おカネはケチらないほうが溜まる本当の話

おカネはケチらないほうが溜まる
本当の話

おカネをケチらない。つまり、おカネは使えば使うほど、おカネは貯まるーー。いや、禅問答ではありません。その答えは、経済評論家であり、「細かすぎるおカネの話」を始めたら止まらなくなる「おカネのストーリーテラー」の佐藤治彦さんが、ていねいに教えてくれます。「心を豊かにすれば、おカネも豊かになる」をテーマに掲げ、グルーブ感たっぷりの文章で、さあおカネの話、始まります。



  第十三回(2018.02.22)

月末、僕の途中下車の旅


 まずは、クイズです。
 216が5回あった後に6回目には116となり。その後、216が4回続いた後に再び116となる。そして、また216が4回続いた後には56になるものは何でしょう。
 答えは東京23区の民間バス(都営バス、京王バス、および一部の路線をのぞく)をPASMOなどのICカードで乗車した時のバス運賃です。
 もう50年以上バスに乗ってきた。そして、バスが好きだ。家から歩いて10分と少しの三軒茶屋駅から渋谷まで田園都市線に乗ると5分で着く。そして、運賃も160円だ。ところが、僕は220円のバスを選ぶ。よほど、急いでいるときは別としても、週末以外は家を早めに出てバスで行く。電車のあの混み具合が、どうも好きでない。家のそばにあるバス停から渋谷までは20分。のんびり腰かけて外出する。とくに帰宅時にはほとんどがバスだ。
 品川から新幹線に乗るときなどは、目黒までバスで行き、そこからJR山手線を使う。できるだけ電車に乗る距離を少なくしたいのだ。目黒まではバスでは30分以上もかかるので時間的なロスは大きい。それでも、日ざしのあるときなら移動中に読書もできるので、文庫本をバスに持ち込む。そうでなければ、音楽やラジオを聞く。
 電車に乗っていると、微妙に周りに気を使わなくてはならない。混んでいれば、加速時、減速時に重力がかかり人々が動く。他人に身体がぶつかり、ぶつかられる。とくに最近はスマホをしている人が多く手すりにつかまらないので、動きは大きい。駅に着けば、車内の奥から無理やり下車しようとする人がいる。そして、乗車してくる人がいる。ときには大きく押される。押されて自分の重心が崩れれば、人を大きく押すことになる。人ごみの中だからと、身体をすべて周りに委ねるわけにはいかないのだ。とくに、身体が大きく中年の自分は他の人にできるだけ不快にしないように気を使わなくてはならない。こうして、電車に乗車しているあいだは、つねにちょっとした緊張が続く。

