ミッドライフ・クライシス -占星術と歩く中年期の危機-
ミッドライフ・クライシス
-占星術と歩く中年期の危機-
ミッドライフ・クライシスとは、四十代から五十代前半にかけて経験される心理的・感情的な不安や葛藤のこと。そんな、さまざまな出来事に直面している人たちを、岡本翔子さんがインタビューします。
困難にぶつかったとき、占星術を通して人生を振り返り、今後の豊かな未来を探っていく歩き方、あなただけの生き方を、岡本さんとともに見つけてみませんか。
第4回(2025.10.15)
ケーススタディ 2
親に頼られ、マンションまで買わされても
飄々と受け止めてしなやかに生きる双子座のBくんの人生作法
Bくんの心理タイプデータ


1990年代初頭に、年上の友人から相談を受けたことがあります。「兄が和菓子屋を始めようとしているけどどう思う?」と。聞けばある事業に失敗し、起死回生の策を講じて新たに商売を始めるというのです。嫌な予感がする……。そしてその予感は的中し、数年もしないうちに、彼女のお兄さんの店は倒産してしまいます。お兄さんには3人の子どもがいました。
子どもたちの教育費にまで手が回らないお兄さんに代わり、広告カメラマンやスタイリストのマネージメント会社をやっていた友人は、まず長女を引き取り専門学校の費用を肩代わりします。その翌年、お兄さんの和菓子屋を手伝っていた23歳の長男の行く末を案じ、手に職をつけるべく、当時まだ開校して間もないデジタルハリウッドに送り込みます。もちろん学費や生活費なども、彼女が援助したといいます。
注:デジタルハリウッドはWEBデザイン、CGデザインが学べ、動画クリエイターなどを養成する専門学校
20代前半から親の借金を肩代わりさせられる
風の星座だらけのBくんの進む道
今回の物語の主人公は、私の年上の友人の甥であるBくん。私は彼が20代前半の頃から知っていて、ときどきBくんの仕事や転職の相談などに乗ってきました。時は流れて約30年。現在はあるゲーム会社でCGプロデューサーとして働く彼に、話を聞くことになりました。
「高校の頃は漠然と、文系の大学に行こうかと思っていましたね。経済学部とか。たいした目標もなく受験に失敗したので、父の商売を22歳まで手伝っていました。駅ビルの構内によくあるような和菓子屋です」
Bくんは中肉中背でどこにでもいるタイプの男性です。どことなく飄々としていて、若い頃から、そして現在も初対面では印象に残りにくいタイプかもしれません。
彼の出生図を調べると、大きな特徴があります。彼は双子座ですが、ホロスコープを構成する10惑星のうち7惑星が風の星座(双子座・天秤座・水瓶座)に集中しているのです。話をしていても感情的になることはなく、いつも冷静で淡々としているのが印象的でした。
「叔母の勧めもあり、1996年に23歳でデジタルハリウッドに入りました。楽しかったですよ。当時のデジハリ(デジタルハリウッドの略称)は社会人の生徒が多く、新聞記者や会社員、水商売のお姉さんもいて社会勉強になりました。 一通りCGが学べるので、CGのムービーが作れるようになるんです。デジハリ卒業生の就職先は、ゲーム関係、映画や広告、TV業界などが多かったですね。」
そして彼は24歳でデジタルハリウッドが提携している派遣会社に入って、ゲームなどの開発に携わることになり、その8か月後にはそのゲーム制作会社の正社員になります。そもそも大学受験でなぜ経済学部? その話を聞いたときに私は思わず「似合わない!」と口走ってしまいました。知識と情報をキーワードとする双子座に惑星が集中し、風の星座だらけのBくんです。さらにホロスコープで地の星座(牡牛座、乙女座、山羊座)に惑星が一つもないので、ビジネス感覚や損得勘定には疎いタイプといえます。おそらく彼はデジタルハリウッドで眠れる才能を開花させ、まるでスポンジが水を吸収するように、CG制作の技術を身に着けていったのでしょう。新しい可能性の扉が開かれ、家族の呪縛からも解放されて、明るい未来が始まるかのように見えました。
「CGデザイナーとしてまず派遣社員で働き始めました。その頃、父に自己破産を進める動きがあったんですが、自己破産はしたくないと。ということは毎月の返済が続くわけです。当時の新人のお給料といえば20数万円でしたが、手取りにすると20万円を少し欠けるくらい。父から月に15万円ほど工面してくれないかと言われまして、毎月返済分を自分が出すことになるんですよ」
