おカネはケチらないほうが溜まる本当の話

おカネはケチらないほうが溜まる
本当の話

おカネをケチらない。つまり、おカネは使えば使うほど、おカネは貯まるーー。いや、禅問答ではありません。その答えは、経済評論家であり、「細かすぎるおカネの話」を始めたら止まらなくなる「おカネのストーリーテラー」の佐藤治彦さんが、ていねいに教えてくれます。「心を豊かにすれば、おカネも豊かになる」をテーマに掲げ、グルーブ感たっぷりの文章で、さあおカネの話、始まります。



  第八回(2017.09.29)

18日はダメよ。


 天ぷらは私の大好物のひとつだ。門前仲町にある「みかわ是山居」では天才職人、早乙女哲哉氏の究極の技術とこだわりを頂ける。まるで求道師のようだ。あなごの中はほくほく、外はからっと揚がり、独特の臭みのない見事な仕上がり、えびは生ではないが、ほんの少しその残像が残っている絶妙な加減。だから、甘さが広がる。あのウニの天ぷらは他にどこで食べられると言うのだ。何回か出かけたが、あれでビールを注文し、2万円でお釣りが来たのには驚いた。いろんな天ぷらやさんに出かけたが、ここが僕の知ってる頂点だ。もちろんこの店は普段使いの店ではない。特別なときに行く。予約は簡単に入らないし、家からも遠い。天ぷらの極みここにありという感じだ。

 もうひとつ、極みの天ぷらがある。
 おなじみの天丼チェーンの「てんや」だ。もちろん、早川さんの作るものとはまったく違うものではある。しかし、ここには日本の技術のひとつの極みがある。天ぷらは、食材と油の温度、揚がり具合を職人がつきっきりで見なくてはできない代物だ。しかし、ここでは、天ぷらはベルトコンベアの技術を用いて調理されていく。調理人は衣をつけてオートフライヤーにおくと、あとは自動で揚がるのだ。なんでも、海老がおいしくできるように調整されていて、それに合わせて他の食材の大きさなどを調整しているという。だから、とびっきりではなくても、どの店も同レベルの普通においしい天ぷらが食べられるのだ。
 海老、いか、白身魚、かぼちゃ、いんげんの天どんが1人前500円(税込)で店内ではみそ汁までつく。格安だ。
 ところが、これで終らない。毎月18日だけは、「てんやの日」といって、「サンキュー天どん」が発売になる。その価格、なんとサンキューで390円。確認しておくが、税込みで390円である。中身は通常の天どんとは少し違う。最近は、海老、いか、おくら、かぼちゃ、いんげんという組合せが多い。みそ汁はつく。つまり、白身魚が消え、おくらになるのであるが、何といっても税込み390円、やっぱり、びっくり価格である。
 もう多くの人がこの「てんやの日」を知っていて18日は、どこの天やも大にぎわいになる。ということで、私も毎月18日には「てんや」に行くことに決めている。そのリズムを崩したくない。じゃまされたくない。
 あと、「サンキュー天丼」について、もうひとつ付け加えると、私の課題のひとつに糖質制限があるため、ごはんはいつも小盛りである。すると、390円の「サンキュー天どん」は50円引きとなり340円となってしまう。340円とは、米ドルなら3ドル、欧州統一通貨なら2.5ユーロだ、アメリカでもヨーロッパでもどこでもいい、こんなまともな食事を座ってこの価格で食べられるとこがあるだろうか? いや、あるわけがない。ありえないのである。

 日本でも、こんなまともな天どんをこの価格では食べられなかったはずだ。それを可能にしたのが、先述した職人の技術がなくても、十分おいしい天ぷらをつくることのできるオートフライヤーの技術開発だ。
 大絶賛したい。すごいよ、すごい。毎月、この日本の工夫と技術の凄さに関心し、レジでたった340円の代金を払って返ろうとすると、たいていの場合、お待ちくださいと呼び止められる。なんと僕に割引券を渡すためだ。来月18日の前日までに使える100円割引クーポンを手渡される。340円でも安いのに、さらに100円引きのクーポンをもらう。私は結局天どんをいくらで食べたことになるのか? 教えてほしい。みそ汁つきなのに。
 このクーポンを使って、有効期間内に、今度は普通の天どんを小盛りにして、さらに100円ひいてもらって、350円で食べるのだ。こうして18日に始まる月に2回の天どん天国を味わっている。
 だから、18日に呑みの誘いが来ると、ちょっと考える。やっぱり行きたいなとなると、 「サンキュー天どん小盛り」をランチして、危機を回避したりする。18日に地方の出張などが入ると大変だ。ネットで出かける場所に「てんや」がないか徹底的に調べる。18日に歌舞伎座のチケットなどを買ってしまって、「てんや銀座店」まで幕間の時間に走って出かけたこともある。すると、僕の歌舞伎見物のもうひとつのお楽しみ、歌舞伎そばを食べ損なうことになる。でもしかたない。
 あきらめることもある。18日にテレビ収録などがあると、帰りに楽屋弁当をくれたりする。テレビ局でゲスト出演者に出す弁当なので、たいていうまい。それなのに帰りのタクシーの中で、弁当があるのだから今月は「サンキュー天どん」パスかと思い、ちょっとがっかりする。むしろ運が悪いなと思ってしまう。こんな考えは合理的でないことはわかっているのだが、そう思ってしまうのだからしかたない。
 海外に出かけていたりすると、ああ、今日は18日、日本は「てんやの日」だ。天どん食いてぇなあ340円で、と思ってしまう。

