介護カフェのつくりかた

介護カフェのつくりかた

 ケアマネジャーとして介護現場で働くかたわら、対話によって新しい介護のカタチを考えていくコミュニティ「未来をつくるkaigoカフェ」を運営しています。
 これまで7年間のカフェ活動では、一般的な「介護」のネガティブイメージを払拭するような、“あったらいい介護”の実践者とたくさんの出会いがありました。
  介護業界内外から注目され、介護専門職も自らサービスを受けたいと思うような場(コミュニティ)づくりにチャレンジしている先駆者たち。最前線で始まっている「これからの介護」を紹介します。


Vol.3(2019.08.29)

介護で進学支援スキーム
学生に「成長&奨学金返済」の機会を提供

奥平幹也さん(介護インターンシップ型自立支援プログラム ミライ塾代表)を訪ねて

「がんばろうという気持ちをもった人を全力で応援したい
と思ったんです」と奥平さん。
 介護業界が慢性的に人材不足といわれているのはご存知でしょうか? 超高齢社会となって10余年が過ぎ、ニーズが拡大する一方で、働く人の絶対的な不足と、介護の質の向上のための組織づくりや教育が間に合わない状態が長く続いています。
 一般向けのメディアでは「必要な介護を受けられない日が来る」といった不安を煽るような見出しを目にすることがあり、確かに担い手不足の現実はありますが、こうした社会課題にユニークな視点で解を見出す活動を起こしている人もいます。
 いわば新聞奨学生の介護版で、若者が介護の仕事をしながら大学や専門学校などへ通い、奨学金を返済するしくみをつくっているミライ塾。塾長の奥平幹也さんにお話をうかがってきました。

 そもそも奥平さんは不動産のコンサルティング会社に長く在籍していて、その仕事で主要都市の多数の介護施設に関わったことがきっかけで介護現場について知り、人材不足や組織・教育の脆弱さといった課題を見出したといいます。
「生活者のひとりとして自分の家族のことも考えたら、介護は決して他人事ではなくて、介護の課題は“業界の”というより『社会課題』だと思え、それならば自分も何かできることはないか? と考えるようになりました。
 そこでイメージしたのが、自分が過去にやっていた新聞奨学生を介護と組み合わせることです」

 奥平さん自身が新聞奨学生の制度を利用して大学を卒業し、学業と労働、奨学金返済の苦労をよく理解していたことが強みで、ミライ塾は「経済的事情で進学できない人の支援」である以上に、「本気でやりたいことがある人を支える」「学生時代に就労を通じて社会勉強もし、高いスキルを身につけて社会に出る」「奨学金は就学中になるべく返済」といったポジティブなスキームを提供しています。
 すでにミライ塾卒業生が4名、社会人となっていて、全員が就学期間中に介護の専門性を身につけましたが、就職はそれぞれがめざした別の業種に就いています。
「ミライ塾は介護業界の人材不足を補うことだけをめざしているのではありません。介護の経験と専門性で新たなものをつくりだす人を排出する、新たな人材育成のしくみです。
 だから、卒業後に介護業界に残ってくれとはいいません。むしろそのまま残るより、介護経験を他業界で生かし、さらに“今はない何か”をつくり出す人になってほしい。きっとなってくれると信じて支援しています。新しい福祉サービスを生み出す経営者になって、介護業界に戻ってきてくれる可能性もありますね(笑)。
 ある卒業生は“介護福祉士の資格をもったシステムエンジニア”で、超高齢社会の現実を経験的に知っている人材というわけです。
 未知数の可能性を感じるでしょう⁈ こういった若い人材がたくさん社会に出ると、みんなが生きやすい超高齢社会は夢じゃなくなる。
 介護の仕事をしながら学業を修めるのはラクではないけれど、新聞奨学生と比べたら生活リズムはつくりやすいし、奨学金返済も無理はないです。
 東京都内の介護施設で就労すると、週2回(平日1日・土日のいずれか1日)の夜勤で月16万程度の収入になります。もしも夜の居酒屋のバイトで同じぐらいの収入を得ようとしたら、週5、6で深夜までアルバイトして、生活のリズムがぐちゃぐちゃになってしまう。私自身の経験から働きながら学ぶことにもっと意味をもたせ、両立できるスキームをつくろうと思いました」

