介護カフェのつくりかた 番外編

介護カフェのつくりかた 番外編
「だから介護はやめられない話」

ケアマネジャーとして介護現場で働くかたわら、対話によって新しい介護のカタチを考えていくコミュニティ「未来をつくるkaigoカフェ」を運営しています。
これまで14年間のカフェ活動では、一般的な「介護」のネガティブイメージを払拭するような、“あったらいい介護”の実践者とたくさんの出会いがありました。
今回はその番外編。介護職のみなさんが経験している、楽しく、ほっこりして、豊かになれる話を紹介します。


Vol.44(2026.8.24)

「母が好きだった味」を、もう一度。~暮らしの記憶をつなぐ~

今回は岩手県盛岡市で、定期巡回随時対応型訪問介護看護で働かれている千葉優希さんの実話に基づいたお話です。

* * *


 先日、ご逝去された利用者のご家族から、私たちのもとへご相談がありました。
「母がよく食べていた料理を、もう一度作ってみたいんです」
 その方が自宅で暮らしていた頃、私たちは日々の訪問の中で食事づくりにも携わっていました。特別な日のごちそうではありません。一般的な家庭の食卓に並んでいるような、いつもの料理です。

 しかし、「突然亡くなってしまったお母さんを少しでも感じたい」という娘さんの思いを私たちはくみ取って、当時、食事づくりに携わっていたスタッフが、記憶をたどりながらレシピを書き起こしました。

「この料理をよく召し上がっていたな」
「こんな味付けにしていたな」
「これは好きで、よく食べてくださっていたな」
 一緒に過ごした日々を思い返しながら、覚えている調理方法やちょっとした工夫を、ひとつひとつ手書きで残していきました。
 また、お渡ししたレシピには、料理のイラストとともに、調理するときのちょっとしたポイントも添えられています。
 たとえば、茶碗蒸しのレシピには「なめらかにするには火加減が大事です」というメモも。ただ材料や手順を書き残すだけではなく、ご本人から生前に教えて頂いたことも書いてあります。

 料理は不思議です。 香りや味から、そのときの表情や会話、時間まで思い出すことがあります。私たちの訪問の中の一場面だった食事づくりも、ご家族にとっては、かけがえのない「その人らしさ」の一部でした。

「お盆には、御膳に入れてお供えしようと思います」
 今年のお盆。お母さんが好きだった料理が、もう一度つくられ、御膳に並ぶ。その料理をつくる時間も、その香りも、その味も、きっとお母さんとの日々を思い出す時間になるのだと思います。

 そして、私たちが日々の訪問の中で何気なくつくっていた一皿が、時を越えて、ご家族と大切な人をつなぐものになったことをとても嬉しく感じました。介護が終わっても、残るものがあります。
 介護は、食事や入浴、排泄など、目の前の生活を支えることだけではありません。「何が好きだったのか」「どんなものをおいしそうに食べていたのか」「どんな毎日を過ごしていたのか」、そんな何気ない日常を一緒に積み重ねていくことも、私たちの大切な役割です。

 そして、その関わりの中で生まれた記憶は、その方が旅立たれたあとも、ご家族の中で続いていくことがあります。好きだった料理。いつもの味。見せてくださった表情。何気なく交わした「おいしい」の一言。

 日常の中では小さく見えるひとつひとつが、振り返ったときには、かけがえのない思い出になります。私たちはいつも何かをお手伝いするだけではありません。利用者の方から、長い人生の中で培ってきた知恵や工夫を教えて頂くことのほうがずっとずっと多いのです。

 だからこそ最期まで、その方の「好き」を大切にしていただくこと。そして、その方が生きた日々を、ご家族のこれからへつないでいくこと。そんな関わりをこれからも大切にしていきたいと思います。
 今年のお盆、お母さんの好きだった味と一緒に、たくさんのあたたかな思い出がご家族のもとへ帰ってきていることを願っております。

* * *

 日々の食事づくりも、そのときはひとつの生活支援かもしれません。でも、そこで知った好きな味やちょっとしたこだわり、一緒に過ごした時間が、残されたご家族にとって大切な記憶になっていく。
 その人の暮らしを知り、その人らしさに触れ、一緒に過ごした時間を積み重ねる。その積み重ねが、いつか誰かの心を支えるものになる。千葉さんの経験から、そんな介護のあたたかさを改めて感じました。


介護カフェのつくりかた 番外編 Back number

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高瀬比左子(たかせ・ひさこ)
NPO法人未来をつくるkaigoカフェ代表。
介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員。大学卒業後、訪問介護事業所や施設での現場経験ののち、ケアマネージャーとして勤務。自らの対話力不足や介護現場での対話の必要性を感じ、平成24年より介護職やケアに関わるもの同士が立場や役職に関係なくフラットに対話できる場として「未来をつくるkaigoカフェ」をスタート。介護関係者のみならず多職種を交えた活動には、これまで8000人以上が参加。通常のカフェ開催の他、小中高への出張カフェ、一般企業や専門学校などでのキャリアアップ勉強会や講演、カフェ型の対話の場づくりができる人材を育成するカフェファシリテーター講座の開催を通じて地域でのカフェ設立支援もおこなう。