介護カフェのつくりかた

介護カフェのつくりかた

 ケアマネジャーとして介護現場で働くかたわら、対話によって新しい介護のカタチを考えていくコミュニティ「未来をつくるkaigoカフェ」を運営しています。
 これまで8年間のカフェ活動では、一般的な「介護」のネガティブイメージを払拭するような、“あったらいい介護”の実践者とたくさんの出会いがありました。
  介護業界内外から注目され、介護専門職も自らサービスを受けたいと思うような場(コミュニティ)づくりにチャレンジしている先駆者たち。最前線で始まっている「これからの介護」を紹介します。


Vol.5(2020.1.7)

これからの“緩和ケア”
元気なうちに知っておきたい町場のケア

西智弘さん(一般社団法人プラスケア代表、緩和ケア医)を訪ねて

「僕らの活動も昨日よりは今日うまくいけばいいと思い、日々試行錯誤しながらそのプロセスがよりよくなればいいと思っています」
と西さん。
 国立がん研究センターがまとめた推計「生涯でがんにかかる確率」から日本人の2人に1人が生涯のどこかでがんになるとされ、国の人口動態統計から日本人の3人に1人ががんで亡くなるとされています。
 そして、がんにならなかったとしても、誰もが何らかの病気やけが、中途障害などで、医療や支援(介護)が必要になるのを避け難いでしょう。
 ただ元気なときにはそういったことをあまり考えません。毎日を生きるのに精一杯ですし、未来は誰にもわからないので、考えすぎるのもあまり意味はないですね。
 とはいえ、いざというときにも自分らしく、いのちを生き切るために、頭の隅に入れておくといいことがあります。今回は緩和ケア医の西智弘さんの活動を紹介しながら、いざというときの支えについて知っておくとよいことをまとめます。

 緩和ケアというと病気が進んだがん患者のための医療的ケアだとイメージする人もいるかもしれませんが、それは緩和ケアの一部にすぎません。広い意味で緩和ケアの対象となるのはがん患者に限りませんし、ケアの内容は激しい痛みのコントロールやスピリチュアルケアなどに限らないのです。
 たとえば「がんとともに生きる時代」などとも言われる通り、がんの診断がついた後も続く人生上の意思決定にも支えが必要です。病気によって複雑になる生活やお金の悩み、治療法を選ぶうえでの迷い、治療しながら働く苦労など、病院や行政の相談窓口、家族・友人などには話しにくいことも「話せる場面」があることが大変重要な緩和ケアの一面になります。
 場合によっては問題を解決するために適切な制度やマンパワーとつなげるなどの支援が必要になりますが、ときとして“スナックのママ”みたいに是も非もなく話を聞き、自分と向き合って答えを出そうとしている患者のそばにいるような、支援らしからぬ支援が人を支えます。
 このようなケアは大いにソーシャルワーク(対人支援職)と重なります。
 そしてケア(医療・介護)の専門職でなければできないということでもありません。アメリカ・アラバマ州には「レイナビゲーター」という仕組みがあり、ケアに関する知識を得た一般の人が闘病中の人に伴走するような支援をしています。日本も超高齢社会となって久しく、支援を必要とする人が増大することを考えれば、同じような仕組みをつくる必要性に迫られているでしょう。

 それはさておき、そのような広い意味での緩和ケアの場づくりをめざし、白衣を脱いで町に出て、ことさら緩和ケアの看板を掲げずに活動している緩和ケア医が西智弘さんです。西さんは神奈川県川崎市の市立病院で腫瘍内科・緩和ケア内科医として勤務しながら、一般社団法人プラスケアを設立。2017年から「暮らしの保健室」事業など町場でのケアを実践しています。
「暮らしの保健室」は健康や病気に関する話もできるカフェで、詳細はウェブサイト(https://www.kosugipluscare.com) に委ねますが、ローコストで持続可能な運営を実現するため、常設店ではなく、民間から業務委託を受け、川崎市近郊で転々と開催する出張型で運営しています。
 西さんは「町の中に緩和ケアがあればいい」と言い、
「生きづらさや苦しみを『暮らしの保健室』のような場で話せるようなら話してくれればいいし、話さなくてもいい。
 僕らの活動も昨日よりは今日うまくいけばいいと思い、日々試行錯誤しながらそのプロセスがよりよくなればいいと思っている。プロセスに視点を置いている」と話します。
 一方で西さんは患者自身が主体者である医療(医療の民主化)を志向し、それを医師として支えようとしていて、併行して医療者の働き方に変化を起こそうともしているのです。
 既に潮目は変わっていて、医療に関する意思決定を自分でしたい(医者任せにしない)人が増える傾向にあります。2018年に亡くなった俳優・樹木希林さんの言葉「死ぬときぐらい好きにさせてよ」や晩年の生き方が、多くの人の共感を得たのを覚えている方も多いでしょう。そのような人にとっては西さんのような考えの医療の専門家が頼りになるアドバイザーになります。
 そして、それは医療者にとっては病院の外での新しい働き方になります。需要と供給が成立し、地域の中の新しいビジネスモデルとなっていくだけでなく、今後、先述の「レイナビゲーター」の育成といった広がりも期待されます。
 西さんは自ら“過程にある”としてほかにも「社会的処方研究所」などユニークな活動も行っています。社会的処方とは体力や気力、意欲が低下している人に、薬ではなく地域とのつながりを処方するという、イギリスですでに行われている取り組みです。西さんは暮らしの保健室がよろず相談の一環で介護予防になるような「高齢者と地域のマッチング」といった社会的処方に取り組むことを考えているのです。

 いざというときには問題解決型の支援とは別に、伴走型支援が必要になることがある。そのような支えを求めることが、自分自身としっかり対話し、自分らしく生き切るのに役立つことを覚えておいてください。
そして可能であれば元気なときにこそ、自分の身近にある社会資源を探しておくといいかもしれません。「暮らしの保健室」のような場は全国で増えてきています。身近な場を探してみませんか? 闘病経験、介護経験がある方は、そのような場で支援者のひとりとして活動することも、自分自身の未来への備えになると思います。


Back number


高瀬比左子(たかせ・ひさこ)
NPO法人未来をつくるkaigoカフェ代表。
介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員。大学卒業後、訪問介護事業所や施設での現場経験ののち、ケアマネージャーとして勤務。自らの対話力不足や介護現場での対話の必要性を感じ、平成24年より介護職やケアに関わるもの同士が立場や役職に関係なくフラットに対話できる場として「未来をつくるkaigoカフェ」をスタート。介護関係者のみならず多職種を交えた活動には、これまで8000人以上が参加。通常のカフェ開催の他、小中高への出張カフェ、一般企業や専門学校などでのキャリアアップ勉強会や講演、カフェ型の対話の場づくりができる人材を育成するカフェファシリテーター講座の開催を通じて地域でのカフェ設立支援もおこなう。