介護カフェのつくりかた

介護カフェのつくりかた

 ケアマネジャーとして介護現場で働くかたわら、対話によって新しい介護のカタチを考えていくコミュニティ「未来をつくるkaigoカフェ」を運営しています。
 これまで7年間のカフェ活動では、一般的な「介護」のネガティブイメージを払拭するような、“あったらいい介護”の実践者とたくさんの出会いがありました。
  介護業界内外から注目され、介護専門職も自らサービスを受けたいと思うような場(コミュニティ)づくりにチャレンジしている先駆者たち。最前線で始まっている「これからの介護」を紹介します。


Vol.2(2019.06.17)

我はむらびと。ひとりの青年として「むらづくり」に立ち上がる

糟谷明範さん(株式会社シンクハピネス代表取締役・理学療法士)を訪ねて

「自分の好きなことをする場所を府中市でつくっちゃおうということ。武蔵野台商店は楽しいことが実現できる場にしたいですね」
と糟谷さん
 一概には言えませんが、医療や福祉の専門職になると“資格”のアイデンティティを大事にして生きていくのが一般的で、専門性に磨きをかけることに熱心で、大変な勉強家であっても、医療や福祉を利用する人の実生活や気持ちにうとい、というのは残念ながら往々にしてあることです。
 健康指導や、生活指導をするような立場になると、年配の患者さんからも“先生”と呼ばれ、上から目線で教科書的にものを言うことに慣れてしまうと、もう病院や施設を離れても資格の鎧を脱いでコミュニケーションはとりにくい。すると市井に暮らすふつうの人の、生活上の困り事に寄り添うために磨いたはずの専門性が活かしきれないまま、専門家と市民の距離はますます遠のいてしまう場合も。
 しかし、医療や福祉の専門職の中にはそういった隔絶に違和感をもち、変えようと行動を起こす人が出てきています。
 そのような関係性は「おかしい」「間違っている」から変えようというより、自分自身がより健やかに、楽しく生きるために、資格や制度に縛られず、自らがイメージするケアのスタイルをつくっていこうとチャレンジを始めているのです。
 今回は、そんな若手経営者のひとり、糟谷明範さんを訪ねました。

 糟谷さんは理学療法士として病院などで勤務した後、独立し、2014年12月より生まれ育った東京都府中市を拠点に「むらづくり」をしています。

 むらづくり!? そうです。糟谷さんは「訪問看護・リハビリステーション」と、「居宅介護支援事業所」の運営といった医療専門職らしい経営もしているのですが、一方で、地元・京王線多磨霊園駅近商店街に「FLAT STAND」、武蔵野台駅中に「武蔵野台商店」という2件のカフェ兼多目的スペースを経営して、さまざまな市民交流イベントを仕掛けるなども行っています。
 どちらかが本業で、一方は副業としてやっているのではなく、全体が糟谷さん流の地域丸ごとケア=むらづくり、というお話をうかがいました。

 糟谷さんは、地域には医療・福祉に限らずさまざまな課題があり、それは“むらびと”のひとりとして糟谷さん自身の課題でもあると話し、同時に、課題の解消に役立つかもしれない多様な資源や強みをもった人や集団も“むら”の中にあるので、そうしたことがつながる拠点としてカフェ兼多目的スペースを運営しているというのです。

「今よりもっと気持ちよく、すこやかに暮らせる。そのために選べる選択肢が地域にあるのに、知らないまま困っている人が多いというのは、町で、医療専門職として働いていて感じることです。
 だからカフェは、誰でも、とくに目的がなく、暇つぶしでも利用できる場所。そんなところに何かが得意な人も集まって来ていて、『こんな選択肢があるよ』と発信しているのが大事です。
 聞くともなしに聞いていた人の耳に残って、いざというとき思い出してもらえるかもしれない。
 別の人は『自分の問題にはどんな選択肢があるだろう?』と問いをもつかもしれない。
 『私はこんな選択肢を知っている!』という声が上がるかもしれない。
 みんなが幸せを考えるきっかけになって、そういった先に、健康寿命が延びたり、社会保障費が減ったり、子どもの教育の問題が解決したりすると思っています。
 地域にさまざまな課題があっても、“むらびと”のいろんな専門家が一緒に“むらづくり”すればなんとかなっていくのではないかと。
 僕も御用のあるときはスパイダーマンみたいに一瞬、理学療法士になります(笑)」

