介護カフェのつくりかた 番外編

介護カフェのつくりかた 番外編
「だから介護はやめられない話」

ケアマネジャーとして介護現場で働くかたわら、対話によって新しい介護のカタチを考えていくコミュニティ「未来をつくるkaigoカフェ」を運営しています。
これまで11年間のカフェ活動では、一般的な「介護」のネガティブイメージを払拭するような、“あったらいい介護”の実践者とたくさんの出会いがありました。
今回はその番外編。介護職のみなさんが経験している、楽しく、ほっこりして、豊かになれる話を紹介します。


Vol.27(2024.4.27)

「ああ、家に帰ってこれてよかった」

 今回は、定期巡回随時対応型訪問介護看護の管理者をされていた介護福祉士の大西晃志さんの実話に基づいたお話です。

* * *

 「家に帰りたい……」と思っても、サービス体制が整わずに実現できない方がたくさんいる。
「もう家にはいられないのかもしれない……」と、悲観的になる方もたくさんいた。
 施設から在宅の現場に移り、それらを目の当たりにした。
 事情はさまざまある。「介護のしかたがわからない」「家族の介護力がない」、はてには「家では無理だと思います」と病院で言われた……と。

―とある終末期の方の話―
 ケアマネジャーから一本の電話を受ける。「退院を希望されている方がいて、もうそんなに長くないかもしれないけど、力を貸してくれないか……」と。
 コロナ禍であり、退院前カンファレンスもできないまま自宅で初めてお会いした。  高齢で末期ガンの女性だった。つねに2リッターの酸素、少し動かすだけで呼吸が苦しくなり、とても移動などできない。
 最初は「会話さえできないんじゃないか」と思わせるほどだった。
 介護者は、同じく高齢のご主人だった。
 ご主人は体は元気だが、介護のしかたなどまったくわからない。どう触れたらいいのかさえ不安だという。
「はたして自宅で過ごせるのか?」という不安が、おそらく関係者全員の胸中にあっただろう。

「はじめまして」の挨拶をした瞬間、彼女は目を開き、ひとことつぶやいた。
「ああ、家に帰ってこれてよかった」
 その言葉を聞いた瞬間、私は「なんと自分勝手で自分本位な考えだったんだろう」と思った。どこで暮らすか、どこで死ぬか、それは本人たちが決めることであり、私たち専門職は全力でそれを支援するだけじゃないか。
 私たちがおこなった支援は、1日3回の排泄介助と、着替え、排便時の随時対応のみ。あとは介護者のご主人が、私たちの説明を聞きながら水分介助をしたり、寝返りの介助をしたりした。
 そんな状態で1か月を過ごすことができた。

 介護は、介護職のものだけではない。家族と関わり、いっしょにケアをし、教えて、ともに看取りまで支援をする。そのうえで、自宅でゆっくりを息を引き取ることができる。
 彼女のその瞬間には立ち会えなかったが、奥様の穏やかな顔、すがすがしいご主人の顔は今でも忘れられない。

 私は、約10年、介護職として働いてきた。つねに利用者が周囲にいて、認知症状が深い方も、身体的にケアがむずかしい方も、「自分はどんなケアでもできる」という浮ついた自信があったのかもしれない。しかし今、ステージを変えて。それがいかに浅はかで、自分本位だったかを思い知った。
 定期巡回随時対応型訪問介護看護というサービスをご存知だろうか。24時間365日運営し、定期的な訪問に加え、ナースコールのようなシステムで随時対応も可能なサービスだ。私は「このサービスがあれば、いろんな方が自宅で過ごせる」と思いこんでいた。しかし、そうではなく、本人や家族の強い意志が根底にあるからこそ、介護職(定期巡回)に存在意義があるのだとまざまざと見せつけられた。

 ならば、私たちには何ができるだろう。利用者たちが望む「自宅に帰る」という選択肢も、定期巡回のサービスで少しでも応えられるかもしれない。
 特別なことはできなくとも、利用者の選択肢の中にこのサービスがあることで少しでも想いをかなえるきっかけになれれば、どんなにいいだろうか。
 何かあったら、私たちがいる。だから安心して年をとってほしい。

 現実として、定期巡回事業所は全国で1300か所しかない。その多くが有料老人ホーム内などでの提供。実際に在宅提供している事業所はさらに少なくなる。私はこの現状を伝え、もっともっと地域に定期巡回が普及していけるような活動をしていきたい。少しでも多くの方の選択肢を広げられるよう、精進してまいります。

* * *

 誰もが住み慣れた自宅で最期を迎えたいと思いますが、在宅での療養体制や資源が十分ではなく、多くの人は病院や施設で最期を迎えているのが現実です。今回は「定期巡回臨時対応型訪問介護看護」というシステムを利用し、本人や家族、ケアチームが連携して在宅での最期を迎えることができた醍醐味を感じるストーリーを紹介していただきました。「本人や家族の思いに寄り添った支援」が、基本的にはケアの中心に来るべきもので、「専門職はその思いをどのようにして実現できるか?」を考えていくことが求められます。
 ともすれば専門職側のかたよった専門性やリスク重視の発想を優先してしまう現実もある中で「本来のケアのあり方とは何か?」について、向き合うことができた話でした。
 大西さんは現在、定期巡回の管理者を退任し、訪問介護事業所をご自身で立ち上げられました。「在宅での生活を支える」という共通の理念を持ち、利用者、家族、多職種でチームを組み、さまざまなオンリーワンのストーリーをつむがれていかれることを期待をしています。

介護カフェのつくりかた 番外編 Back number

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高瀬比左子(たかせ・ひさこ)
NPO法人未来をつくるkaigoカフェ代表。
介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員。大学卒業後、訪問介護事業所や施設での現場経験ののち、ケアマネージャーとして勤務。自らの対話力不足や介護現場での対話の必要性を感じ、平成24年より介護職やケアに関わるもの同士が立場や役職に関係なくフラットに対話できる場として「未来をつくるkaigoカフェ」をスタート。介護関係者のみならず多職種を交えた活動には、これまで8000人以上が参加。通常のカフェ開催の他、小中高への出張カフェ、一般企業や専門学校などでのキャリアアップ勉強会や講演、カフェ型の対話の場づくりができる人材を育成するカフェファシリテーター講座の開催を通じて地域でのカフェ設立支援もおこなう。