20代前半で親の借金を肩代わり!? 20代といえば遊びたい盛りです。友だちと朝まで遊んだり、恋をしたりと青春を謳歌するはずの年頃に、お給料のほとんどが親の借金の返済に消えていくとは。聞いているこちらの方がドキドキしたり勝手に腹が立ったりして、心は千々に乱れます。
「それは頭に来ましたよ。けんかも増えましたね。母ですか? ええ、父の商売が傾いてからは、スーパーのレジ係として働いていましたねぇ。姉? あの人は趣味人ですから。父の借金に関してはノータッチです」
彼には1歳年上の蟹座の姉がいます。彼女も社会人になっていましたが、音楽やアートなどに興味があり、自分の世界を守ることで精いっぱいだったのでしょう。彼の下にもう一人妹がいますが、その頃はまだ専門学校生で、その費用も彼の叔母である私の友人が肩代わりしていました。
「ところで恋愛、つまり女の子とつき合ったりはしなかったの?」
という私の問いかけにも、Bくんは当時を思い出しながら淡々と答えます。
「恋愛? あ、それはちょこちょこありました。でも続かない。仕事ばっかりやっているわけですから長続きしない。結婚しようと思ったことですか? う~ん、あんまりないかもしれない。毎月膨大なお金が出ていくので、現実的に結婚は無理かなと思っていました」
出生図で風の星座ばかりに惑星が集中している人は、とくに恋愛に関してどこか他人事みたいなところがあります。起こった出来事を正確に描写することはできるのに、自分の気持ちとなるとさっぱり見当がつかないのです。
さてそんな生活が数年続きましたが、最終的に彼の父親は自己破産の道を選択します。当時は千葉県の松戸で家族と同居していたBくんですが、月々の返済がなくなったのを機に実家を出て、中野区にある広めのワンルームマンションで一人暮らしを始めます。
「実家を出たのは27歳くらいでしたね。毎月の返済はなくなりましたが、たまに生活費が足りないと親から連絡があり、その都度出していました(笑)。CG制作の現場ってハードじゃないですか。毎日仕事三昧で、当時の記憶があまりないくらいです。自分の30代前半、両親の暮らしがそこそこ安定していたのは、母方の年老いた両親を松戸に引き取ることになったからです。僕の祖父母の年金が入ってくる。それで結果的に彼ら(Bくんのご両親)の生活費が増えてなんとかなっていたのでしょうね。うちの両親は自分らの家計がどれくらいで回っているのかがまったくわかっておらず、全てがふわっとしているんです。ところが僕の祖父母が次々亡くなって、また次のいや~な波が来るんですよ」
価値観が崩れ、無意識の声が聞こえるとき、
ミッドライフ・クライシスが顔を出してくる
「中年期の危機」に辿り着く前からBくんの経済状況は、生活力に欠ける両親のせいで常に危機に瀕していました。仕事はハードではあるものの、つかの間の穏やかな日々を送っていた30代半ば、母親からある提案をされるのです。
「36歳でしたね。自分たちが慣れ親しんだ松戸に、僕名義で家を買ったらどうかと。悪気はないんですよ、いずれは僕のものになるという考えだったのでしょう。祖父母の年金がなくなり、また生活が苦しくなったんでしょうね。僕が頭金を出せば、返済分はすべて自分たちが出すというんです。それで35年ローンを組んで3LDKのマンションを買うんです」
ご両親がちゃんと毎月のローンを支払ってくれるのだろうか、と疑いのまなざしを向ける私にBくんは続けます。
「ローン返済と管理費でたったの毎月7万円ですよ。それが数か月もしないうちに払えなくなるわけです。しょうがないから、2年後にまた200万円貯金をはたいて繰り上げ返済をします。彼らの支払額はそれで月々3万5000円に。40代になってもそれを続けて、マンション購入から9年目に完済。44歳になっていました。でも僕はそこには一度も住んでいないんですよ」
子どもは親を選べません。今風にいえば「親ガチャ外れ」のBくんですが、生活力のない親の援助をすることが、もはや初期設定になっている感じです。私は今回のテーマである「中年期の危機」を迎える40歳~42歳ごろに何か転機はなかったかと質問してみました。