 現在、塾生は24人。受け入れ先となる法人は10数法人とのこと。奥平さんは「現在は、大学生が7割、専門学校生が3割程度です。専門学校はメディアやアニメーションなど人気の高い分野が目立ちます。将来、希望の仕事につけるとは限りませんが、やりたいことの勉強ができ、そのために頑張れるのは幸せなことです。ただし、もしも夢破れても他の職業で通用できる人材に育てなくてはならないので、社会人として大切なことを伝えています」と話します。
「介護ほど社会人基礎力が鍛えられる仕事はありません。コミュニケーション能力が磨け、チームで働く経験、課題に対して計画・実行・成果を出す経験ができます。一般的には、学業や普通のアルバイトでは気づけないことに気づかせてもらえるでしょう。
 たとえば、排泄ケア。最初はいやだなと思うのも当然です。ただ、ケアを受けている人はケアされていることをどう思っているのか? 人の世話になることを不甲斐なく思っているかもしれない。介護者を選べない利用者のほうがよっぽどストレスが強い。そんなふうに相手の気持ちを想像するようになると、あらゆるコミュニケーションが一方通行に終わらなくなる。こうした、いわばビジネスマインド修養に意識的に取り組めば、学生時代に人間力が高まり、その経験は社会で生きるはず。塾生にはそういった話を繰り返し伝えます」

 奥平さんは覚悟とチャレンジ意欲がある学生を見出し、社会人基礎力を高める教育が可能な介護施設を見出し、双方をマッチングさせ、就業中もフォローを続けます。課題を発見した場合、塾生のフォローだけでなくときには施設にも組織運営上の課題などに気づいてもらえるようなはたらきかけも行うとのこと。
 労働者斡旋をしているのではないと自負する奥平さんは事業性を最優先にはせず、理念を説いて学校や施設の開拓をし、塾生のサポートをしているのです。斡旋に終わらない奥平さんの姿から、塾生たちが学ぶことも多いのではないかと思います。
「たとえば介護現場は新入社員(塾生)にやり方(作業)を教えがちです。OJTの現場では『何時から何時までにこの仕事を終わらせて』といった教え方が多いでしょう。しかし本来はなぜそれをするのか、マインドを教える必要があるんです。
 塾生自身に『なぜ?』と向き合わせていくことが大切です。『今、何を感じている?』と尋ねるだけでいい。それだけで意識ができるようになるでしょう。
 そう頻繁に塾生に会うわけではないですが、何の疑問ももたない人にはなってほしくはないので、問いかけ続けています。
 いつでも『なぜ?』を追及できる人になれば、どこでも働ける人になります。ただ作業をして終わってしまう人は仕事で悦びを得にくいのではないでしょうか」
 ミライ塾の課題は知名度の向上による塾生数の拡大とのこと。当面の目標として安定的に年間30名以上の新塾生を迎え、2年目の塾生が1年目の塾生をサポートする体制をつくりたいとも考えているそうです。そしてどこか地方で、地方モデルの立ち上げも検討しているといいます。
 就労条件の地域格差といった課題はあると思いますが、地方の学生、大学(専門学校)、介護施設ともに有益なしくみですから、広がりを願います。
 また、奥平さんの塾生サポートの様子を聞いて、同様の動機づけやフォローは人材育成に欠かせないと思いました。介護に限らず、志をもって就職してきた若者の離職を防ぐには、その人自身が仕事の奥深さに分け入っていき、悦びを見出す助けが必要なのかもしれません。


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高瀬比左子(たかせ・ひさこ)
NPO法人未来をつくるkaigoカフェ代表。
介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員。大学卒業後、訪問介護事業所や施設での現場経験ののち、ケアマネージャーとして勤務。自らの対話力不足や介護現場での対話の必要性を感じ、平成24年より介護職やケアに関わるもの同士が立場や役職に関係なくフラットに対話できる場として「未来をつくるkaigoカフェ」をスタート。介護関係者のみならず多職種を交えた活動には、これまで8000人以上が参加。通常のカフェ開催の他、小中高への出張カフェ、一般企業や専門学校などでのキャリアアップ勉強会や講演、カフェ型の対話の場づくりができる人材を育成するカフェファシリテーター講座の開催を通じて地域でのカフェ設立支援もおこなう。