介護カフェのつくりかた

介護カフェのつくりかた

 ケアマネジャーとして介護現場で働くかたわら、対話によって新しい介護のカタチを考えていくコミュニティ「未来をつくるkaigoカフェ」を運営しています。
 これまで7年間のカフェ活動では、一般的な「介護」のネガティブイメージを払拭するような、“あったらいい介護”の実践者とたくさんの出会いがありました。
  介護業界内外から注目され、介護専門職も自らサービスを受けたいと思うような場(コミュニティ)づくりにチャレンジしている先駆者たち。最前線で始まっている「これからの介護」を紹介します。


Vol.1(2019.02.18)

働いて報酬を得るデイサービスで、
「お世話する」のではない介護のかたちをつくる

前田隆行さん(「DAYS BLG! NPO町田市つながりの開」理事長)を訪ねて

DAYS BLG!にて。「働いてお金をかせぐのが目的ではなく、
それを通じて社会とつながることが目的です」
(前田さん)
「介護」というと、自力で生活や外出をすることが困難になった人がお世話を受ける。そんなイメージをもっている人が多いでしょうか。
 そのため、介護をする立場になったら〝大変〟。そして、なるべくなら介護を受ける立場にはなりたくない。そんなふうに思う人が少なくないのかもしれません。
 しかし「人生100年時代」といわれるようになり、多くの人が人生のどこかで介護をする立場、受ける立場になるのが現実です。
 ならば、「ただ大変で、自分は受けたくないような介護」ではなく、介護をする人も、受ける人も豊かな時間を過ごし、人生の醍醐味を分かち合うような、そんな介護があったらいいと思いませんか?
「そんなの無理でしょ!」
 ネガティブイメージをもつ人はいぶかしく思うかもしれませんが、もうあります! 始まっています。そこで、連載初回にふさわしく、認知症の人たちの就労支援を中心とした介護の実践者、前田隆行さんの活動を通じて、ひとつの「これからの介護」のかたちをお伝えします。

 なぜ前田さんの活動が「初回にふさわしい」のでしょうか?
 それは、「社会の中で役割をもって働き、人の役に立ち、結果として報酬を得たい」「労働で汗して、くたびれて、ちょっとグチったりもして励まし合う仲間を得たい」「そうした活動から充実感を得て、生きたい!」という人たちの〝自然な欲求〟に向き合い、サポートするという、ありそうでなかなかない支援を「デイサービス」の事業としておこなっているからです。
「デイサービス」とは介護保険のサービスで、その多くは、介護を必要とする人が日中、機能訓練(リハビリ)やレクリエーション、食事、入浴などのサービスを受けて過ごす場所です。
 もちろんそのような居場所が必要な人、心地よいと感じる人にはそれでよいのですが、中には、多少のサポートを必要としていても社会の中で働き、役に立ちたいと思う人、年齢にかかわらず、趣味やレクリエーションは生きがいにならない人もいるのです。

 しかし、病気や障害をもつと同時に、本人の意思にかかわらず「社会活動が困難な人」「お世話を受ける人」として扱われてしまうことは多く、社会とのつながりが断たれてしまうことは往々にしてあります。
 とくに認知症は「何もわからなくなる、できなくなる」などと誤解されていることも多く、原因となった病気や障害の状態について、身近な人にさえ正しく理解されにくいことが少なくありません。  
 しかし、前田さんは、病気や障害があっても、その人がしたいこと、意欲的にできることをともに考える支援者となり、地域や企業とのつながりを具体化していくことを目的とした「デイサービス・DAYS BLG!」をつくりました(2012年)。
 ディーラーの車の洗車や、地域のコミュニティー情報誌のポスティング、公共の場の装飾等に用いられる小物のハンドメイドなど、DAYS BLG!が請け負った仕事に、デイサービス利用者(以下、メンバー)が就き、報酬を得ています。