「それがばっちりあるんです。40歳を目前にして、仕事もどんどんハードになっていきました。当時パチンコ屋がM&Aでゲーム会社を買うというパターンが多々あったのですが、自分が働いている会社も同様でした。その会社には16年間正社員として勤め、CGデザイナーとしてひと通りの経験をさせてもらいました。でも合併後はゲームの製作をやったり、パチンコの液晶部分の開発をやったり……」
聞けば35歳くらいからパチンコ関連の仕事が増え始め、ゲームの部署からはいい顔をされなくなり、Bくんはストレスを抱えるようになります。親が住むマンションのローンの返済に加え、自分が暮らす賃貸アパートの家賃も払っていたわけですから、経済的にも精神的にも厳しかったのでしょう。それで16年勤めた会社を辞めて転職の道を探り始めます。
「41歳で転職しました。それまで仕事を発注していた会社に、たまたまポストがあったんです。そこはCGプロダクションで、ゲーム会社から仕事を受けたりします。役職はプロジェクトマネージャーで、まず実務仕事がなくなりました。仕事を取ってきて自分のチームで回す。知り合いを頼ったり、前の会社のクライアントに営業をしたり。立ち回りが厳しく、自由にもやらせてもらえず、当時はホント最悪でした」
転職を決意したとき、自由と革命を司る天王星がBくんの出生時の位置に対して、180度反対側を運行していました。まさにそれはミッドライフ・クライシスを象徴する星の動きです。人生前半でうまく生かせなかったパーソナリティの劣っている部分や、使ってこなかった心の機能が、まるでパンドラの箱を開けたように飛び出してくるのです。それは具体的にBくんのホロスコープでいうと、惑星が一つも入っていない地の星座(感覚機能)や外惑星が一つしかない火の星座(直観機能)を指します。
41歳の転職以降、彼の仕事は実務(CGデザイン)から管理の仕事へと移っていきます。それは彼が望んだことでもあるのですが、プロジェクトそのものを管理し、リアルタイムでさまざまな変更にも対処しつつ、ゴールを見据えて動く。上司の勝手な要求とも戦う必要性が出てきます。ヴィジョンを持って仕事に臨み、理不尽な要求をしてくる相手には戦いも辞さない。それこそ火の星座の性質が必要とされる分野です。
また管理の仕事には、タスクをお金に変えていくことも含まれます。相手が提示する予算で何ができ、ちゃんと利益を上げられるかが問われます。これは現実的で、損得勘定に長けた地の星座の得意分野です。
中年期の危機とは、人生前半の価値観が崩れ、無意識の声が聞こえてくるときといわれます。その声が示唆しているのは、Bくんが今まで使ってこなかった火の性質(直観機能)や、地の要素(感覚機能)を使いこなせるようになれということのようです。
「料理」と「投資」を始めたことで、苦手な心の機能を
楽しめるようになり、未知の世界の扉が開けてきた
41歳の転職から、彼の生活にはある変化が訪れていました。
「それまでは外食しかしていませんでした。それが料理を作るようになったんです。えっ、自分の母親ですか? いちおうは作るんですが美味しくないんですよ。自炊を始めたらそれが楽しくなってきたので、自分でも驚きです。決定的だったのは、やっぱりコロナです。仕事もリモートになりましたし、自炊してタバコもやめたら、生活費がガクッと減りました」
地の星座が欠けていると、自分の身体感覚が希薄な人が多いのです。それで中年を迎える頃に体を壊すパターンがあるのですが、Bくんは自炊をすることで無意識に健康志向へと舵を切った感があります。自分の肉体に意識を向ける。これは眠れる感覚機能を目覚めさせるよい方法です。
では欠けている火の星座に対応する直観機能を使うシーンは、仕事以外にも増えたのでしょうか。
「投資を始めました。ETF(上場投資信託)、長期投資です。アメリカをやったりベトナムをやったり。特定の株にどんとつぎ込むようなことは、さすがに怖いのでしませんが、投資は楽しいです」
36歳から始めたという投資ですが、相場という目に見えないものに自分を賭ける行為です。火の星座の要素が強い人は、生まれながらのギャンブラー。先の見えないことに自分を賭けることに燃える人たちですが、Bくんの直観機能は、40代を迎えてようやく無意識下から目覚めたばかりです。中年期の危機というターニングポイントから約10年が過ぎましたが、Bくんは苦手な心の機能を、仕事に加えて「料理」と「投資」から楽しく学んでいるようです。
50代を迎えたBくんに、将来の夢はないのかと問いかけました。