 もちろん「てんや」の天どんも、店であげたてのものを食べるのが圧倒的においしい。ところが、その18日に「てんや」の店先で10分くらい悩んでしまうことが時おりある。それは、18日と水曜日が重なるゴールデンクロスの「てんやの日」である。なぜなら「てんや」には持ち帰り客向けスタンプカードがあり、300円ごとにスタンプをひとつ押してくれる。これが15個で500円の値引き券となる。500割る15でだいたい33円。つまり、スタンプひとつ33円の価値がある。そして、水曜日は「スタンプ2倍デー」となっている。この2倍に心が動いてしまう。つまり、小盛り天どんを店内ではなく持ち帰りにすると、340円で天どん弁当に66円分のスタンプふたつと、100円の割引券がもらえるのだ。
 春の風が気持ちいいときに、悩んだ末に弁当にして、近くの公園のベンチに行き、もらったふたつのスタンプと割引券を見ながら、「オレはいったいいくらでこの天どんを食ってるのか」とまたまた計算しながらぺろりと食べた。

 でも、最近になってゴールデンクロス「てんやの日」のいい解決方法を思いついた。それは、天どんを差し入れにするのだ。天どんの差し入れは、みんなおおいに喜んでくれる。また、差し入れ先の人はたいてい糖質制限を必要としていないので、普通盛りの390円の「サンキュー天どん弁当」を買う。で、この前、3つ差し入れしようと注文する寸前に気がついた。
 支払いが1170円なのである。このままだと、スタンプ6つである。あと30円注文すれば、1200円超えでスタンプ8つになる。そこで、70円のなすの天ぷらをひとつだけ追加注文して、3つのうちのひとつに乗せてもらった。差し入れするときに「ひとつだけ当たりがあります」と言った。なんでそんなことをしたのかは、きっとわからなかっただろう。
 その日は、僕は天どんを食べなかった。なぜなら、3つ天どんを買ったので100円割引券を3枚ももらったからだ。もちろん、割引券までは差し入れしないので、僕のものになる。毎週天どんを食べにいった。しかし、毎週だとさすがにありがたさもなくなってしまうことに気がついたので、山ほど割引券をもらったら、別の差し入れの機会に一挙に使うことにした。やっぱり物には、ほどってのが大切なのだ。
 この100円割引券、ときには50円割引券になったり、いかの天ぷらサービス券にかえられたりして、何かたいそうがっかりしたことがある。損をしたように思ったのだ。十分に安いのだが、期待値が高いからそう思ってしまうのだろう。やっぱり、「てんやの日」は何か僕の財布感覚を狂わせる日なのだ。
 きっと、世の中の天どん好きの人もそう思ってるだろう。考えてみると18日といえば、25日の給料日まであと1週間。そんなときに390円でうまいものが食べられるとは本当に助かるな、と思う人も少なくないはずだ。そんな「てんやの日」が10月だけは月2回ある。18日だけでなく、10月8日も「てんやの日」なのである。
 そして、2017年10月は月に2回あるだけでない、おそろしいことに18日は「てんやの日」と水曜日が重なるゴールデンクロス「てんやの日」だ。僕はさて、誰に差し入れしようか今から考えている。
 ああ、「てんや」。「てんやの日」よ、永遠に!
 やっぱりどこか僕を狂わせる「てんやの日」なのでありました。

 

Buck number


佐藤治彦(さとう・はるひこ)
経済評論家、ジャーナリスト。
東京都杉並区生まれ。東京都立富士高等学校普通科卒業、慶応義塾大学商学部卒業、東京大学社会情報研究所教育部修了。大学卒業後、銀行員、金融誌記者、放送作家、経営コンサルタント会社勤務を経て独立。趣味は音楽鑑賞、海外旅行。

主な著作
「年収300万~700万円 普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話」(扶桑社)
「普通の人が、ケチケチしないで毎年100万円貯まる59のこと」(扶桑社)
「お金をかけずに 海外パックツアーをもっと楽しむ本」(PHP)
「日経新聞を「早読み」する技術」(PHP)
「知識ゼロからの為替相場入門」(幻冬舎)共著
「ガイドブックにぜったい載らない 海外パック旅行の選び方・歩き方」(アスペクト)
「ガイドブックにぜったい載らない 海外パック旅行の選び方・歩き方  〜 さらに超役立ち旅テク編」(アスペクト)
「アジア自由旅行」(小学館)島田雅彦氏との共著
「ええじゃないか!」(オーエス出版)テリー伊藤氏との共著
「お金で困らない人生のための金融商品五つ星ガイド」(講談社)
「使い捨て店長」(洋泉社)編著……ほか多数