手に入るものはつまらないと、冒険に心躍らせる射手座の月に導かれて、やがては蟹座の太陽が望むもの——想像力豊かに生きる、親密な人間関係を築く、だれかを守り育む能力を発揮する——、それを手に入れることができたらCさんの人生はもっと豊かで意味深いものになっていくでしょう。
「最近になってようやく、自分の中で葛藤するその二つの性質を、どちらも肯定してよいのだと思えるようになりました」
そう微笑むCさん。ところで占星術の教科書には、月が射手座にある女性は外国人と結婚をする可能性もあると書かれています。実際、私は射手座の月を持ちアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、モロッコなどに移り住み、国際結婚をしている日本人女性を知っています。遠い世界に思いを馳せる射手座の月を持つCさん。この先、未知の国の人との電撃結婚もあり!? Cさんを前にして、そんな楽しい想像をしてしまいました。
著者 岡本翔子(おかもと・しょうこ)
心理占星学研究家。ロンドンにある英国占星学協会で、心理学をベースにした占星術を学ぶ。英国占星学協会会員。
『完全版 心理占星学入門』(文春e-Books)、『「月のリズ ム」で夢をかなえるムーン・マジック』(KKベストセラーズ)、『占星学』リズ・グリーン著(青土社、鏡リュウジ共訳)、『月の心理占学』(方丈社)、『月 のリズムで暮らす本』『月の大事典』テレサ・ムーリー著 (ヴィレッジブックス、監訳)『ハーブ占星術』エリザベス・ブ ルーク著(東京堂出版、翻訳・監修)など、著書・訳書多数。
月の満ち欠けカレンダーを記し、月のリズムを生活に生かすヒントが満載のダイアリー『MOON BOOK』は2004年からのロングセラーで、2024年からWEBサイト版がスタート。『MOON BOOK 2025』がサイト内で発売中。自身が毎年発行する『MOON CALENDAR』(リボンシップ)も好評発売中。
また、占星術と料理、コスメ、旅などを組み合わせたコラムを『CREA』『美ST』『料理通信』『ESSE』などの雑誌連載を中心に執筆。『CREA』、「CREA WEB」、「婦人画報」など多数の女性誌にも、月間星占いや月星座占い、ムーンカレンダーを連載中。毎年、各地でセミナーやイベントを行い、開催ごとに盛況となっている。
モロッコの砂漠で見る月に魅せられ、三越旅行や風の旅行社と組んで不定期に「月の砂漠ツアー」を行っている。
FaceBook 岡本翔子のMoonBook https://www.facebook.com/moonbook.jp/
岡本翔子オフィシャルサイト http://www.okamotoshoko.com
オフィシャルブログ https://ameblo.jp/okamotoshoko/
インスタグラム https://www.instagram.com/okamoto_shoko
岡本翔子監修WEBサイト「MOON CH」 https://www.moonch.jp