「隠居ですかね。それで生き延びる(笑)。散歩してゲームして料理作って。そんな生活になるんじゃないですかね」
あまりの達観ぶりに私は大笑いしてしまいます。
「確かに若い頃からちょっとジジイ系だもんね」と失礼な発言をする私に、
「そうですよ、子供の頃から隠居(笑)。多分、将来それが一番やりたいことだと思います」
と自虐的に明るく答えてくれました。そう、なんとも不毛感を漂わせながら決して暗くはなく、根は明るい不思議なキャラクターのBくんでした。
人生の重要な局面で現実的な選択を促す
地の星座の女性たちこそ、大事なキーパーソン
彼の人生の重要な局面で、いつも現実的な選択を促すのは地の星座の女性たちです。就職氷河期の初めに就職に有利な専門学校を見つけ出し、その費用をすべて肩代わりした叔母さんは山羊座です。また生活能力には欠けるものの、マンション購入をすすめた母親が乙女座です。40代で完済したマンションは古くはなりましたが、Bくんが持つ立派な資産です(彼はそこには一度も住んではいませんが)。彼は自分に著しく欠ける地の星座特有の、地道で現実的な考えを、彼女たちから補ってもらっていたのでしょう。
論理的でクールな風の星座だらけの彼が、なぜ父親の借金を肩代わりしてきたのか。それは出生図の月と火星が水の星座の魚座にあるからでしょう。月星座の性質は、子ども時代に条件付けされた無意識的な反応のパターンを表します。月が魚座にあると人の気持ちに敏感で、困っている人を救いたいという気持ちから、自己犠牲的な行動に出てしまう傾向があるのです。火星も同様で自分を必要とする人の要求を満たすことが、仕事や人生の隠れたモチベーションとなりやすいのです。
インタヴューの最後にBくんは教えてくれました。
「44歳で親の住むマンションを完済した後は、ほぼ金銭的な援助はしていません。お小遣いはたまにあげていますが。今更この人たちにお金を返せと言っても始まらない。80代になりましたしね。あ、でも先日久しぶりに風呂釜が壊れたと連絡がありまして、73万円支払いました」
あ、やっぱり出しちゃうんだ、出すよねと心の中でうなずく私でしたが、この先、両親に代わって彼の自己犠牲精神を刺激する人物が現れないことを願うばかりです。人生の前半では全く無自覚だった地の星座の性質(感覚機能)や、火の星座の要素(直観機能)も、要所要所で使えるようになりながら、“夢の隠居生活”(もしかしたら投資で早期リタイアを実現させるFIRE生活?)を手に入れてほしいと思っています。
著者 岡本翔子(おかもと・しょうこ)
心理占星学研究家。ロンドンにある英国占星学協会で、心理学をベースにした占星術を学ぶ。英国占星学協会会員。
『完全版 心理占星学入門』(文春e-Books)、『「月のリズ ム」で夢をかなえるムーン・マジック』(KKベストセラーズ)、『占星学』リズ・グリーン著(青土社、鏡リュウジ共訳)、『月の心理占学』(方丈社)、『月 のリズムで暮らす本』『月の大事典』テレサ・ムーリー著 (ヴィレッジブックス、監訳)『ハーブ占星術』エリザベス・ブ ルーク著(東京堂出版、翻訳・監修)など、著書・訳書多数。
月の満ち欠けカレンダーを記し、月のリズムを生活に生かすヒントが満載のダイアリー『MOON BOOK』は2004年からのロングセラーで、2024年からWEBサイト版がスタート。『MOON BOOK 2025』がサイト内で発売中。自身が毎年発行する『MOON CALENDAR』(リボンシップ)も好評発売中。
また、占星術と料理、コスメ、旅などを組み合わせたコラムを『CREA』『美ST』『料理通信』『ESSE』などの雑誌連載を中心に執筆。『CREA』、「CREA WEB」、「婦人画報」など多数の女性誌にも、月間星占いや月星座占い、ムーンカレンダーを連載中。毎年、各地でセミナーやイベントを行い、開催ごとに盛況となっている。
モロッコの砂漠で見る月に魅せられ、三越旅行や風の旅行社と組んで不定期に「月の砂漠ツアー」を行っている。
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岡本翔子オフィシャルサイト http://www.okamotoshoko.com
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岡本翔子監修WEBサイト「MOON CH」 https://www.moonch.jp