 東京町田市成瀬町の住宅街の一角にある、一見福祉施設とはわからないような普通の住居を改装してつくられたデイサービス、それがDAYS BLG!です。そこではメンバーの方が生き生きと働いています。
 朝の10時になると、テーブルを囲んで1日の過ごし方を決めていきます。前田さんはホワイトボードに、洗車、情報誌のポスティング、デザートづくりなどの「仕事」を書き出し、メンバーのみなさんに選んでもらいます。
「就労によって地域社会とつながり、ともに働く仲間と絆ができます。報酬によって新たな夢が生まれ、その夢をかなえていく基盤にもなる。僕や職員も、メンバーみなさんとともにそうやって生きているのです」
 前田さんは、仕事の遂行や、ここ(DAYS BLG!)での過ごし方について、あまり世話を焼かないし、その必要もないとも言います。
「大事にしていることは、あまり介入しないことです(笑)。だから僕らが一方的に管理するのでも、お世話するのでもなく、対等で互いにツッコミ合う、楽しい日々です(笑)。小さな事業所ですが、ここも、家庭とは違う顔を見せ合う、ひとつの社会ということです」

 寿命が伸び、医療が進歩して、人生の半ばから障害とともに生きるなどという状況は誰にでも起こり得る。それは私たちも他人事ではありません。
「だから、そうなっても生きづらくないように、こうした仕組みは全国に広げたいと思って、着々準備しています」
 取材時、DAYS BLG!は全国3事業所(東京都・町田、八王子、青森県・盛岡)があり、前田さんは「全国各地で開設を待っている人がいるから、広げなければいけない」と話しました。
 前田さんが広げようとしている仕組みは、現行の介護保険制度の枠に収まりきらない感もありますが、本人の意思に添い、心・体(機能)のリハビリにもなって、本人主役の人生を取り戻す支えを提供する仕組みで、就労支援はその一部とのことです。  

 病気や障害による生活(仕事)への影響は一人ひとり違います。それは固定化されるものではなくて、その後の体験、環境によって変化していくでしょう。そのときどき、変わっていく状態に目を配り、意思に耳を傾け続けることが、本来、介護にもっとも望まれていることかもしれません。  
 病気や障害と共に生きるとき、もっともつらいことは孤独になってしまうことです。それを防ぐには、本人の思いを聞き、勝手な分別をせずに受け止める人が必要なのです。
 取材時、前田さんと居合わせたメンバーの方の会話を耳にしたところ、「介護をする人、される人」という雰囲気は微塵もなく、信頼関係がうかがい知れました。
 利用する人にとって居心地がいい場。本来は当たり前なことですが、事業所都合を優先するとむずかしいことを前田さんは守っています。

 そんな前田さんがDAYS BLG!利用の条件として唯一、決めていること。それは「必ず利用希望者本人がDAYS BLG!を見学、体験参加して通所を決める」ということ。「家族やケアマネジャーだけが見て決めるのはNG」ということです。
 まだ介護に無縁な方は「子どもの幼稚園じゃあるまいし、本人が選ぶのは当たり前だろう」と思われるかもしれませんが、現実には、高齢の方や障害のある方の介護サービス利用において本人の意思が確かめられず、家族の意思=本人の意思として、すり替わってしまうことは間々あります。
 ご本人も、周囲の人の支援を必要とすることを「やっかいをかける」と思い、「わがままを言ってはいけない」など、極端に謙虚に考えてしまう場合も。
 しかし本来、介護は利用者本位が原則です。仮にも人の尊厳を守るべき福祉の分野で、人権侵害とも言える手前勝手(家族本位、事業所本位)はあってはならないことでしょう。「これからの介護」は、介護をする人も受ける人も、利用される方の尊厳が侵されることがないよう、意識的になる必要があるかもしれません。
 利用される方自らが意思を表し、必要なサポートを求め、選ぶ。それが〝普通〟になると、みなにとって暮らしやすい社会になるでしょう。介護の専門職としては、意思決定や選択のサポートをしっかりしていきたいと改めて思いました。



高瀬比左子(たかせ・ひさこ)
NPO法人未来をつくるkaigoカフェ代表。
介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員。大学卒業後、訪問介護事業所や施設での現場経験ののち、ケアマネージャーとして勤務。自らの対話力不足や介護現場での対話の必要性を感じ、平成24年より介護職やケアに関わるもの同士が立場や役職に関係なくフラットに対話できる場として「未来をつくるkaigoカフェ」をスタート。介護関係者のみならず多職種を交えた活動には、これまで8000人以上が参加。通常のカフェ開催の他、小中高への出張カフェ、一般企業や専門学校などでのキャリアアップ勉強会や講演、カフェ型の対話の場づくりができる人材を育成するカフェファシリテーター講座の開催を通じて地域でのカフェ設立支援もおこなう。