 バスは違う。たいてい空いている。そして1人がけシートに座ってしまえば、周りにとくに気を使うことなく移動時間を自分のために使える。本や音楽だけでなく、ときにはいろんなことを考えたりもする。思いついたアイデアをメモに取ることもある。バスが信号待ちをすれば、そこにある街路樹に四季の変化を見つけることもできるし、街の経済の空気も感じられる。
 のんびり景色も眺めながら移動できるバスは、子どものころから好きなのだ。そして、子どものころからバスに現金で乗ったことがほとんどない。ずーっと回数券で乗って、その後にはプリペイドカード。そして、いまはICカードである。理由はそのほうが小銭の用意も要らないし、割安だからだ。主な理由はもちろん後者。
 プリペイドカード時代は、5000円のバスカードを買うと5850円分使えた。有効期限はなく、約15%引きで乗れたわけだ。日常のことだから、この割引はうれしい。
 ところが、ICカード時代になってめんどうになった。現在220円のバス代はICカード利用で216円となるのだが、1000円使うごとにサービスポイントがつくように変わった。
 216円を5回使うと、5回目には1000円を超えるので100円分のポイントがつく。これは、乗車時にICカードをかざすと、ICカードの残額表示とともに「おまけがつきました!」とメッセージが表示される。そして、次に乗車するときはそのサービスポイントが自動的に使われて216円の運賃が116円となる。
 で、次は216円を4回使うと100円分のポイントがつく。216円が9回と116円が1回なので2060円となり、2000円を超えるからだ。そして、11回目の乗車は100円分引かれて、また116円となる。
これが、この文の初めのタネあかし。なるほど、1000円使うと100円分のおまけがつくんだから、だいたい1割(正確には9%くらい)のおまけがつくのかと思うと、この先のオマケはでかくなる。
 次の1000円、つまり3000円使うと、なんと160円のポイントがつく。これは15回目の乗車でつく(216円で13回、116円で2回で3040円)。16回目の乗車は216円から160円も引かれるので、56円でバスに乗れる。次の5回は216円に乗った後に4000円を超え160円のおまけで、22回目の乗車も56円。
 もう飽き飽きしたと思うけれど、もうちょっと付き合ってほしい。なぜなら、次の1000円を使うと、それは26回目の乗車となるのだが、なんとおまけが330円もつくのである。これはちょっとうれしい。ところが、この何回乗ったか(正確には、いくら使ったか)というカウントは、月末でチャラになる。翌月はまたゼロから始まるのである。
 いくらバス好きだといっても、1か月に26回もバスに乗ることはそれほど多くない。だから、この330円のうれしいオマケをもらえるのは、もらえるとしても月末だ。4000円を使った2回目の160円のおまけをもらってから、5回か6回乗ると330円のオマケがつく。
 なぜ、「5回」と断言できないかというと、このおまけシステムをわかりやすく説明するために、1回の運賃は216円としてきたが、実はそんなに単純ではない。私は都営バスにも京王バスにも乗る。前述したように都営バスと京王バスは1回のIC利用料金が206円、他にこのカウントシステムに、都電(165円)や東急世田谷線(144円、三軒茶屋と下高井戸をつないでいる路面電車もときどき使う)も入っているのである。さらに、都内だけでなく関東各県のバス運賃もカウントされる。浦和レッズの応援に行くために、浦和駅からスタジアムまでの臨時シャトルバス(410円)に乗ったりすると、もう、今月はいくら使っているのかなんてまったくわからなくなるのだ。それに、だいたい今月はバスに何回乗ったとか、きちんと覚えているわけがない。ということで、そろそろ330円のオマケだと思うと、月末の26日を過ぎたころから気持ちが騒ぐ。ICカードを乗車時にかざすたびに、オマケがつくのは今回じゃなかったのかと心がへこむ。
 30日や31日、その月の月末の最後の日に、さあ今度こそ330円のオマケがもらえるぞと思ってICカードをかざしたときに、おまけがつかないとわかるとちょっとくやしい。きっとあと「1乗車」足りなかったのだ。あと216円のバス代を使うと330円のオマケがつく。これは、どう考えてもくやしい。そして、来月になれば、またゼロからのカウントになってしまう。

 こうして、私の途中下車の旅は始まるのだ。バスの中から見ていて気になっていた蕎麦屋やレストラン、神社や寺。自分がいつも降りるバス停の先にある場所にもがぜん興味が湧いてくる。いつものバス停で降りないで、もうしばらくバスに乗ってみる。こうして、松陰神社、成城学園、二子玉川、桜新町……、いやそういうメジャーなところでなくても、ふらっと降りたバス停から降りて周りを30分くらいフラフラ歩いてみる。「もう1回、月末までにバスに乗りたい」というよくわからない動機で降りた場所に、思わぬ発見がある。
 今朝はまさか、ここに来るとは思ってなかったぜ。そう思って、短い途中下車の旅を終えて、もう一度バスに乗って戻る。バスに乗ると「オマケがつきました!」と表示される。でも、そのときには330円のおまけをもらった以上に、予定に入れてなかった小さな旅をした大きな満足感に包まれている。やっぱり、バスが好きである。

 

Buck number


佐藤治彦(さとう・はるひこ)
経済評論家、ジャーナリスト。
東京都杉並区生まれ。東京都立富士高等学校普通科卒業、慶応義塾大学商学部卒業、東京大学社会情報研究所教育部修了。大学卒業後、銀行員、金融誌記者、放送作家、経営コンサルタント会社勤務を経て独立。趣味は音楽鑑賞、海外旅行。

主な著作
「年収300万~700万円 普通の人が老後まで安心して暮らすためのお金の話」(扶桑社)
「普通の人が、ケチケチしないで毎年100万円貯まる59のこと」(扶桑社)
「お金をかけずに 海外パックツアーをもっと楽しむ本」(PHP)
「日経新聞を「早読み」する技術」(PHP)
「知識ゼロからの為替相場入門」(幻冬舎)共著
「ガイドブックにぜったい載らない 海外パック旅行の選び方・歩き方」(アスペクト)
「ガイドブックにぜったい載らない 海外パック旅行の選び方・歩き方  〜 さらに超役立ち旅テク編」(アスペクト)
「アジア自由旅行」(小学館)島田雅彦氏との共著
「ええじゃないか!」(オーエス出版)テリー伊藤氏との共著
「お金で困らない人生のための金融商品五つ星ガイド」(講談社)
「使い捨て店長」(洋泉社)編著……ほか多数