 医療や介護など公的制度には限界があり、それだけで暮らしの課題をすべて解決していくことはできないといわれます。しかし、地域にあるさまざまな資源とつながっていれば、制度からは漏れてしまうニーズを満たし、人生をより豊かにすることができるでしょう。WHO(世界保健機関)の健康の定義でも「社会的なつながりの有無」は、健康の重要な要素のひとつと考えられています。
 そして、すでにそうしたことに気づき、多様な人たちが自然な形で混ざり合うコミュニティを求める人は増えていて、より多様な「場(集い場、居場所)」が必要とされています。
 糟谷さんに経営上の利益やリスクについて問うと、「キャッシュポイントは訪問看護事業で、カフェ&スペースの現状は投資。地場の、民間企業らしくやれることを形にしていく作業を続けていることで、お金には換えられない信用を得ている時期」と話しました。

「そもそも人が好きで、人の役に立ちたいという気持ちから理学療法士になって、『選択肢を知らない人たち』に気づいてしまったら、地域にはほかにどんな課題があるんだろう、もっと知りたいという気持ちが強くなり、やりたいことが増えてしまった(笑)」

 やりたいことをひとつずつ形にしていたら、地元行政や私鉄などとのコラボレーションも実現して、リスクを否定しないまでも「失敗しても死ぬわけではない。何かあったらあやまります」と、力んでいません。

「自分が60、70歳になったとき、自分たちがつくった場を使って楽しく生きられたらいいなと思っています」とも話した糟谷さん。
“地元に貢献したい”といった思いからの活動というのは、たとえば定年を迎えた方などが第二の人生として取り組むことはよく聞きますが、若い世代が積極的に地域課題に関わっていく姿勢をもち、行動しているのはより頼もしいと思いませんか?
 医療や福祉の範囲にとどまらず、地域丸ごとケアを志向している姿は、これからケア関連の仕事や、起業をめざす若者の目標にもなると思います。
 昨今、ケアに関わる専門職の間では「病院や施設だけが働く場所ではない」「地域で働き、貢献したい」といった新たな価値観が広がりつつあるのです。多職種・他業種と協働することも、志向されるようになってきました。自分ができることを身近な地域社会で発揮し、いきいき生きたい! というNPO的な思考をもった若者が増えていますので、その活躍にぜひ期待し、応援してください。
 ケアの専門職が主宰しているとは限りませんが、読者のみなさんの身近な場所でも、コミュニティの力を醸成し、市民がゆるくつながる機会をつくる活動は始まっているのではないかと思います。
 そうした活動に「楽しそう」「おいしそう」「リラックスできそう」などと感じたら、参加してみると、地域のさまざまな人と出会うきっかけにもなるのでは、と思います。


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高瀬比左子(たかせ・ひさこ)
NPO法人未来をつくるkaigoカフェ代表。
介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員。大学卒業後、訪問介護事業所や施設での現場経験ののち、ケアマネージャーとして勤務。自らの対話力不足や介護現場での対話の必要性を感じ、平成24年より介護職やケアに関わるもの同士が立場や役職に関係なくフラットに対話できる場として「未来をつくるkaigoカフェ」をスタート。介護関係者のみならず多職種を交えた活動には、これまで8000人以上が参加。通常のカフェ開催の他、小中高への出張カフェ、一般企業や専門学校などでのキャリアアップ勉強会や講演、カフェ型の対話の場づくりができる人材を育成するカフェファシリテーター講座の開催を通じて地域でのカフェ設立支援もおこなう。