介護カフェのつくりかた 番外編

介護カフェのつくりかた 番外編
「だから介護はやめられない話」

ケアマネジャーとして介護現場で働くかたわら、対話によって新しい介護のカタチを考えていくコミュニティ「未来をつくるkaigoカフェ」を運営しています。
これまで13年間のカフェ活動では、一般的な「介護」のネガティブイメージを払拭するような、“あったらいい介護”の実践者とたくさんの出会いがありました。
今回はその番外編。介護職のみなさんが経験している、楽しく、ほっこりして、豊かになれる話を紹介します。


Vol.42(2026.3.17)

「アチっ!」

 今回は、八ヶ岳山麓で、ケアマネジャーをしながら介護保険外のお仕事もされている白倉明さんの実話に基づいたお話です。

* * *

「アチっ!」
 ふだんはあまり言葉を発せず、表情も乏しいと聞いていたおばあちゃんが急に発した言葉だった。

 コロナ前に話は遡る。  僕は八ヶ岳の南麓で兄が管理人をつとめる通称「裏山」で“農と介護とアウトドア”をベースに誰でも気軽に過ごせる場をつくるべくケアマネをしながら日々試行錯誤していた。

 数年前の夏だった。いつものように県内・県外から「初めまして!」「やあ、また来てくれてありがとう♪」など、さまざまな方が集い、火を焚いてわいわいやっているところに、電話が鳴った。
「いまから遊びに行ってもいい?」
 看護小規模多機能に勤務する親友からの着電だった。利用者様の外出先として思いついたとのこと。
“利用者よ、外へ出よう”と寺山修司さんの本のパクリのような文面だが、“アウトドア介護”をめざす僕にとっても、願ってもないリクエストだった。

 利用者のみなさんは、県外からの移住、地元でこの地を守り育んできた大先輩などさまざまだ。この事業所の利用者の方たちには田植えや稲刈り時に足を運んでもらったり、もともと馴染みがあった。

 さて、この日は親友ヒデさんの発案でドラム缶風呂を焚いていた。せっかく来てくれるのだから、バーベキューの食べ物はもちろん、何かおもてなしをしたい。そう考えた矢先に、「そうだ! 足湯をやろう!!!」数人寄れば文殊の知恵? 次々と実行へのアイデアが浮かぶ。

 結果的には廃園となった娘が通っていた幼稚園から譲り受けた給食のパン配給のためのブリキの箱が使われることになった。

 焚火で湯を沸かし、到着を待つ。
「うわぁ~!」「こんにちわぁ!」
 大型車から降りてくるや満面の笑み、物珍しそうなお顔が次々とあらわれる。職員に付き添われての方、車いすの方。

「どうぞ、めしあがって~」
 と案内すると、昼食を食べた後とは思えない勢いで焼いた肉をほおばり、野菜や誤嚥しないよう小さくちぎったおもちなどを口にされたあの方々の表情は、写真とともに脳裏に焼きついている。いい思い出♪

 さあ、いよいよ湯が沸いた。沸騰した熱々のお湯に真水を足して温度調整をしていく。
「足湯ですよ~。入りたい方はどうぞ~」
 と声掛けし、次々と裸足になり、ブリキ缶の中に足をドボン! とされてゆく。

 さあ、このタイトルにあげた方の順番が来た。職員に付き添われ足を入れたおばあちゃんが「アチっ」と発したのだ。

 職員がまずびっくりしていた。
「しゃべったよ~!!」
 職員の方々が嬉しそうにされていたのが強く印象に残っている。聞くと、ふだんは言葉を発しない方のようだった。

 あのときの本人のなんとも照れくさそうなお顔、職員のみなさんの嬉しそうな表情、それを見守る参加者さんたちの暖かな笑顔、涙ぐむ人も出て。なんとも言えないあたたかな空気が青空のもとに流れた。幸せなひとときだったなぁ。

 限られた時間、空間の中で、出来うる限りのことをする。サービスを提供する。できるだけ季節感を味わえるような工夫をする。僕もデイサービスや小規模多機能型居宅介護施設に勤務していたころに、季節の塗り絵や工作、体操などに携わってきた。

 お花の塗り絵をする代わりに、実際にそのお花を見れないだろうか?
 体操をする代わりに外を散歩できないだろうか?

「きょうは、いいお天気ですよ~」と声をかけ、想像することを。
 実際に、外へ出て一緒に体験・経験できないだろうか?
 いや、そうしたい。
 これが現在も僕の活動の原動力になっている。


【アウトドア介護】
 地元の利用者様が日々営まれてきた田畑山林の日々、この地に憧れて都会から移住されてきた方が楽しまれてきた活動を、できうるかぎり全力で応援し、ともに楽しみたいと思う。そんな夢を描きながら、ケアマネとして、また介護保険外の外出や生活お手伝いサービスに細々と取り組みながらの、日々。

* * *

 足湯に入ったおばあちゃんの「アチっ!」という一言には、言葉以上の力があります。人は、心が動いたときに思わず言葉や表情がこぼれるのだと思います。白倉さんの実践は、「外へ出る」「自然の中で過ごす」というシンプルな体験が、人の力を引き出すことを教えてくれます。
 介護カフェでもよく話題になりますが、ケアとは特別なことではなく、一緒に時間を楽しむことの中にあるのかもしれません。この物語は、私たちにもっと自由に、もっと楽しくケアを考えていい、という勇気を与えてくれる素敵な実践だと感じました。


介護カフェのつくりかた 番外編 Back number

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高瀬比左子(たかせ・ひさこ)
NPO法人未来をつくるkaigoカフェ代表。
介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員。大学卒業後、訪問介護事業所や施設での現場経験ののち、ケアマネージャーとして勤務。自らの対話力不足や介護現場での対話の必要性を感じ、平成24年より介護職やケアに関わるもの同士が立場や役職に関係なくフラットに対話できる場として「未来をつくるkaigoカフェ」をスタート。介護関係者のみならず多職種を交えた活動には、これまで8000人以上が参加。通常のカフェ開催の他、小中高への出張カフェ、一般企業や専門学校などでのキャリアアップ勉強会や講演、カフェ型の対話の場づくりができる人材を育成するカフェファシリテーター講座の開催を通じて地域でのカフェ設立支援もおこなう。