おカネはケチらないほうが溜まる本当の話

おカネはケチらないほうが溜まる
本当の話

おカネをケチらない。つまり、おカネは使えば使うほど、おカネは貯まるーー。いや、禅問答ではありません。その答えは、経済評論家であり、「細かすぎるおカネの話」を始めたら止まらなくなる「おカネのストーリーテラー」の佐藤治彦さんが、ていねいに教えてくれます。「心を豊かにすれば、おカネも豊かになる」をテーマに掲げ、グルーブ感たっぷりの文章で、さあおカネの話、始まります。


はじめに
 何となく何となくな世の中で毎日です。そんな毎日を私たちは生きていて、なぜか後で振り返ると喜怒哀楽に満ちています。そこによくからんでくるのが、福澤諭吉や夏目漱石、それから、ちょこっと紫式部です。
 わたしは福沢諭吉が大好きです。みなさんも好きですよね? 昔は聖徳太子を好んだものですが、いまは何といっても福沢諭吉です。これは、慶応大学出身者だけではないようです(早稲田含む)。人気が出たりなくなったり、明暗ですな。
 私は時に人に好かれようと福沢諭吉を総動員させて一瞬だけ好かれたような錯覚を覚えることがありますが、けして私が人気があるわけではなく、福沢諭吉の人気だったと、すぐに気づかされます。せめて、十夜くらいは夢を見させてもらいたいものです。哀しいですね。
 おっと、こんな道草している場合ではないですね。ということで、来年の彼岸過ぎまで毎月1本ほど、クビにならない限り、福沢諭吉や夏目漱石に翻弄される私たちの悲喜こもごもを書いていきたいと思います。
 私は個人主義の生き方に少し疲れてきた中年。この文筆まがいのことは50過ぎからの新規事業です。ちなみに、我が輩は経済評論家である、なーんちゃって、くさっ! お先、まっ暗っすね。ま、それでも、生れてきた以上は生きねばならぬ、のです。
 また、ウザいことを書きました。すいません。なぜってね、不思議なんですよ、こころでは夏目漱石のほうが好きなのに、実際は福澤諭吉を欲してる。それも1人じゃ嫌で何百何千と。おや、あなたもですか? なら、どうぞお付き合いのほど、よろしくお願いします。可能であれば、ワシントンやリンカーン、エリザベス女王にからまれている人たちのことも書こうと思ってます。

 


  第一回(2017.03.03)
「ボーノ、ボーノ! イタリア激安旅行に参加すると、サイゼリアの偉大さがわかる。」


「佐藤さん、本場のイタリアまで来たのに料理はたいしておいしくなかったわね」
 激安イタリア旅行のツアーメイトだった主婦が、旅の終りにそう言った。
「そうじゃないですよ、おいしいイタリア料理を食べにいってないからですよ。むしろ、おいしくないところばかり選んでいる感じでした」
 そんなウソのようなことが本当に起きている。
 私は救われていた。自由時間にイタリア好きの編集者が教えてくれた、ローマのポポロ広場のそばのトラッタリアに行ったからだ。予約なしの飛び込み、ほぼ満席だったが「相席でよければ」と席を取ってくれた。小さなアンティパスト、もっちもちトローリの特製ピザと気どらないハウスワインのデカンタで、チップ込み15ユーロ。安かった、おいしかった。おいしくて安い店は、世界中どこに行っても混んでいる。これを食って私は救われたのだ。
「ボーノ、ボーノ(ウマい、ウマい)!」
 店の主人も私のようなおっさんに言われて気の毒だが、うれしくなって笑顔で言って店を後にした。

