介護カフェのつくりかた 番外編

介護カフェのつくりかた 番外編
「だから介護はやめられない話」

ケアマネジャーとして介護現場で働くかたわら、対話によって新しい介護のカタチを考えていくコミュニティ「未来をつくるkaigoカフェ」を運営しています。
これまで10年間のカフェ活動では、一般的な「介護」のネガティブイメージを払拭するような、“あったらいい介護”の実践者とたくさんの出会いがありました。
今回はその番外編。介護職のみなさんが経験している、楽しく、ほっこりして、豊かになれる話を紹介します。


Vol.9(2022.07.14)

50年後の花嫁

 今回は、大阪の特別養護老人ホームでユニットリーダーをしている白濱彩香さんの実話に基づいたお話です。

* * *

 和夫さんは、入所当初はかなり怒りっぽく とても大変なおじいちゃんだった。みんな、関わり方にとても苦労していた。毎食後マグミット、毎晩下剤が処方されていて、便失禁が多かったため下剤をやめ、定期的なトイレ誘導を行うことで少しずつトイレで自然と排便できることが増えて、怒ることも減ってきて、みんなと馴染んできた。
 落ち着かないお年寄りは、その原因が排泄であることが多い。

 その後、しばらくすると、和夫さんはうん〇をティッシュにきれいに包んで職員にプレゼントするように! さらに、フロアや居室のいたる所に きれいに包まれたティッシュが置かれていることが……。
 それを見て新人職員は「和夫さん、きっとトイレでスッキリ出るようになったことがうれしいんですね! だからみんなにお礼の気持ちなんですかね!」 と言った。

 そんな日々を過ごしていたある日……。
和夫さん) 「あんたは俺の嫁やねんから、しっかりしてもらわな〜!」
 Σ(°°ノ)ナヌ?! 私のことを嫁だと思っているのか(実際は和夫さんは独身)。
 私はたしかに〝やさしい嫁〟らしく接していた。すると……。
和夫さん) 「あんた……妙にやさしいな。なんや……? 浮気してんのか? 高いもん買ったんか? 何か隠しごとしてるやろ!!」  和夫さんは激怒し、大変なことに!(笑)
 なので私は、和夫さんの〝鬼嫁〟になることにした。

和夫さん) 「おまえは19歳やからな……20歳になったら結婚式しようか。今はこんな物しか用意できひんけど……」
 そう言ってきれいに包まれたティッシュをそっと渡してきた。これはまさか……そう、そのまさかのもの。そして私が19歳に見えているのか。和夫さんは何歳なんだろう?(実際は90歳)と思いながらも〝19歳の鬼嫁〟婚約うん〇をいただいた。

 その後、だんだんとなじんできた和夫さんだが お風呂はとても苦戦していた。どうやったら気持ちよく入ってくれるだろう? 試行錯誤の日々、私はある作戦を思いつく。
私) 「和夫さん、お風呂いきましょう!」
和夫さん) 「お風呂は嫌や……」
私) 「結婚式も近いし、身体をきれいにしないと!」
和夫さん) 「そうか……。すまん……。俺との結婚、延期してくれ……」
 ここで、みんなは大笑い! 成功すると信じていた私は、かなり大きなダメージを受けた(笑)。

 和夫さんは総入れ歯だが、入れると痛みがあるようで悩んでいた。歯科医に相談し、新しく作り直してもらうことに。和夫さんは新しい入れ歯を前に、とてもうれしそうに笑った。その姿に、私たちもとてもうれしい気持ちに。
 しかし、しばらく使っているとやはり痛いようで……。

和夫さん) 「おまえのそれは……どこで作ったんやった?」
(`・ω・´)ナヌッ!?
私) 「和夫さんと一緒のところだったと思いますよ」
和夫さん) 「そうか……ちょっとこれつけてみてくれへん?」
私) 「え……?!」
和夫さん) 「ちょっと俺のつけてみてくれや。おまえのつけさせてくれ。交換してみよう!」
私) 「嫌です( '-' )」
和夫さん) 「嫌か……」
 和夫さんはかなり落ち込んでいたが、たとえ本当に夫婦で総入れ歯だったとしても 入れ歯を交換するのは絶対に嫌だ。

 ある日の夜勤中 フラフラな足取りで和夫さんが居室から出てきた。
和夫さん) 「俺の部屋はどこやった?」
私) 「こっちですよ」
 居室まで二人でゆっくり歩く。
私) 「ここですよ」
和夫さん) 「ここか! ありがとう。暗いし危ないから、あんた送っていくわ」
 フロアまで二人でゆっくり歩く。
私) 「ここで大丈夫ですよ。ありがとうございます!」
和夫さん) 「俺の部屋はどこやった?」
 居室まで二人でゆっくり歩く。
私) 「ここですよ」
和夫さん) 「ここか! ありがとう。暗いし危ないから、あんた送っていくわ」
 もうええっちゅうねん! と思いながらも(笑)。

 私は学生時代、好きな人とのデートの別れ際がさびしくて、バイバイがなかなかできなかった。電話を切るのが嫌で「〇〇君切って〜」なんて甘えていた。そんな初々しいことを思い出しながら、真夜中2時に和夫さんと一緒に、フロアと居室を10往復した。

 和夫さんは、毎日が本当にハチャメチャでいろいろなことが起こる。だけど私たちは「それ」を「認知症の問題行動だ!」なんて言わない。和夫さんのその日その時の世界を楽しんでいる。たまたま通りかかった施設長を犯人呼ばわりして「あいつを捕まえて連れてこい!」と激怒したときはさすがにあわてが(笑)。
 和夫さんは今、どんな世界にいるんだろう? そう思いながら和夫さんと関わっていると、毎日が本当に楽しい。あと50年したら私はたぶん総入れ歯になってるだろう。
 そのとき、きっと和夫さんを思い出す。思い出すことができたら、入れ歯交換したいですね。

※マグミット
酸化マグネシウムを成分とした便秘薬

* * *

 介護現場では本当に、いろんなことが起こります。便失禁した便で、部屋中が便まみれになったりすることも。そのつど、対応する介護職も相当な負担にはなりますが、ひとつひとつの行動に意味があって、なぜそのようなことをするにいたったか? これまでの生活や普段の様子から鑑みる想像力が求められます。
 問題行動といってしまえばそれまでですが、問題行動と言えるようなことも、ユーモアで乗りきる大阪人の強さを感じます。白濱さんのように、本人の世界に入って、伴走できる人がケアの専門職には求められていますよね。普通の感覚であれば、う〇こを包んでプレゼントされたらぶち切れられてもおかしくないですが、和夫さんのそのときの気持ちを考えることができるって素敵だと思います。認知症になっても、忘れてしまったり、妄想してしまうこともオンリーワンの個性として、日々を一緒に楽しむことができたらいいですよね。


介護カフェのつくりかた 番外編 Back number

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高瀬比左子(たかせ・ひさこ)
NPO法人未来をつくるkaigoカフェ代表。
介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員。大学卒業後、訪問介護事業所や施設での現場経験ののち、ケアマネージャーとして勤務。自らの対話力不足や介護現場での対話の必要性を感じ、平成24年より介護職やケアに関わるもの同士が立場や役職に関係なくフラットに対話できる場として「未来をつくるkaigoカフェ」をスタート。介護関係者のみならず多職種を交えた活動には、これまで8000人以上が参加。通常のカフェ開催の他、小中高への出張カフェ、一般企業や専門学校などでのキャリアアップ勉強会や講演、カフェ型の対話の場づくりができる人材を育成するカフェファシリテーター講座の開催を通じて地域でのカフェ設立支援もおこなう。