介護カフェのつくりかた 番外編

介護カフェのつくりかた 番外編
「だから介護はやめられない話」

ケアマネジャーとして介護現場で働くかたわら、対話によって新しい介護のカタチを考えていくコミュニティ「未来をつくるkaigoカフェ」を運営しています。
これまで13年間のカフェ活動では、一般的な「介護」のネガティブイメージを払拭するような、“あったらいい介護”の実践者とたくさんの出会いがありました。
今回はその番外編。介護職のみなさんが経験している、楽しく、ほっこりして、豊かになれる話を紹介します。


Vol.41(2026.2.11)

「100歳の元気の秘訣はコーラ」

今回は、当時デイケアで理学療法士として働かれていた金子渉さんの実話に基づいたお話です。

* * *

 これは、100歳を超えたおじいちゃんの元気の秘訣のお話。

 今から約5年前、僕がデイケアで理学療法士として働いていたころのことでした。ある日、施設長から新しく利用者さんが来られると聞きました。 年齢は、なんと100歳を超えたAさん。
 リハビリの初回担当は僕でした。
「本日担当いたします、リハビリの金子と申します。よろしくお願いいたします。」
「え? なになに? なんて?」
 Aさんは視力や聴力、筋力が弱まり、移動は車椅子です。 立ち上がるにも、何かにつかまらなければ難しい状態でした。それでも性格は穏やかで、自然と周りに人が集まる、愛されるおじいさんでした。

「え? なになに? なんて?」のやり取りを繰り返しながら初回のリハビリが終わり、お昼ごはんの時間です。
 そこで、目を疑う光景が広がります。 Aさんが、ご飯をモリモリ食べているのです。箸を止めることなく、黙々と、でもどこか嬉しそうに。時々むせながらも、ゆっくり、着実に食べ進めていきます。

「え、本当に100歳を超えているの…?」
 思わずつぶやいてしまうほどの食べっぷりでした。どうして、あんなに元気に食べられるのだろう。不思議に思った僕は、次の週、思いきって大きな声で聞いてみました。
「100歳を超えられた元気の秘訣って、何ですか?」
「え? なになに? なんて?」
 もう一度、さらに大きな声で。
「100歳を超えられた元気の秘訣って、何ですか?」
 すると、Aさんは聴き取るまで少し間をおいて、 ニコニコしながら一言。
「コーラを飲んでることだよ」
 僕は思わず笑ってしまいました。
「またまた、ご冗談を〜(笑)」
 その場は、そんな軽いやりとりで終わりました。

 ですが、リハビリ後の水分補給の時間。
「温かいほうじ茶か、冷たいほうじ茶。どちらにしますか?」
 そう聞くたびに、Aさんは決まって言います。
「ここにはコーラはないのか?」
 コーラはないことを伝えると、「そうか、コーラはないのか……」
 少し残念そうに、でも怒るわけでもなく、ぽつりとつぶやきます。

 そのやりとりは、いつの間にか恒例になっていました。しばらくして、ご自宅の訪問調査に伺う機会がありました。訪問調査は、実際の生活環境を拝見し、必要な支援やリハビリ内容を考えるために行なうものです。その日は、桜が散り始めるあたたかい春の日でした。 石神井川沿いにある木造の小さなお家。自転車をこいで到着すると、ご家族がていねいに迎えてくださいました。
「今日はよろしくお願いいたします。」
 挨拶を交わし、家の中へ通していただきます。玄関から続く廊下の途中にトイレとお風呂。廊下の先、リビングをはさんで奥の部屋がAさんの部屋。住環境をひとつずつ確認していきました。
 そのときでした。食卓の上。かつて書斎だったであろう机の横。キッチンの片隅。そして、枕元。そこかしこに置かれていたのは、誰もが見慣れた赤いラベルのペットボトルでした。 僕は思わず声をかけました。
「コーラ……本当だったんですね」
 すると、Aさんは笑って言いました。
「それはそうだよ。僕、嘘ついてないよ」
「すみませんでした(笑)。改めて聞かせてください。元気の秘訣は何ですか?」
「コーラを飲んでることだよ。」
 二人で、声を出して笑いました。

 その後しばらくして、Aさんは天国に旅立たれました。施設であの声を聞くことも、水分補給の時間にコーラの話をすることも、もうありません。でも、ふとしたときに思い出します。天国でも、今日もどこかでコーラを飲みながら、のんびり笑っているんじゃないかな、と。

* * *

100歳を超えてなお「コーラが秘訣」と言いきるAさんの姿に、思わず笑みがこぼれました。医学的な正解よりも、「好き」を持ち続ける力こそが、生きるエネルギーなのかもしれません。介護は、できないことを見る仕事ではなく、その人の好きを大切にする営みなのだと改めて感じました。どんなに身体機能が低下しても、人生の主役はその人自身です。私たちは、その物語をさりげなく支える伴走者なのだと感じます。


介護カフェのつくりかた 番外編 Back number

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高瀬比左子(たかせ・ひさこ)
NPO法人未来をつくるkaigoカフェ代表。
介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員。大学卒業後、訪問介護事業所や施設での現場経験ののち、ケアマネージャーとして勤務。自らの対話力不足や介護現場での対話の必要性を感じ、平成24年より介護職やケアに関わるもの同士が立場や役職に関係なくフラットに対話できる場として「未来をつくるkaigoカフェ」をスタート。介護関係者のみならず多職種を交えた活動には、これまで8000人以上が参加。通常のカフェ開催の他、小中高への出張カフェ、一般企業や専門学校などでのキャリアアップ勉強会や講演、カフェ型の対話の場づくりができる人材を育成するカフェファシリテーター講座の開催を通じて地域でのカフェ設立支援もおこなう。