「イタリア8日間13万円」なんていう激安ツアーがあって人気だ。日本から添乗員が同行し、ローマ、フィレンツェ、ベネチア、ミラノなどをめぐる6泊の旅だ。
 一般的なのは、ミラノ、ベネチアに1泊ずつ、フィレンツェ、ローマに2泊ずつ泊る。到着日はミラノに宿泊し、翌日の午前中にミラノの市内観光をし、ベネチアへ移動。また、翌日の午前中にベネチアのサンマルコ広場あたりの観光をして、フィレンツェに移動といった具合。
 これには、往復の飛行機代はもちろん、ホテル代、観光バス代、美術館などの入場料、それに、食事代も含まれる。食事はイタリア旅行の醍醐味のひとつ。日本人はイタリア料理が大好きだ。フライト時間などにもよるのだが、たいていの8日間6泊のイタリア旅行では、朝昼晩と5回ずつ食事の機会がある。このうちの大部分に食事がつく。
 もう一度申し上げる。往復の飛行機代、6日間の観光バス代、6泊のホテル代、日本からの添乗員に、入場料、現地ガイド代などなど観光に関わる諸々の費用に含めて、15食の食事も入っての価格が13万円。旅行会社の利益もこの中に含まれる。で、13万円だ。
 こういう予算の限られたツアーだから、きっと旅行会社は先に書いた、安くておいしい店に観光客を連れて行ってくれるだろうと思うかもしれない。しかし、ほとんどの場合、そういううれしいことは起こらない。
 それにはきちんとした訳がある。
 安くておいしい店はツアー客を取らない。その必要はない。なぜなら、そういう店はいつでも満員、大繁盛。テーブルが空いている時間はない。ツアーの客の予約を取るということは、たとえば35人分のテーブルを予約のために長時間も空けておくことを受け入れることになる。団体が来た時に「席があと3席ないんですよ」などと言えないのだ。「それでもかまわない」という店は、それだけ流行っていない店なのだ。
 流行っていない店とは、たいてい安くもおいしくもない店だ。激安ツアーの一人あたりの予算は限られている。私の参加した激安ツアーは、「前菜、メイン、デザートでランチは1000円、夜は1500円の予算」だと添乗員さんは教えてくれた。安くなく、おいしくない店で予算もない。もうほとんど「うまいイタリアン」にありつく可能性はゼロだ。
 そして、留めの一撃が、ツアーでは全員分の料理をほぼ同時に出す接客が求められるということだ。
 安くもおいしくもない店が、35人分以上の料理を一度に出さなくてはならない。それは、ピザやパスタも作り置きをしておくことを意味する。もともとおいしくない店が低予算で作り置き。そりゃあ、うまいものが出てくるわけがない。
 冷めたマルゲリータピザには、バジルが1枚だけ乗っていた。トマトソースのパスタは、ミートソースでもボロネーゼでもないシンプルなトマトソースのスパゲティ。「アルデンテという言葉を知ってる?」と聞きたくなるようなもの。こうした料理が激安団体旅行ではよく出てくるのだ。

 忘れられないのが、コモ湖のレストラン。最後に出てきたジェラートはスープのごとく完全に溶けていた。あたりまえだ。アイスクリームを器に入れて、20分も30分も調理場に置いておけば溶けるに決まってる。
 ツアー客の多くはアイスクリームをスプーンで啜っていた。うまいイタリアンにありつけているかどうかは、食べている人の顔を見ればわかる。ああ、哀しいね。
 本来はアンティパストなど、冷えてもおいしいものや煮物系料理が大人数の団体客向けなのだが、激安ツアーの予算では、どうしても冷めたらまずい炭水化物系のメニューになりがちだ。
 激安ツアーで、夕食が1〜2回ついていないことがある。実はこの時だけが、激安ツアーでおいしいまともなイタリアンにありつくチャンスなのだが、ツアーを安さだけで選ぶ人は、できるだけお金を使いたくない。さらに、ツアーでイタリア料理をいろいろと食べてみたけれど、たいしておいしくないから食事を抜くとか、日本にもあるファストフードに行く、中には日本から湯沸かし器を持ってきて、わざわざ「赤いきつね」や「緑のたぬき」を食べる人も少なくないのが実情だ。こうして、せっかくのチャンスも棒に振る。私は最初に書いたレストランで救われた。ボーノ、ボーノ!
 激安ツアーで行くイタリアンはおいしくない。おいしい料理は出ない仕組みになっている。もっとわかりやすく申し上げると、少し訓練したアルバイトがマニュアルに従って作る、日本の激安イタリア料理チェーン、「サイゼリア」のほうが何十倍もおいしい。いや、私はあの価格を考えると、世界で一番うまいイタリア料理を出していると思う。偉大だ。激安イタリアツアーに参加すれば、どれだけすごいかわかるはずだ。
 Tシャツ100円、スマホ1000円と聞くと「安すぎる。劣悪品だったり、何か裏があるんじゃないの?」と疑うことを知ってる消費者が、なんで「イタリア旅行8日間13万円」の価格はすんなり受け入れるのだろう。
 わざわざイタリアまで、まずいイタリア料理を食べに行く。そんな激安団体ツアーが今年も多く販売されている。

 


佐藤治彦(さとう・はるひこ)
経済評論家、ジャーナリスト。
東京都杉並区生まれ。東京都立富士高等学校普通科卒業、慶応義塾大学商学部卒業、東京大学社会情報研究所教育部修了。大学卒業後、銀行員、金融誌記者、放送作家、経営コンサルタント会社勤務を経て独立。趣味は音楽鑑賞、海外旅行。

主な著作
「年収300万~700万円 普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話」(扶桑社)
「普通の人が、ケチケチしないで毎年100万円貯まる59のこと」(扶桑社)
「お金をかけずに 海外パックツアーをもっと楽しむ本」(PHP)
「日経新聞を「早読み」する技術」(PHP)
「知識ゼロからの為替相場入門」(幻冬舎)共著
「ガイドブックにぜったい載らない 海外パック旅行の選び方・歩き方」(アスペクト)
「ガイドブックにぜったい載らない 海外パック旅行の選び方・歩き方  〜 さらに超役立ち旅テク編」(アスペクト)
「アジア自由旅行」(小学館)島田雅彦氏との共著
「ええじゃないか!」(オーエス出版)テリー伊藤氏との共著
「お金で困らない人生のための金融商品五つ星ガイド」(講談社)
「使い捨て店長」(洋泉社)編著……ほか多数